装飾性の欠片もない部屋に足を踏み入れ、イブキは違和感に首をかしげた。
部屋の主は飽きもせずソファーでコーヒーを飲んでいるし、薬草や非常食も順調に育っているし、ラックには本がどっさり置かれている。
「……ああ、なるほど」
答えを見つけたイブキは、ローテーブルにオレンジケーキを置いた。
出来たてなのか、オレンジの爽やかな香りとバターの香ばしさがふわりと漂う。
「何のつもりだ?」
言葉にしなかったが、イブキには続く声がハッキリと聞こえた。
「そう、アンタは甘いモノが好きじゃないよね」
きれいな上辺をまとった笑みを目にして、クノスはしばらく考え込む。だが、原因など1つしか思い当たらなかった。
「人付き合いが良くない割に、早耳だな」
「アンタが派手すぎたのさ」
即座に言い返されたクノスは、黙って肩をすくめた。
「それで、これは嫌がらせか?」
来客など滅多に来ないのだから、消費するのはクノスしかいない。
「さて、どうだろうね。案外、出番が来るかもしれないよ?」
占い師のような曖昧さで、イブキは笑みを浮かべる。だが、目は笑っていない。
「気に入らないか?」
何が。それを改めて口にされなくても、イブキには伝わった。
というより、それしかあり得ないという方が正しいだろう。
力を抜き、イブキは持参したカップに珈琲を注いだ。
「覚えているなら、それで良いよ。アンタがどんな選択をしようと、契約だけは果たしてもらわないとね」
「相変わらず、それだけが大事なんだな」
クノスの顔にからかいが混じると、イブキも即座にニヤリと返す。
「アンタは、大事なモノが増えたようだね」
「そうだな。楽しませてもらっている」
ふてぶてしく答えるクノスに、今度はイブキが肩をすくめた。
「その減らず口に、激甘ケーキを突っ込みたくなるね」
そう言って珈琲を飲み干すと、クノスに背を向ける。
「ああ、そういえば」
ドアノブに手を掛けたところで立ち止まり、イブキはクノスに振り返る。
「アレ、どんな内容だったんだい?」
「開戦を思いとどまらせるため敵方の娘が変装し、王に寝物語を聞かせる説話集だ」
「説話集ねえ。開戦を思いとどまらせるためってことは、心に訴えかける内容だったのかい?」
「いや、佳境にはいったところで終わりにし、翌晩までじらす戦法だ」
「なるほど、安眠妨害を目的とした物語なんだね」
疑問も消えてスッキリしたのか、イブキは楽しそうに部屋を去る。
そして、部屋には静寂が戻った。
滑らかな毛並みに頬をくすぐられて、目が覚める。
「黒蜜、おはよう!」
『ふ…みぅ』
寝ぼけ眼の黒蜜をぎゅっと抱きしめ、おはようの挨拶をする。最近くわわった朝の日課だ。
「ニョッキもおはよう。よく眠れたかー?」
布団を持ち上げ足下に丸まっているブタぬいぐるみのニョッキにも挨拶をする。
『きゅっ、きゅー』
元気な緑饅頭の枝豆は、もうすっっかり目が覚めているみたいだ。
全長50センチのねずみ抱き枕の甘酒に、体当たりしては弾かれるのを楽しんでいた。
「枝豆、弾みすぎて壁にぶつかるなよー?」
『きゅーっ』
わかった!とでも言うように、枝豆はぴょんっと飛び跳ねる。
「さて、着替えるかー」
クローゼットの扉を開くと、ポトリと動くネズミぬいぐるみオムレツが落ちてきた。
「おむれつ、また高いところに登って降りられなくなってたのか」
おむれつは、囓るのと登るのが大好きな高所恐怖症で、高いところの登っては硬直してるんだ。
おむれつを抱き上げると、くりっとした目でオレを見上げ、手を囓られた。
「こらこら、囓るなら煮干しをかじれって。ほら」
煮干しがはいった皿の前におむれつを下ろすと、
ぺしっ
ふくらはぎをしなやかな尻尾に叩かれた。
「おこげ、おはよう!」
わりと縄張り意識がしっかりしているおこげは、自分の食事中に他のヤツが近づくのを嫌うんだよな。
『……』
頭を撫でようとしたら、スルリと逃げられた。
「相変わらず、おこげの動きは優雅だなー」
ふぃっと避ける動作さえ優雅で、本当に美ネコなんだ。
「っと、コロッケ。ちゃんと起きてご飯を食べるんだぞー」
『……な』
寝入りそうに猫缶を食べていたコロッケは、小さく返事をしてくれる。
おこげと違って逃げないので、コロッケの頭を撫でまくる。ついでに、愛らしいネコ手も。
「あ、寝ちゃった」
気持ちよさそうな顔をしているし、起こすのも可哀想か。お腹が空いたら目も覚めるよな。
「じゃ、オレも朝ご飯に行ってくるなー」
長老木や笑うコスモス君にも挨拶をすませ、部屋を出た。
「黒蜜、おはよう!」
『ふ…みぅ』
寝ぼけ眼の黒蜜をぎゅっと抱きしめ、おはようの挨拶をする。最近くわわった朝の日課だ。
「ニョッキもおはよう。よく眠れたかー?」
布団を持ち上げ足下に丸まっているブタぬいぐるみのニョッキにも挨拶をする。
『きゅっ、きゅー』
元気な緑饅頭の枝豆は、もうすっっかり目が覚めているみたいだ。
全長50センチのねずみ抱き枕の甘酒に、体当たりしては弾かれるのを楽しんでいた。
「枝豆、弾みすぎて壁にぶつかるなよー?」
『きゅーっ』
わかった!とでも言うように、枝豆はぴょんっと飛び跳ねる。
「さて、着替えるかー」
クローゼットの扉を開くと、ポトリと動くネズミぬいぐるみオムレツが落ちてきた。
「おむれつ、また高いところに登って降りられなくなってたのか」
おむれつは、囓るのと登るのが大好きな高所恐怖症で、高いところの登っては硬直してるんだ。
おむれつを抱き上げると、くりっとした目でオレを見上げ、手を囓られた。
「こらこら、囓るなら煮干しをかじれって。ほら」
煮干しがはいった皿の前におむれつを下ろすと、
ぺしっ
ふくらはぎをしなやかな尻尾に叩かれた。
「おこげ、おはよう!」
わりと縄張り意識がしっかりしているおこげは、自分の食事中に他のヤツが近づくのを嫌うんだよな。
『……』
頭を撫でようとしたら、スルリと逃げられた。
「相変わらず、おこげの動きは優雅だなー」
ふぃっと避ける動作さえ優雅で、本当に美ネコなんだ。
「っと、コロッケ。ちゃんと起きてご飯を食べるんだぞー」
『……な』
寝入りそうに猫缶を食べていたコロッケは、小さく返事をしてくれる。
おこげと違って逃げないので、コロッケの頭を撫でまくる。ついでに、愛らしいネコ手も。
「あ、寝ちゃった」
気持ちよさそうな顔をしているし、起こすのも可哀想か。お腹が空いたら目も覚めるよな。
「じゃ、オレも朝ご飯に行ってくるなー」
長老木や笑うコスモス君にも挨拶をすませ、部屋を出た。
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チョコっと大作戦のパーティで、マシロがオレの一日ご奉仕券を当てたんだ。
奉仕内容は、メイドでも執事でも子犬でもご隠居でもなんでも良かったけど、マシロの希望は5歳児だった。
正直、オレが5歳児になったらご奉仕どころじゃないと思うんだけど、まあマシロが良いって言うなら問題ないよな!
どうせなら、旨いものを食わせてもらえると良いなー。
奉仕内容は、メイドでも執事でも子犬でもご隠居でもなんでも良かったけど、マシロの希望は5歳児だった。
正直、オレが5歳児になったらご奉仕どころじゃないと思うんだけど、まあマシロが良いって言うなら問題ないよな!
どうせなら、旨いものを食わせてもらえると良いなー。
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陽に透けて光る髪がきれいで、つい手を伸ばした。
ふわり。柔らかい触感がなんだか嬉しくて、もっとつかんでみる。
「髪がどうかしたか?」
上を向けば色味の違う瞳が一対、こちらを見ている。視線を反らさない、大好きな目だ。
「クーの髪って、フワフワだな!」
「そうか」
クーは、笑いもうなずきもしない。
「うん、そうだぞ。柔らかくて気持ちいいぞ」
「俺は」
クーの手が頭に乗せられた。
「こっちの方が、しっかりしていて良いと思うが」
いつもの笑っても怒ってもいない顔で、クーは髪に触れる。
大きくて、温かくて、すごく気持ちいい。
だから、オレもクーを真似てくすんだ銀の髪を撫でた。
「オレ、クーに撫でてもらうの好きだ」
好きって言えるのが嬉しくて、クーにいっぱい笑いかけた。
「変わったヤツだな」
クーはちょっとだけおかしそうに笑って、そのまま撫でてくれる。
大きい手だ。クーは14才だから、5つ大人になったらオレの手もこうなるのかな。
嬉しくて、そのまましがみつきたくなる。
クーはオレが好きだと言っても嫌がらない。魔女の子供だからって逃げたりしない。魔法が
使えなくても怒らない。
嬉しい。すごく!
「クーがいてくれて、嬉しいな」
撫でる手が止まった。
「そうか」
離れていく手が寂しくて目で追っていたら、いつの間にかクーは立ち上がっていた。
ああ、もう夕方なんだ。
「行っちゃうんだ」
クーはこの村に住んでないから、一緒には帰れない。
「姉ちゃんのご飯、食べてけばいいのに」
行かせたくなくて、何度も断られたのにまた誘ってしまう。
クーは黙ってオレを見ていた。それから、オレの耳をちょっと引っ張った。
「俺も、会えたこと嬉しく思う」
それだけ言うと、崖を軽々登っていく。
「…………」
オレは、ビックリして何も言えなかった。
何に驚いたのかも分からず、バカみたいに遠ざかっていくクーの背中を見続けた。
----------------------------------------------------
「ん?……あー、夢か」
ハロウィンの時に買ったお化けキャンドルが目に入り、ここがケブラー寮の自室だと理解できた。そして、自分が夢を見ていたことも。
このまえ友達と髪結いについて話していたから、それで懐かしい夢を見たのかもしれない。
姉ちゃんにも内緒の、オレの友達。
クーとは、あの夢の少し後に別れたきりだ。
あの人がどこの誰で、何のためにあそこにいたのか、本当のことは何も知らない。想像は、少しできるけど。
ただ、あのレフェシアンの友人をオレは心から慕っていた。
クーが、家族以外で初めて嬉しいと言ってくれたから、オレは自信を持てたんだ。
今もし彼に会えたなら、まずはお礼を言いたい。
クーがくれた自信は勇気になって、オレは村でも友達ができた。ほとんどちびっ子だったけど、それでも毎日が楽しくなった。
それに、今は。たくさんの大事な人ができた。
友達のこと、これから始まる1日のことを考えると、ワクワクしてくる。
「さーてと、朝ご飯は何かなー?」
楽しく過ごすためには、まず栄養補給だ。
期待を現実に変えるため、とりあえず布団を跳ね上げた。
ふわり。柔らかい触感がなんだか嬉しくて、もっとつかんでみる。
「髪がどうかしたか?」
上を向けば色味の違う瞳が一対、こちらを見ている。視線を反らさない、大好きな目だ。
「クーの髪って、フワフワだな!」
「そうか」
クーは、笑いもうなずきもしない。
「うん、そうだぞ。柔らかくて気持ちいいぞ」
「俺は」
クーの手が頭に乗せられた。
「こっちの方が、しっかりしていて良いと思うが」
いつもの笑っても怒ってもいない顔で、クーは髪に触れる。
大きくて、温かくて、すごく気持ちいい。
だから、オレもクーを真似てくすんだ銀の髪を撫でた。
「オレ、クーに撫でてもらうの好きだ」
好きって言えるのが嬉しくて、クーにいっぱい笑いかけた。
「変わったヤツだな」
クーはちょっとだけおかしそうに笑って、そのまま撫でてくれる。
大きい手だ。クーは14才だから、5つ大人になったらオレの手もこうなるのかな。
嬉しくて、そのまましがみつきたくなる。
クーはオレが好きだと言っても嫌がらない。魔女の子供だからって逃げたりしない。魔法が
使えなくても怒らない。
嬉しい。すごく!
「クーがいてくれて、嬉しいな」
撫でる手が止まった。
「そうか」
離れていく手が寂しくて目で追っていたら、いつの間にかクーは立ち上がっていた。
ああ、もう夕方なんだ。
「行っちゃうんだ」
クーはこの村に住んでないから、一緒には帰れない。
「姉ちゃんのご飯、食べてけばいいのに」
行かせたくなくて、何度も断られたのにまた誘ってしまう。
クーは黙ってオレを見ていた。それから、オレの耳をちょっと引っ張った。
「俺も、会えたこと嬉しく思う」
それだけ言うと、崖を軽々登っていく。
「…………」
オレは、ビックリして何も言えなかった。
何に驚いたのかも分からず、バカみたいに遠ざかっていくクーの背中を見続けた。
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「ん?……あー、夢か」
ハロウィンの時に買ったお化けキャンドルが目に入り、ここがケブラー寮の自室だと理解できた。そして、自分が夢を見ていたことも。
このまえ友達と髪結いについて話していたから、それで懐かしい夢を見たのかもしれない。
姉ちゃんにも内緒の、オレの友達。
クーとは、あの夢の少し後に別れたきりだ。
あの人がどこの誰で、何のためにあそこにいたのか、本当のことは何も知らない。想像は、少しできるけど。
ただ、あのレフェシアンの友人をオレは心から慕っていた。
クーが、家族以外で初めて嬉しいと言ってくれたから、オレは自信を持てたんだ。
今もし彼に会えたなら、まずはお礼を言いたい。
クーがくれた自信は勇気になって、オレは村でも友達ができた。ほとんどちびっ子だったけど、それでも毎日が楽しくなった。
それに、今は。たくさんの大事な人ができた。
友達のこと、これから始まる1日のことを考えると、ワクワクしてくる。
「さーてと、朝ご飯は何かなー?」
楽しく過ごすためには、まず栄養補給だ。
期待を現実に変えるため、とりあえず布団を跳ね上げた。
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カゴの中のものを落さないように、だけど出来るだけ駆け足で。
(よし、あと少しだっ)
今日はかご一杯の果実を採ってきた。きっと姉ちゃんは、これで旨いものをたくさん作ってくれるはず。そう思うと、リョクホウの足はさらに弾んだ。
「ただいま、姉ちゃん!」
ドアを開けば、姉のイブキが鍋をかき混ぜていた。リョクホウの姿を認めると、口元をわずかに緩める。
「おかえり。その様子なら、収穫は期待できるんだろうね?」
リョクホウは期待に沿えるのが嬉しくて、テーブルの上に勢いよくカゴを置いた。
「ふうん、これなら来年の春までジャムは不足しないで済みそうだ」
満足そうに果実を検分するイブキに、リョクホウは嬉しくて頬がゆるむ。
「今年は砦側の森も被害がなかったから、ずいぶん取り残しがあったんだ」
「そうかい。さて、こっちのシチューはあと少しだから、アンタは手を洗って着替えてきな」
「わかった!」
駆けていくリョクホウの背中を横目で見ながら、イブキはそっとため息をついた。
(やれやれ、今年はなんとかなりそうだね)
昨年は初めて2人だけで冬支度をしたため、かなり手間取った。
預けられた家でしっかり手順を憶えたと思ったが、それでも1から全てをやろうとすると勝手が違う。
よく食べる弟がいるので食料だけは充分に用意したが、暖をとるための薪が不足してしまい、寒い夜は2人で毛布にくるまって眠ったりもした。
15才のわりに思考が幼い弟は、その日の出来事を嬉しそうに喋り、姉の妄想に引きつりつつも付合い、そして幸せそうに眠った。
戦がなくなってまだ数年。戦場で貴重な魔女の子供である2人は、望めば恵まれた生活を送る事ができる。
けれど、イブキはそれを望まず、2人で生きる事を選んだ。リョクホウには選択肢さえ気づかせずに、両親不在の家にもどった。
不自由な生活を強いた弟に、負い目がないわけではない。
それでも、イブキはこの生活を誇らしく思っている。
「姉ちゃん、着替えたぞ!ご飯、食べていいか?」
16才になった弟は、相変わらず幼さが抜けない。それでも、誰よりもイブキを大事にし、姉を助けようと頑張っている。
嬉しそうな弟の顔を見ていると、イブキはどんな苦労にも負けない自信がわいてくるのだ。
「じゃあ、戸棚からパンを出しとくれ。今日は頑張ったから、たくさん食べていいよ」
「やったー!」
本当の冬は、まだこれからだ。
けれど、負けない自信がイブキにはある。
「旨いっ!オレ、姉ちゃんのシチュー、大好きだー」
どんな回復魔法より効く、この笑顔があるのだから。
(よし、あと少しだっ)
今日はかご一杯の果実を採ってきた。きっと姉ちゃんは、これで旨いものをたくさん作ってくれるはず。そう思うと、リョクホウの足はさらに弾んだ。
「ただいま、姉ちゃん!」
ドアを開けば、姉のイブキが鍋をかき混ぜていた。リョクホウの姿を認めると、口元をわずかに緩める。
「おかえり。その様子なら、収穫は期待できるんだろうね?」
リョクホウは期待に沿えるのが嬉しくて、テーブルの上に勢いよくカゴを置いた。
「ふうん、これなら来年の春までジャムは不足しないで済みそうだ」
満足そうに果実を検分するイブキに、リョクホウは嬉しくて頬がゆるむ。
「今年は砦側の森も被害がなかったから、ずいぶん取り残しがあったんだ」
「そうかい。さて、こっちのシチューはあと少しだから、アンタは手を洗って着替えてきな」
「わかった!」
駆けていくリョクホウの背中を横目で見ながら、イブキはそっとため息をついた。
(やれやれ、今年はなんとかなりそうだね)
昨年は初めて2人だけで冬支度をしたため、かなり手間取った。
預けられた家でしっかり手順を憶えたと思ったが、それでも1から全てをやろうとすると勝手が違う。
よく食べる弟がいるので食料だけは充分に用意したが、暖をとるための薪が不足してしまい、寒い夜は2人で毛布にくるまって眠ったりもした。
15才のわりに思考が幼い弟は、その日の出来事を嬉しそうに喋り、姉の妄想に引きつりつつも付合い、そして幸せそうに眠った。
戦がなくなってまだ数年。戦場で貴重な魔女の子供である2人は、望めば恵まれた生活を送る事ができる。
けれど、イブキはそれを望まず、2人で生きる事を選んだ。リョクホウには選択肢さえ気づかせずに、両親不在の家にもどった。
不自由な生活を強いた弟に、負い目がないわけではない。
それでも、イブキはこの生活を誇らしく思っている。
「姉ちゃん、着替えたぞ!ご飯、食べていいか?」
16才になった弟は、相変わらず幼さが抜けない。それでも、誰よりもイブキを大事にし、姉を助けようと頑張っている。
嬉しそうな弟の顔を見ていると、イブキはどんな苦労にも負けない自信がわいてくるのだ。
「じゃあ、戸棚からパンを出しとくれ。今日は頑張ったから、たくさん食べていいよ」
「やったー!」
本当の冬は、まだこれからだ。
けれど、負けない自信がイブキにはある。
「旨いっ!オレ、姉ちゃんのシチュー、大好きだー」
どんな回復魔法より効く、この笑顔があるのだから。
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ーーイブキの場合ーー
「えーと、鞄は丈夫なものを用意したし、軍資金は充分、宝の地図チェックも終了。うん、荷物はこんなもんだね」
「あとは、身支度だね。靴は歩きやすいもの、服は動きやすくて気張りすぎず手を抜きすぎず」
「よし!最後の仕上げだ。いつも通りヌイグルミをアタシに変身させて、うん我ながら良い出来だね。これなら、アイツも騙されるだろうよ。さて、アタシは行商のおじさんにでも変身するかね」
「これで準備万端!さあ、お宝求めて出発だ!」
ーーリョクホウの場合ーー
「うわー、あの崖の木になってる実、うまそうだー」
「でも、あそこまで登るのは大変だよな。……いや、やる前から諦めちゃダメだっ」
「よし、行くぞーっ」
(よじ登り、登り、のぼ……)
「うわっ」
(ズルズル、ドタッ)
「痛てー、腰をうったー」
「くっそ、まだまだー」
(ガシ!ハシッ、ヨジッ。…………グラ、ドッターン)
「アイタタタ……。やっぱ、ダメなのかな……」
「いや、まだだ!オレはもっと強くなれるっ!」
(無意識に強化魔法発動)
「待ってろ、オレのおやつーっ」
(ヨジヨジ、ヨジヨジ、登り、登り)
「とったぞー!」
イブキ「こうして、アタシ達は魔力を鍛えていったんだ」
クノス「本能のままだな」
イブキ「どっちかというと、煩悩だけどね」
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