注: 一応、後半部分 R15 推奨。 そういった表現に嫌悪感を抱く方は、回れ右でお願いします。 後は、お読みになる場合は、自己責任でお願いします。
後漢王朝を興した光武帝(こうぶてい)劉秀(りゅうしゅう)の治世から凡そ一六〇年余――
腐敗した王朝により、力なき民は権力者に思うがままに蹂躙され、国の官位でさえ金銭で取引されるまさに暗黒の時代を迎えていた。
皇帝の権威が機能しなくなり、世は戦乱の時代を迎える。
その最中――幽州に下り立った一人の青年が現れた。
青年は、民衆から天の御遣いと呼ばれ、仲間達と出逢い時に、共に助け合い、野心溢れる強敵に立ち向かい、そして、ついに漢王朝の復興を成し遂げたのであった。
だが――
確かに、戦乱の爪跡は残るものの、天下泰平になったこの世の中で、天の御遣いこと一刀は、世の中の事とは別にひとり悩んでいた。
このお話はそんなところから始まる――
一刀×秋蘭 SS 〜R15 推奨といっても一刀と秋蘭じゃないよ? 〜
「う〜ん」
後漢王朝皇帝第十四代献帝こと所謂、劉協の治世下にあって、皇帝より『太傅(たいふ)』の地位を与えられた天の御遣いこと北郷一刀は、洛陽の宮殿にある自分に形式上あてがわれた執務室の机で、適当に渡された木簡を幾つか拡げながら腕を組み唸っていた。
視線は、木簡の上にとりあえずは向けられていたが、頭の中は別のことを考えていた。
その悩みとは、現在の自分の立場である。
一介の学生に過ぎなかった自分が、何の因果かこの世界に迷い込んだ。この事については不幸としか言いようがない。だが、それ以上にかけがえのない仲間達に恵まれたおかげをもって、今は、現代世界のような快適さや利便さはどうしようもないが、自分に不釣合いとしか言いようのない位を王朝から下賜され不自由のない生活がおくれている事は、幸運といって差支えがない。
だが、それ故に一刀は悩むのであった。
主には『天の御遣い』という肩書きと仲間達の今後の関係。特に、本当の妹のように可愛がっている劉協ことキョウは『天子の位』にある。
要は、一刀は怖れているのだ。
自分という存在が、いずれ将来においてみんなに迷惑を掛けることになるのではないかと。
具体的には、一刀の地位を利用して権力闘争を行う者がいたとしてもおかしくない。
この天下の騒乱を治めた稀代の英雄であり、劉協ことキョウの義兄的立場という危ない位置に一刀はいるのである。
幸いにしてキョウが漢王朝の数少ない生き残りということと、女帝という事もあり、外戚や宦官による争いは今のところ起こってはいないが、いずれ、何かしらの水面下での闘争が始まるのは火を見るより明らかである。
「……」
一刀は、自分がどう処するべきか悩んでいた。
そして彼は、ある事を心に秘めて、ついに決意するのであった――
宮殿の廊下をふらふらと何とも頼りのない足取りで一刀は、目的地へと向かっていた。
時折、文官や女官と出会い恭しく頭を下げられるが、一刀はただ苦笑いを浮かべ、軽く挨拶をしその場から離れる。
そして、程なくして劉協の執務室の前へ辿り着いた。
ここまでの道のりにおいて、親しい仲間に遭遇しなかった事に一刀は、安堵しながら扉を軽く叩く。
「――何様か?」
部屋の中から可愛らしい声音が響き、一刀は人知れず微笑みを浮かべる。
「陛下。一刀にございます」
そう、一刀が述べた瞬間。
部屋の中からドタン! バタン! と慌ただしい音が鳴り響いた。それと共に「へ、へいか!」と、気弱な声も届く。
そして、扉が勢いよく開け放たれる。
一刀の目の前に現れたのは、まるで向日葵のような明るい笑顔を浮かべて出迎えてくれたキョウであった。
「義兄上!」
「御機嫌麗しく何よりでございます」
一刀は両膝を付き、両手を目の前で組んで深々とキョウに対して頭を下げ臣下の礼を取る。
そんな彼の態度に劉協は、愛らしい顔立ちをムッとさせる。
どうやら一刀が他人行儀なのがお気に召さないようだ。
一刀は、そんな彼女の態度に困った表情を浮かべる。
「――北郷太傅。よく参られた入られよ」
劉協は、不承不承といった感じで一刀を部屋に招き入れるのであった。
「――さて、此度は何様でお越しくださいましたのでしょうか?」
部屋の中に案内され、劉協の勧められるまま、毛織物が敷かれた床に座る一刀。
一刀は、視線を劉協に向け、何も答えず――視線を傍に控えていた書記官に移した。
「む。すまぬが、朕は太傅と大事な話をするので、お主は下がっておれ」
「は、はぁ」
劉協は、初老の男性を下がらせて部屋から退出させたのである。
そして、書記官が下がったのを確認して互いに安堵の溜め息を吐いた。
二人とも飛び抜けた地位にいるものだから、下手に気が抜けなかったのである。
「すまないなキョウ」
「いえ、妾も短慮でした。義兄上がわざわざ訪ねてきてくださった事に驚きと喜びのあまり、周囲への配慮を怠ってしまいました」
一刀の謝罪にそう返しながら、劉協は簾の付いた冠を机の上に置き、おもむろに立ち上がる。
「義兄上は、どちら産のお茶がよろしいですか?」
執務机の後ろの棚に赴き、劉協は当たり前のように茶葉を選びだす。
「ん〜キョウが淹れてくれるなら何でもおいしいからどれでもいいよ」
「またそのように不精をされて……」
と、言いながらも劉協の頬は嬉しさで緩んでいた。
一刀は劉協の背中を見つめながら、彼女と出逢った頃の事を思い出していた。
あの時は、本当に幼い少女であったが、今は背も伸び、女性らしい丸みをおびた体つきに成長している妹分に一刀は、ほっとする。
確かに彼女は成長している。
あの頃から利発であったが、太平の世になり、歴代の皇帝とは異なり自ら政務に励む彼女を一刀は誇りに思っていた。
彼女の治世に共感し、信頼できる臣下も周りにたくさんいる。
(だからきっと、大丈夫――)
目の前で茶を丁寧に淹れてくれる彼女を見つめながら一刀はそう考えて、話を切り出すことにした。
「キョウ。俺がここに来たのは他でもない。ちょっと、頼みたいことがあって来たんだ」
茶を淹れる手を止め、劉協は一刀に顔を向ける。 義兄の表情から、彼が真剣な話を持ち出していると感じた彼女は佇まいを直し、一刀に向き合って腰を下ろした。
「他ならぬ義兄上の頼み事です。妾の力の及ぶものなら如何様にも聞き入れますよ?」
「ん、ありがとう。早速、その内容なんだが……俺を太傅から解任してくれ」
「は?」
一刀の言葉に劉協は目が点になる。
だが、一刀は真剣な表情のまま劉協の反応を見ていた。
「――理由は聞かせていただけるのでしょうか?」
思いもよらない一刀の願いに劉協は、気が動転しながらも必死に心を落ち着けながら、震える声音でそう問うた。
「俺がこのまま宮中に居ては何れ、無用な争いが起こる」
一刀の言葉に劉協は、頬をピクリと動かした。
義兄の言わんとするべき事が、何となくではあるが理解したからだ。
こんな時、同年代の者達より少しばかり知恵の回る自分が嫌になると劉協は心で思う。
「これからの漢は、皆で創っていくべきだと思う。俺のような存在は、もう必要ないだろう」
一刀の言葉に劉協は俯く。
彼が、自分や皆に迷惑をかけたくないという想いを無碍には出来ない。
「あーだからなキョウ――無職になった情けないこの兄に、仕事を与えて欲しい」
その言葉に劉協は驚き顔を上げる。
一刀が、恥ずかしそうな表情で頬を掻く姿に彼女は、表情を綻ばせた。
要は、事の経緯は兎も角として、一刀が自分を頼ってくれているのだと感じることが出来たからである。
「――わかりました。先程も言いましたが、他ならぬ義兄上のお願いです。妾、個人の感情は置いておくとして――官職のご要望はありますか?」
劉協の言葉に一刀は、ほっとした表情を浮かべた。
「それじゃあ――」
そして、一刀は劉協に自分の要望を伝えるのであった。
次の日に行われた朝議。
宮廷の謁見の間に女性陣を中心とした驚きの声で彩られた嵐が起こった。
一刀の太傅辞職。それに伴う異動。
啄県の県令として赴任することが発表されたのである。
一刀は皆を静めようと説明を行おうとするのだが、言葉を紡ぐ前に愛紗や鈴々を先頭にした女性達からフルボッコを喰らいその場に於いて説得は不能となってしまう。
典医に運ばれ、その日は誰もが煮え切れない想いのまま時を過ごすのであった。
後日、宮廷に勤めていたある文官がその日のことをこう語る――「あの日の宮廷内はまるで、十常侍と外戚がけん制しあっているように空気が澱んでいた」と。 恐るべきは、一刀の影響力なのか、はたまた女性陣の強さなのかは定かではない。
そして、そのまた次の日から劉協は頭を悩ますことになる。
王朝の重職にある者達が次々と印璽を返し、辞職の意を彼女に伝えたのである。
特に、かつて北郷軍に所属していた股肱の臣達の辞職願は凄まじかった。
愛紗や鈴々は、義兄である一刀が辞めるのなら自分達もここにいる意味はなく、彼と共に啄県へと赴く言い出し、朱里は、県令になる彼の補佐官を務めたいと述べ、星は、在野の身分に戻ると言いながらも一刀に付いて行く気満々である。紫苑は、一刀を父親と慕っている璃々の為にも母として、そして女としても一刀について行くと決意を語り、翠は、西涼に赴いていたが、ここにいれば間違いなく彼女達と同じ行動をとっていたに違いない。
さり気に、三公の一つである司空の任にあった華琳も辞意を表明しようとしていたが、春蘭や桂花に邪魔をされ、それが叶う事はなかった。本人は「冗談よ」と言ってはいるが、彼女に仕える者達にはたまったものではない。
さらには、数日後にこの件が届くであろう、江東の地にて王侯の一人として王朝に仕えている碧眼の姫が一刀の辞任を知ったら――
彼は冗談抜きに、蓮華に剣で刺されるかもしれない――
小蓮あたりはそんな事を気にせず、城を抜け出し、王虎に跨って一刀に逢いに行くのであろうが。
ここで始めて事態を重く見た朴念仁の一刀が皆を様々な形で説得して、何とかそれに成功させる。
そして、一刀が本当に啄県の県令として洛陽の都から離れることが決定した時――
今度は、璃々がぐずりだしたのである。
父親的存在である一刀が自分の許から離れる事が理解できず、泣き出したのだ。
泣いた子供には勝てないとはよく言ったもので、一刀は困り果てながらも璃々を必死に宥めた。
抱っこしてあやしたり、夜は一緒に添い寝をして、お風呂もせがまれるままに一緒に入り、璃々のご機嫌をとったのである。
それに便乗して、鈴々、季衣などのチビッ子達がどさくさにまぎれて甘えてきたのは誤算であり、何か悪ノリして「ここにいるぞー!」とか叫んで、一刀に吶喊する微少女もいたが。
そんな幼女達にまみれる一刀を我慢して見ていた愛紗であったが、調子に乗った鈴々と蒲公英の悪戯というか、親愛の気持ちを込めた『ほっぺにチュー』に堪忍袋の緒が切れ――超獣アイシャゴン覚醒。しかも、いきなり禁じ手の最終形態。
結果、宮廷内は破壊と混沌に満ち溢れるのであった。
この時、後に語られる『第三次アイシャゴンの乱』を止めたのは――技の一号、力の二号、知の三号からなる華蝶仮面ズとフランケンシュタイン並の耐久力が売り華雄と火事と喧嘩は洛陽の華と語る霞及び、人類最強の純粋戦士恋を前衛にし、詠と音々音の後衛からの補佐によるメイド・リッターの活躍であった。
余談はこのくらいにして一刀は、一ヶ月に一回は必ず便りをよこす事と、半年に一度は必ず洛陽に帰省する事を璃々と約束し、任地に赴く許しを得たのである。
こうして天の御遣いこと一刀は、洛陽を後にする。
お供に身の回りの世話をするという事で随行する事が許された月と、劉協の義兄であるという事で皇族の一員に序せられているという理由から護衛として華雄を引き連れての再出発であった――
無論、二人は女性陣から『悪いムシが寄り付かないように』という密命を携えていたが、それを知らぬのは、一刀のみである。
一刀達一行は、道中、これといったトラブルも無く、任地先である啄県の街へと辿り着いた。
前方に見える城壁を眺めながら、一刀は故郷に帰ってきたような気持ちになり、心が嬉しさで少し、浮ついていた。
そして、城門で門兵に割符を渡し、入場したその刹那――
「「「「「お帰りなさい、天の御遣い様ー!!!」」」」」
人々の熱狂的な歓迎を受けたのである。
住民たちは我先にと一刀達に群がり、囲む。
街中に紙吹雪が舞い、人々の喜びの歓声がまるで地鳴りのように木霊する。
一刀は、啄県の民にもみくちゃにされ身動きが出来ない。
ここにいる住民のほとんどが、かつて一刀が愛紗や鈴々と共に黄巾党を追い払ってくれたことを切っ掛けに、鄴に遷都するまで、共に過ごした者達であり、善政を施し、徳で人々を治め、気さくな天の御遣いに心底惚れている者達である。
言わばこの啄県に住まう人々は、熱狂的な一刀フリークなのである。
老若男女問わずもみくちゃにされながら一刀は、人々に神輿のように担がれ運ばれていくのであった。
一刀が啄県に到着した夜から連日、彼の帰還を祝う祭りが催された。
月は皆の熱狂的な熱に当てられ、なおかつ、街の若い女性達から「天の御遣いとの御子はまだでしょうか?」と問い詰められ、彼女が、「――残念ながら」と答えると、既婚女性陣から一刀を篭絡させるテクニックを伝授され、その内容に首まで真っ赤にさせていた。
華雄は、住民から杯を受け、一気に飲み干し、酒豪振りを遺憾なく発揮し、周りの者達を驚かせていた。
そんな中一刀は、街の代表者たちと酒を酌み交わし、親交を深めていくのであった。
一〇〇日宴とは言わないが、一週間にも及ぶ大宴会を終えた一刀は、県令府に赴き、その隣に設けられた庭付きの住居に華雄と月へ「ここを自由に使っていいから」と告げると、月に「ご主人様はどうなさるのですか?」と聞かれ、仕事場の倉庫に寝所を作る事を話すと、彼女にすごく怒られた。
「しかし、結婚前の女の子達と同棲するのはちょっと――「兄様!」」
再び、月激昂。
まあ、可愛らしい彼女が怒った所で怖い事は無いのだが。
「ふむ。我らと寝所を別にするという事は一緒に住んでいると、女を連れ込む事が難しくなるからですかな?」
華雄のそんな発言に、月の視線が冷たく刺さる。
可愛い妹分のそんな表情に一刀は、根負けしてしまい無駄な抵抗は続かず、白旗をあげてしまうのであった。
その後、月が嬉しそうに鼻歌を歌いながら清掃を始めた事は想像に難しくない。
「さて、ご主人様。これからこの地で政務を始める事となるのですが、まず始めに何から手をつけますか?」
月の後姿を見ながら華雄はそう問うた。
彼女は、一刀の護衛の任もあるが県令の補佐官としての任務も受けていたのである。
華雄の考えでは、治安の状況を見る為、警邏を兼ねた視察になるだろうと思っていた。
「んーそうだなぁ。まずは、彼女に挨拶かな?」
「は?」
一刀の発言に華雄は少し間抜けな声音で問い返した。
「征北将軍――夏侯淵妙才殿にね」
そう言って一刀は、呆けている華雄に微笑むのであった。
征北将軍夏侯淵将軍こと秋蘭は、戦乱が終わった後、自ら願い出て国境で災いを起こす異民族との討伐司令官として戦いに明け暮れていた。
中央での栄達を捨て、彼女はあくまで武官として生きる道を選んだのである。
現在は地方方面司令官としてその手腕を発揮し、万里の長城を越え、侵攻を仕掛けてくる異民族に睨みを利かせている。
そして、今も彼女は、最前線に自ら赴きその任務を全うしていたのだ。
現在は、幽州と并州の境に野営を敷き異民族の侵攻に備えている。
そこへ、部下から「将軍のご友人が訪ねて参られました」との報告を受け、秋蘭は副官の典韋こと流琉を連れて、来客を迎える天幕へと向かった。
中で待っていたのは――
「兄様!」
「ん? その声は流琉か?」
おもいがけない来訪者に流琉は驚きの声を上げた。
「北郷か? いやいや、おもいがけもしない来客もあったものだな」
「元気そうで何よりだ秋蘭」
二人は微笑みながら握手を軽く交わす。
「あの、兄様は、どうしてこちらに?」
「まあ、それも含めて今日は、挨拶に来たんだ」
「流琉。そのように急いては、北郷も困るだろう。――立ち話も何だ、向こうで食事でもしながら語ろうではないか」
一刀の腰にひっついた流琉を宥め、秋蘭は苦笑しながらも、一刀を本幕へと案内するのであった。
「――そうか。そのような理由があって中央を後にしたのか」
夜も更け、蠟燭に灯された灯りを頼りに、一刀と秋蘭は洛陽での出来事を酒の肴にして話す。
「すぅ、すぅー」
一刀の胡坐をかいた膝を枕にして、流琉はどこかしら嬉しそうな寝顔を浮かべながら寝ていた。
久々に再会をした兄的存在を鈴々や季衣などに遠慮することなく独占でき、思う存分甘えられてご満悦のようである。
一刀は、左手で優しく流琉の髪を撫でる。その光景に秋蘭は杯を口に付けながら、普段からポーカーフェイスである事が多い表情に笑みを浮かべていた。
「ああ、あのまま洛陽に居れば居るほど――皆の負担になるのが嫌だったんだ。天の御遣いとしての役目はもう終わりにしなければならない。……元の世界に帰る方法も見つからないし、結局はこうする事しか考え付かなかった」
「……」
秋蘭は黙って一刀の言葉を聞いていた。
かつて戦場で敵味方に別れて、幾度も戦ったライバルともいえた目の前の青年の姿が自分に重なる。
「私も同じようなものだ。西涼が故郷である馬超と違って、別段この地に想う所がある訳ではない。武人としての心が太平の世という蜜に合わなかった。だから、華琳様に無理を言って方面司令官の地位を戴いたのだ」
自分の心内を秋蘭は語る。
「共に中央にはいられない異端児か――」
「ははは、違いない」
共に苦笑し、酒を互いに煽る。
要は、二人とも不器用なのである。
一刀は、仲間に甘える自分の不甲斐無さに、秋蘭は、太平となった世の中で新しい自分を見出せずにいたのだ。
「所で、話は変わるけど――」
「ん?」
共に沈黙していた空気を浄化するように一刀が話を切り替える。
「いや、大した事じゃないかも知れないけどさ、この本陣の中を見て、兵士達の士気は高いことは分かったんだけど、皆ちょっと疲れたような表情を浮かべていると感じたんだけど。……いつも元気な流琉もこの通りだしさ」
「ああ、情けない話だが、今回の討伐はちょっと骨が折れてな。かれこれ、二ヶ月ここで足止め喰らっている――詳しく話を続けると、敵は、少数部隊で街や邑を襲い、略奪を済ませたらさっさと逃げる戦術で、私達に尻尾を中々掴ませてくれないし、領民の不安は募るばかり。最近は、官軍への批判も出て、都市部に退却して再編成することも適わん」
目を閉じながら酒を煽る秋蘭の姿を見て、一刀は「ふむ」と呟く。
「正直、何かよい手立てはないものか……」
相当迷っている彼女の姿を見て、一刀は杯を置き、腕を組み思考を巡らせた。
「いや、すまぬ愚痴になってしまったな。――北郷?」
思わず弱音を吐いてしまった秋蘭が首を横に振り、顔を上げて一刀に謝罪をしったのだが、当の本人は何かを熟考していた。
「――秋蘭。さらに詳しい情報を教えてくれないか?」
「ん? 参謀役でもしてくれるのか?」
秋蘭の意地の悪い表情に一刀は、思わず苦笑する。
「まさか、天下の夏侯淵将軍にひよっこの俺が、戦術論でかなう筈は無いって――そんな事より、違う角度から手助けが出来るかもしれない」
「違う角度からとは?」
秋蘭の言葉に今度は一刀が悪戯を思いついた少年のような笑顔で答えた。
「うん。まずは、筆と硯に墨それと紙を用意出来るかな?」
「別に構わんが――何をする気なのだ?」
「ウチの元軍師が、褒めてくれる数少ない俺の秀でた能力を使おうかなって」
その言葉に秋蘭は解らないと眉を八の字にして頭を悩ませるのであった――
夜通しで一刀は秋蘭から、現在敵対している異民族の情報を聞き、頭に叩き込んだ上で一枚の書状を作り上げた。
そして、それを早馬で洛陽に届ける事を秋蘭に告げた。
「よし。じゃあ、返事が返ってくるまで少し厄介になるよ」
「それは、構わんが――うちの隊は、タダ飯喰らいは養えないぞ?」
「――まあ、その辺はお手柔らかに。ああ、そうだ。華雄さんに兵の調練を手伝ってもらおうか」
「ふむ。頼めるか?」
「了解。さて――書記官殿の手伝いでもしますか?」
「いやいや、是非、兵の閲兵をしてくれ。天の御遣いの激励は、何よりも助かる」
「そうかなぁ」
一刀の自覚の無い言葉に秋蘭は思わず笑みがこぼれた。
(――成程。あの華琳様がお心を許すわけだ)
一刀が暫くの間、駐留する事を知った流琉は、二人の許に駆けつけてくるなり、嬉しそうに一刀の腕を取ってはしゃぎだす。
そんな光景を見ながら、秋蘭は心が安らかになるのを感じていた――
それから十日ほど経った頃に洛陽からの返事が早馬で届く。
一刀は二枚の書状を受け取り、一方を開いて黙読を始め、やがてその顔に苦笑を浮かべる。
どうした? と言わんばかりの表情を隣で浮かべる秋蘭に一刀はその書状を手渡した。
そして、彼女も同様に苦笑を浮かべるのであった。
書状は、劉協による直筆の物で、まず、『義兄上は、啄県での県令の仕事をサボりあろう事か、漢の民の為に精勤をしておられる夏侯淵殿の邪魔をされているとは何たることか――』と、皇帝陛下のお叱りから始まっているのだから、無理はない。他にも愛紗がピリピリして宮中の者達が皆怖がっているとか、鈴々が将軍の仕事をさぼって、一日中、城壁の上から空と大地を眺めていることや、華琳が一段と無理難題を部下に押し付けているとか、璃々が寂しがっているなどが書かれていた。
そして、肝心の一刀の頼み事について『了承』したと書かれ、さらには、『献帝』の名において全権を委任するとの言葉が綴られていたのである。
「む。これが、北郷の言う策なのか?」
一刀は伝令の兵士から、刺繍が施された巾着を受け取る。
「まあ、そんなところ。で、ここから肝心なんだけど、次の戦いで、相手の兵を出来るだけ生け捕りにする事は出来るかな?」
「ふむ。まあ、予測地点に落とし穴を用意すれば、それぐらいは可能だ」
「よし。それじゃあ、お願い出来るかな? 後、彼らと通訳出来る人も呼んでくれたら助かるんだけど」
「ああ、それも任せてくれ」
一刀の願いを聞き入れ、秋蘭は部下に指示を出すのであった。
二日後、国境を越え異民族の部隊が集落を急襲しているとの報が斥侯よりもたらされた。
秋蘭は、兵士達を率い国境付近の邑を襲撃している敵を捕捉する事に成功した。
弓で牽制し、敵兵の注意を惹き付ける事に成功した秋蘭部隊は、そのまま整然と撤退行動を開始する。
撤退する官軍を見て、敵兵は釣られて追撃を開始した。
そして、事前に用意された――落とし穴に嵌り、瓦解する敵軍。この戦いにより、多数の異民族兵を生け捕ることに成功したのである。
「さすが、秋蘭」
縄で捕縛された異民族が本陣に連行されるのを見て一刀は、秋蘭を称えた。
「まあ、このくらいはな――さて、ここからは北郷。お前の仕事だろう? 私はゆっくりとお手並みを拝見させて頂くよ」
「ああ、任せてくれ」
彼女の期待を裏切らないように一刀は気合を入れて、自分の戦場へと向かうのであった。
一刀が、異民族相手に使った手腕は、一言で言えば、宥和政策である。
そもそも今回の度重なる領土侵犯の原因は、異民族の住む土地で起こった冷害の被害にあったのだ。
一刀はそれを聞き、食料と必要な物資の輸送を本国に頼んだ。
これに驚いた異民族の者達に一刀は、国境の街や邑を襲わないようにお願いし、困った事があればまず相談して欲しいと提案をした。
中には、彼の言葉に騙されるなと声を上げて反論する者もいた。
「もっともな意見だと思う」
と、述べて、信用の証として捕虜の三分の二を武装解除し、国許に帰らせる事を告げた。
そして、代表者に書状を渡して本当に彼等を解放したのであった。
「――本当にこんな事で戦が終結するのか?」
秋蘭は、一刀の行動に理解が出来ず、頭を悩ませていた。
「大丈夫。言葉は違えど、相手は同じ人間。こちらの誠意は必ず通じるさ」
「しかし、相手は、あまりの事に警戒するのではないのか?」
「だから、捕虜を三分の一残したんだ。全て無償で返したら秋蘭の言う通りの展開になるだろうからね」
「ふむ。まあ、武官が外交問題に口を挟むのは余りよくないか」
「――そんな事は無いさ」
一刀の思いもよらない言葉に秋蘭は驚く。
「秋蘭が常識的な事を助言してくれるから助かるよ。大まかな部分は兎も角、要領が悪い俺は、朱里や桂花のように細かい指針までは中々、出来ないからね」
「――そうか」
秋蘭は、一刀の言葉を聞きながら、自分の主が彼に惹かれたのも、一騎当千の将や稀代の智将が、彼に靡く訳だと感心していた。
より確かな信頼と芽生えた好意を含んだ想いに気が付くことも無く――
数日後。異民族の王から使者が一刀と秋蘭を訪ねて来た。
そして、彼らは一刀の宥和政策に同意を示してくれたのである。
一刀はそれを聞き、すぐさま食料と物資を彼らに渡す作業を秋蘭の部下にお願いをする。
そして、運び手に残りの捕虜である者達を解放し、それを手伝わせたのである。
後は、使者と共に天幕に篭り、細部を埋め合う。
今回は、漢王朝に有利に運んだ事から、ある程度の干渉を異民族側は覚悟していた。
だが、一刀が提示してきたのは、友好関係の構築と軍事的な部分においての相互不干渉であった。
そして、その手形として洛陽からの巾着を渡したのである。
中には一つの印璽が納められていた。
漢文で『漢は貴方を王侯として認める』という意味の印璽だったのである。
これには使者も耐え切れず、驚きのあまり腰を抜かしてしまった。
そして一刀と献帝に敬意を称し、異民族の使者は意気揚々と引き上げていった。
一刀の手腕を見ていた秋蘭は、目の前で起きたことを信じられないような思いで見ていた。
あれだけ、自分達が苦戦していた異民族を兵の一人も使わず、場を収めてしまったからだ。
「いや、正直驚いた。さすが、関羽などの豪傑をたらし込むだけある見事な人たらしだな」
「……褒め言葉かそれ?」
「いいや」
意地の悪い秋蘭の言葉ではあったが、彼女は一刀の才覚の一端を垣間見たような想いにとらわれる。
「――なあ、秋蘭」
「うん?」
一刀の問い掛けに半ば、反応で答える秋蘭。
「秋蘭は、戦いが無いこの太平の世の中においても、武官としてしか、生きられないような事を言っていたけどさ――戦場で戦う事だけが戦いじゃないと俺は思うんだ」
「……」
「きっと、君なら俺より凄い事を成し得る事が出来るさ――少しは元気でたかな?」
一刀は、秋蘭に自分の外交官としての才覚を見せて、答えは一つじゃないと彼女に示したのだ。
「――そうかもしれんな」
秋蘭の言葉に一刀は「よかった」と呟き、優しい笑顔を彼女に向けるのであった。
「――っ」
それは、覇王と呼ばれた曹操の許で氷将と謳われた彼女の氷で出来た心を天の御遣いが溶かしてしまった瞬間であった。 無自覚な本人はただ嬉しそうにニコニコと笑っている――目の前に居る彼女の心情を理解していないのはお約束である。
国境での戦いを久方ぶりに終える事が出来た秋蘭の部隊は、一刀が県令となっている啄県の郊外に野営を敷き、駐屯する事となった。
幽州の方面軍司令部に帰還せず、ここに駐屯したのは理由がある。
確かに一刀と秋蘭の手により、戦いは沈静化したものの、侵略された住民達の怒りや不満は募っている。昨日までの仇敵と仲良くしようという王朝の方針に異を唱える者が現れていたのだ。
無論、一刀はそれを知った上で交渉を成功させたのだが、彼自身が行おうとした民の心の慰撫を華琳が買ってでたのである。 よって、一刀達はてんやわんやしながら国の重鎮を迎え入れる態勢を急遽、啄県に設けていた。
その数日後、司空である曹操が啄県へと到着する。彼女は、準備を終えてのほほんとして『自分はこれ以上関係ありません』的なオーラを放ち、それなりにせっせっと県令の仕事に励んでいた一刀を無理矢理拉致し、自分の横に侍らせ幽州と并州の国境付近の住民達への慰撫と視察を行うのであった。
だが、その最中に事件が起きた。
ある邑を訪れていた華琳に暗殺者の魔の手が忍び寄ってきたのだ。
不意を突かれた華琳は、咄嗟に動く事が出来ず、衛兵達の間から放たれた弩の矢が彼女の首へと向かう。
それを防いだのは他ならぬ一刀であった。
華琳の我侭により近くに居た彼が身を挺して彼女を護り、その左腕に矢を受けたのである。
「一刀!」
華琳の叫びに反応した秋蘭が、二人の許に駆け寄り、弓に矢をつがえ、そのまま暗殺者に向けて放った。
「ぎゃっ!」 という悲鳴が聞こえ、暗殺者の手から弩が落ちた。
凛々しくも美しい秋蘭の弓技に一刀は見惚れてしまっていた。――まるで女神のようだと。
そして、高鳴る鼓動。
「あれ?」
一刀は咄嗟に怪我をしてない右手を自分の心臓に手を当てて思考を巡らせる。
動悸の激しいことに気が捕われて所為で、自分の頬がりんごのように真っ赤に染まっていることも気が付かず。
そして、最後の仕上は――
「よくも兄様を傷つけましたね!」
流琉の怒りの一撃が、無常にも暗殺者に襲い掛かり、――彼女の一撃で彼は戦闘不能に陥るのであった。
この後、怪我をした一刀は華琳と流琉に、しこたま絞られた。
華琳を護ったのにひどい仕打ちだと勘違いをしている一刀は、やはり朴念仁なのだろう。
※その 1-2 へ続きます orz
|
トラックバックURL : http://blog.surpara.com/usr/trackBackAccept.html/63598

— posted by FUJIBA28
|
Comment[0] |
Trackback[0]
1-1からの続き
華琳の仕事も何とか終え、再び一刀達は啄県へと戻る。
無理矢理拉致られた一刀は、怪我した左手を庇いながらも溜まった仕事を半泣きでこなす。急ぐ、案件はそう無いのだが、夜までにある程度終わらせないと何故か、接待役を命じられている華琳に怒られるからである。
さらに月もすこぶる機嫌が悪い。
県令として赴任している筈の一刀が、家に帰ってきたのは両手の指で足りる程である上に、それ以上に怪我をして帰ってきたというのが極め付けで彼女を怒らせていたのである。
そんな彼女の乙女心にも気が付かず、必死に一刀は怒っている様に見える月の前で土下座しながら何とか宥めるのであった。
「ふふふ。それは災難だったわね」
「いや、その原因の一端は、華琳にもあると思うんだが……」
月の機嫌を取り戻す為に奔走した一刀の話を聞きながら、華琳が楽しそうに微笑む姿を見て、一刀は本当に大変であったという意味を込めた溜息を吐いた。
そんな中で、流琉お手製の料理に舌鼓を打ちながら、華琳と一刀と秋蘭は話に花を咲かせていたのだ。
「あら、そうね。なら――今夜、閨で可愛がってあげるわよ一刀?」
「なっ!」
華琳の言葉に一刀はうろたえ始める。
ガシャン!
卓の上から、皿が落ちて音を立てて割れてしまった。
「申し訳ありません」
秋蘭が少しばつ悪そうに、割れた皿を片付け始めた。
「――秋蘭、そのまま拾っちゃ危ないって」
一刀がそのまま素手で皿を拾う彼女を慌てて止める。
そして、触れ合う互いの手と手。
「「――!」」
一刀と秋蘭は、互いに驚きながら離れる。
(なるほどねぇ?)
二人の様子を見ていた華琳は、何かを悟ったようにニヤリと微笑むのであった。
夜の宴も終わり夜も更けた頃、秋蘭は火照った身体を冷ます為に宮城の展望台に出ていた。
「私は、一体どうしたのであろうか?」
秋蘭は、夜空に浮かぶ星を眺めながらそう呟く。
「――少しいいかしら、秋蘭?」
「華琳様?」
思わぬ人物の登場に秋蘭が驚きの声を上げた。
「何か悩み事でもあるのかしら?」
「――別に何でもありません」
「ふふふ。そんな嘘を吐いてもダメよ。付き合いは長いもの。私には、何となくだけど秋蘭が悩んでいるのが、分かるのよ」
「……」
華琳の言葉に秋蘭は、何も言えなくなり目を閉じ、黙ってしまう。
「一刀の事でしょう?」
この言葉に秋蘭の整った眉がピクリと動いた。
「まあ気づいたのはさっきの食事の時なのだけど、秋蘭、貴女は何を恐れてるのかしら?」
華琳は、少しキツイ視線を秋蘭に向け、彼女の発言を促した。
「――私は、太平の世になった今でも華琳様の臣と自分では思っています」
「そう」
「忠節も、愛も貴女に捧げたつもりでいました。ですが――」
「今は、北郷一刀という男の存在が、それに迷いが生じている」
華琳の言葉に秋蘭は、ただ、コクリと頷いた。その表情は、強ばり余裕が見られなくなっている。
そんな彼女の姿を見て、華琳は微笑んだ。
「ねぇ、秋蘭。貴女のその感情は、必ずしも上下をつけなければならないものなのかしら?」
「は?」
「だからね、私を想ってくれている気持ちと今、一刀をにくからず想っている気持ちに順序をつける必要は無いと言っているのよ」
華琳の言葉に秋蘭は、虚を突かれたように驚きの表情を浮かべた。
そんな彼女の表情に華琳は微笑む。
「これはあくまで私の推測だけどね――貴女が私に抱いている感情は、親愛や友愛それに敬愛かしらね? そして、一刀に今、感じているのは、男女の間に存在する恋慕。一言で言えば『恋』なんでしょうね」
「恋!?」
秋蘭は、華琳の発言におもわず身を乗り出して驚いた。
「ええ。貴女は立派に一刀に恋した少女よ。まあ、私から見た感じ、どうやら初恋のようだし、戸惑うのも無理は無いでしょうね」
「ご冗談を。私が恋などと――「あら、そんなにおかしい事かしら?」……」
自分の発言を遮られて、秋蘭は黙ってしまう。
それは、華琳の言葉が正しいと頭で理解し始めているからだ。
だが、今まで培ってきたものが、変化する事に秋蘭は恐れているのだ――まるで幼子のように。
華琳は、そんな彼女に近づく。そして、身長差がある為、少し強引に頭を下げさせて自分の胸に秋蘭を抱いた。まるで母や姉のように慈愛を込めて。
「大丈夫よ。貴女と私の関係は今までどおりなのだから。それにただ、北郷一刀という存在が加わるだけよ。私が彼を気に入っている事は、貴女も承知でしょう? だったら、何も気兼ねする必要はないわ」
「――華琳様」
「本当に貴女も、春蘭も手のかかる子ね?」
口ではそう言うものの、秋蘭の見上げた華琳の表情はとても優しいものであった。
「まあ、秋蘭の思うようにしなさいな」
「――はい」
秋蘭は目を閉じながらそう答え、自分の想いに迷いは不要であると諭してくれた華琳に感謝する。
「ああ、後、あの朴念仁に告白するなら早いほうがいいわよ? あれは、ライバルも多い事ながら他人から向けられる想いに鈍感だから――戦争も恋も速さが勝負かもね? それなら貴女の得意分野でしょ?」
華琳らしい励ましに秋蘭は苦笑するしかなかったのであった。
そんなやりとりがあった翌日。
県令府の建物の中で一刀は政務を行っていた。
仕事をしているにはしているのだが、どこかしらボケッとしているように見受けられた。
時折、筆を置いては窓から見える風景に向かい溜息を吐く。
お茶を汲みにきた月などは、一刀の変わり様に、心配しっぱなしであった。
華雄は自己鍛錬を終え、その帰り道、そんな二人の様子を見て「ふむ」と、どうしたものかと頷いていた。
「ちょっと、お邪魔するよ」
「失礼します」
そんな折、県令府に秋蘭と流琉が訪ねて来た。
一刀は、ガタンと音を立て、勢いよく立ち上がる。
「ご主人様?」
「あっ、うん、月?――ごめん、仕事に集中してなかった」
一刀は、まるで月が傍に居たことに気づいてなかったような反応を見せた。
「――どうやらお客様のようですね」
「そ、そうだね」
一刀の様子を見て、何かを感じ取った月は、少し声のトーンを落として喋る。
「じゃあ、月悪いけど、お客様のお茶を用意してくれるかな?」
「……はい」
そわそわしている一刀を見ながら、月は、何故か心の中にモヤモヤを感じていた。
月は、その感情が――嫉妬であることは知っていたが、認めたくなく、その気持ちに固く蓋をし、エプロンドレスの裾を両手でつまみ、恭しく頭を下げて、一刀の言葉に従うのであった。
月が部屋を退出して少しの間をおいた後、部屋に華雄が秋蘭と流琉を引き連れてやって来た。
「――やあ、北郷。仕事中にすまないね」
「兄様。お邪魔します」
そして、一刀と秋蘭の視線が交差した。
その瞬間、一刀はドキンと胸の高鳴りを感じ、胸を押さえる。
けれど、それは気分を害するものではなく――とても、気持ちの良い感情であった。
一方の秋蘭も一刀の姿を見ると顔が火照ったように熱くなり、思わず右手を自分の頬に当て、俯いて一刀から視線を外してしまう。
そんな秋蘭の態度を見た、一刀は「あ……」と声を上げ、とても残念な表情を浮かべた。
「――? 兄様、どうかなされましたか?」
流琉の問い掛けを含めた言葉に一刀は、ハッとなり、首を横にブルブルと振った。
「何でもないよ流琉。よく、来てくれたね。秋蘭も」
一刀の呼びかけに秋蘭は顔を上げ、静かに頷いた。無論、頬は紅潮しているままである。
おかしな反応を見せる一刀と秋蘭の様子を見ていた華雄は、始めは疑問符を頭の中に浮かべていたが――ついには気付き、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。が、すぐに思い直し、心を落ち着かせて普段の表情に戻した。
(――なるほど。そういう事か)
月がお茶の準備を終えて戻ってきたのを合図に一刀は、秋蘭と流琉に椅子を勧め、二人が座ったのを確認すると自分も執務机に座りなおした。
華雄は一刀の後ろに控え、月は、作法に則り、茶を皆に振舞う。
秋蘭達の用件というのは、華琳の視察が終わり、自分達もそれに合わせて幽州の方面軍司令部に戻るという挨拶であった。
だが、それで話は終わらず、取り留めの無い話を一刀と秋蘭は続ける。
二人ともぎこちないながら会話を交わすのを見て、流琉も月も二人の感情に気が付いてしまった。
一刀と秋蘭は、共に男と女として惹かれあっていると――
月は、その感情が自分に向けられていない事に羨望と嫉妬を感じ、流琉もちょっぴりアンニュイな気持ちに捕われた。しかし、後者は自分が慕う、兄的存在と姉的存在の二人が結ばれる事に嬉しさも感じていた事も確かであり、月とは違いそこまで深刻な問題にはならなかった。
そして、それぞれの想いが混濁する時間もやがて終わりを告げ、別れの時がやってきた。
これ以上邪魔しては、一刀の政務に負担が掛かると感じた秋蘭は流琉を促して、県令府を後にするのであった。
一刀は、それを少し名残惜しそうにしていたが、自分の勝手な想いで相手に迷惑を掛けたくないという感情からそれを押し込める。
秋蘭も秋蘭で、別れ際に何かを告げようとしていたが、結局は、別れの挨拶を交わし県令府を後にするのであった――
夜の帳がおりて、夜空には幾重にも拡がる星空が浮かぶ。
一刀はその空の下、屋敷の中庭からそれを見上げていた。
頭に浮かぶのは秋蘭の顔。
弓を凛々しい表情で構える姿。ポーカフェイスの中にも色々な顔を見せてくれる姿。恥ずかしそうに微笑む表情。白く艶やかな肌。短めに切り揃えられ時折、美しく風に靡く青い髪。自分を見つめてくれる瞳。全てが――恋しく感じていた。
流石の朴念仁も自分の感情には疎くなく、はっきりと一刀は、自分が秋蘭に恋焦がれていると自覚した。
そこへ、月夜の光に照らされて一刀の前に現れる一人の少女。
「――ごしゅ……兄様」
「――月?」
こんな夜更けに現れた月に一刀は驚く。
そして、彼女が『ご主人様』ではなく『兄様』と一刀を呼ぶときは、これから家族として話すという二人の中では暗黙のサインである。
だが、月明かりでよく見えないが、どこかしら思いつめた表情をしている月に一刀は、上に羽織っていた学生服(似非)を月にかけてやる。
彼女はそれを受け入れながらも、キュッと力強く渡された上着を掴んだ。そして、真剣な表情で一刀を見据える。
「兄様、正直に答えてください」
「ん?」
「兄様は――夏侯淵さんに懸想されていますよね?」
月のストレートな言葉に一刀は胸を貫かれるような衝撃を受けた。
「ゆ、ゆえ、一体、何を――「ごまかさないでください!」――っ」
彼女らしくない剣幕で機先を制された一刀は黙ってしまう。
「そうなんですね?」
月の問い掛けに一刀は、少し躊躇したものの彼女に向かってコクリと頷いた。
「――どうしてわかったのかな?」
一刀の言葉に月は、微笑む。
「昨日、お家に帰ってらしてから、兄様、ずっと上の空でしたから。――本当の意味で気付いたのは夏侯淵さんと流琉ちゃんが来訪された事で確信しました」
「そっか」
一刀は、月の言葉で、醜態をさらしていたことにいまさら気付いて恥ずかしくなる。
「――それに、私はずっと、ずっと兄様を見ていましたから。わかるんです」
「えっ!?」
一刀は月に視線を戻すと、彼女は微笑みながらも瞳に涙を溜めていた。
「――月?」
月の態度に一刀は己の認識の甘さを呪う。
彼女は――妹としての愛情ではなく、ひとりの女として自分を求めていたのだと、彼女の涙で気付いてしまったから。
一刀は、自分が秋蘭に恋焦がれた感情によって、月が今抱いている感情の正体を知ってしまった。
本当は、本当は、今すぐにでも自分の不明を月に詫びて、彼女を抱きしめてあげたい。
けれど、それは『男』としてではなく、『兄』としての感情から湧き出たものである。
だからこそ、月を抱き寄せることが出来ない。それをしてしまったら余計に彼女を傷つけてしまうから。
月は、堪えなくなりポロポロと涙を零しはじめた。
それをエプロンドレスの袖で拭う。
「兄様には責任があります」
月の嗚咽を含んだ言葉に一刀は背を正し、黙って彼女の話を聞く。
「愛紗さんや、鈴々ちゃん、詠ちゃんもキョウちゃんも――みんな、みんな兄様の事を慕っています。兄様が、夏侯淵さんの事を本当に愛おしくおもうなら――さっさと告白しちゃって、くっついてください。そうしたら、私もみんなも諦めがつきますから」
「――けど、俺にそんな資格は「そんなの関係ありません! この期に及んで資格ってなんですか? 兄様が天の御遣いで、いつかは天に帰ってしまうかもしれないからですか? 兄様の想いはそんな程度で壊れるやわなものなんですか!?」――ゆ、ゆえ?」
今までに無い激しい感情を、自分の思いの丈をありったけ月は一刀にぶつける。
「明日には夏侯淵さんは帰っちゃうんですよ?」
「……」
それでも動かない一刀に月は『カチン』とトサカにきた。
そのまま、立ち尽くす一刀に近づく。
そして、背の差を埋めるべく、一刀の首の後ろに両手を回し、ぐいっと力強く一刀の顔を引き寄せ――
カチンと歯と歯がぶつかった――
月からの一刀へのキス。
そして、熱にうなされた様に、今まで募った想いを全てさらけ出す様に一刀の口の中を自分の唇と舌で犯す月。
官能的に、脳髄がとろけてしまいそうな、思わず意識を手放してしまいそうな情熱的なキス。
一刀は、思わず月を突き放してしまう。
それでも二人が、先程まで確かに交わっていた証として、甘露な糸が、月の唇から漏れているのを一刀は見てしまった。
「自分の想いのままに――兄様が後悔しないように……」
俯きながらも自分促す月の姿を見せられては、流石の一刀も決心を固める。
「――月。ごめん」
それだけを告げて、一刀は走って屋敷を抜け出して行くのであった。
「――月」
俯いている月の後から華雄が姿を現した。
「華雄さん……私、兄様にふられちゃった」
「そうか」
月は耐えられなくなり、華雄に抱きつく。
「う〜〜〜〜〜」
「我慢しなくていい。ここには私しかいないから」
華雄の言葉で、月の感情の糸が切れた。
火を切った如く赤子のように咽び泣き始める月。
華雄はただ、優しく月を抱きしめてポンポンと背中を叩いて彼女をあやすのであった――
秋蘭は、撤収作業が完了した啄県の城壁の外にある天幕から出て、夜空を見上げていた。
華琳に後押しされたものの、一刀を前にして勇気が出ず、結局何も言えないまま終わってしまった事に情けなさを感じていた。
目を瞑り、やりきれない溜息を「はぁ」と吐く秋蘭。
だが、目を閉じた事で他の感覚が研ぎ澄まされた結果、彼女の耳に足音が届いた。
「何奴!」
秋蘭は音のする後方に視線を向け振り返る。
そして、護身用の短剣を抜き構える。
「ちょっ、ちょっと待って、秋蘭! 一刀だ!」
その言葉に秋蘭は驚く。
そして、闇夜から現れたのは言葉の通り一刀であった。
「どうしたのだ。こんな夜更けにしかも――そんなぼろぼろのなりで」
秋蘭が指摘するように一刀は、上着は黒シャツ姿で、所々、顔や腕などに擦り傷が見受けられた。
「いや〜まぁ、なんだ、その――夜だから城門が閉まっているからさ、城壁の立哨している兵士の目を盗んで城壁を越えたのはいいんだけど、降りる際に、ちょっと足を滑らせてこのザマさ」
「何をしているんだお前は。兎に角ちょっとこい。傷の手当をせねばならんだろう」
「秋蘭、ちょっと待って!」
踵を返した秋蘭の手首を一刀は掴む。
「ど、どうしたのだ突然」
「――聞いて欲しいことがあるんだ」
「こんな夜分にか?」 一刀の真剣な表情から恥ずかしさで視線をそらす秋蘭。
「ああ。今じゃないと、ダメだと思うから」
秋蘭は、一刀と向き合い、掴まれた腕をそっと離す。
「それじゃあ用件を聞こうか」
一刀は深呼吸をし、動悸する心を落ち着かせて、再び秋蘭に視線合わした。
「お、俺は――君の事が、しゅ、秋蘭の事が好きなんだ! だ、だから、もし、秋蘭さえよかった俺と結婚を前提につきあってくれないだろうか?」
恥ずかしさを誤魔化す様に、一気にまくし立てる一刀。星あたりが聞いたら「前半は兎も角、後半がいただけませんな」と言われかねない告白である。まあ、一刀にそう告白されたら彼女もYESと答えるのは想像に難しくないが。
「――なっなっ……」
余談は兎も角、肝心の告白された秋蘭は、秋蘭で突然のことで頭が真っ白になってしまう。
彼女を知る者達、特に華琳や姉である春蘭から見ても今の彼女の姿は超レアであるだろう。
何故なら、恋する乙女の多感な表情になっているのだから――
そして、秋蘭は一刀と同じく動悸する心を落ち着かせるためキュッと目を閉じる。
思いもよらなかったが、一刀が告白をしてくれた。
(――ああ、後、あの朴念仁に告白するなら早いほうがいいわよ? あれは、ライバルも多い事ながら他人から向けられる想いに鈍感だから――戦争も恋も速さが勝負かもね? それなら貴女の得意分野でしょ?)
心に浮かぶのは華琳の言葉。
ならば、答えは既に己の中にある。
「――ほ、北郷。実はな、私もお前の事が――好きだ」
そして、二人の男女は歩み寄り――抱き合う。
「嬉しい。本当に嬉しいよ――」
「私も夢を見ているようだ――」
「夢なんかじゃないさ」
「それじゃあ、今感じているものが本当 だという証が欲しい」
一刀と秋蘭は熱の篭った瞳で見つめ合い――
誓いの口付けを交わした。
その刹那――
まるで地震がおこったような大音響が辺りを包んだ。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜」
とか、
「きゃぁああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜」
しまいには、
「ご両人おめでとうございます!」
啄県の郊外に人、人、人の津波の嵐である。
中には、秋蘭の部下達も混じり、「将軍おめでとうございます!」とかいう声も届いてきた。
一刀が見上げた城壁の上にも兵のみならず、人で埋め尽くされている。
遂にその集団は、いつの間にか明け始めている夜明けの朝日を背景にできたてほやほやのカップルに向かって万歳三唱を始めた。
その喧騒を止めたのは――華琳であった。
彼女は、二人の前に進み出て、片手をかざす。
その合図で喧騒が波打つように止まった。
さすがは覇王の放つオーラである。 「おめでとう秋蘭。それに一刀」
意地の悪い笑顔で華琳は二人に祝福の言葉を述べた。
「――まさか、この騒ぎは華琳の仕業か!?」
一刀は、自分の意識を取り戻すなり華琳に噛み付く。
「あら、私だけじゃないわよ? 流琉も一口噛んでいるもの」
「か、華琳さま〜」
共犯である事を簡単にばらされて流琉がバツ悪そうな表情で三人の前に出てくる。
「流琉……」
秋蘭は、流琉が関わっていた事に心底驚いていた。
「まあ、そんな細かい事どうでもいいじゃない。それよりも、天の御遣いに伴侶が出来た事の方が重要よ――天の御遣いを射止めたのは、魏国一の弓女神。良い語呂じゃない」
二人は、その言葉に抱き合ったまま頬を朱に染めた。
華琳は満足そうに微笑むと空に向かい右手を挙げる。
「漢の司空である曹孟徳がここに宣言する。北郷一刀と夏侯淵妙才の仲人として二人の前途に多くの幸があらん事を願う。ひいてそれは、この大陸全体の人々の幸福にならん事を!」
華琳の透き通った大音声が響いた後、再び、爆発的な歓声が巻き起こるのであった。
「華琳様にも困ったものだ――」
「けど、ちょっと恥ずかしいけどみんなに祝福されて俺は嬉しいよ」
「ほんごう――「一刀」――えっ!?」
吃驚している秋蘭に一刀は微笑んで、抱き寄せている彼女の耳元に囁く。
「これからは一緒なんだから。名前で呼んで欲しい――だから、一刀」
秋蘭はその言葉に頷いた。
「ああ、そうだな。一刀――これからもよろしく頼む」
そう言って、秋蘭は自分の頭を一刀の肩に預ける。
「うん。こちらこそ――あっ、秋蘭。帰る前にちょっと二人で行きたい場所があるんだけどいいかな?」
「ん? それは別に構わんが、どこに行くのだ?」
「彼女に報告しようと思って――
一刀の声は、人々の喧騒にかき消された。
その蒼天の空に靡く悠久の風が言の葉を運ぶ。
『オメデトウ、カズト。カノジョサンニ、チョットヤケチャウケド――シアワセニナッテネ――』
外史はまだ終わらない――
終劇
おまけ
一刀と秋蘭を祝う盛大な宴が啄県で開かれた後、予定を遅らせていた華琳は洛陽に向かう帰路にあった。
馬上で揺られながら、その表情は――とても妖艶に微笑んでいた。
(一刀と秋蘭がくっついたのは正直、予想外だったけど――ウチの子達の中から一刀と結ばれたのは大きいわ――うふふ、これで秋蘭との閨にかこつけて一刀も一緒に喰べる事ができるわね)
やっぱり、華琳様は、タダじゃ転ばない。自分のアフター・ケアもばっちりのようだ。
(うふふ、嬌声を上げる秋蘭と一刀を想像するだけで私――)
なんか、馬上で恍惚な表情を浮かべて指を咥えナニやら「ハァハァ」し始める華琳様。
(それに、一刀をダシに愛紗も同伴させて――ああ、帰ったら真桜にアレの改良を頼まなくちゃいけないわね)
「うふふふふふふふふふふふふふふふふ――
薄気味悪く嗤う司空様に護衛の兵達はドン引きでしたとさ。
おまけその二
一刀が秋蘭と護衛として流琉を連れて、今は亡き、かつての想い人の墓参りにいっている最中の、県令宅。
「くすん。兄ぃさまぁのばか〜」
月が酒を浴びるように飲みへべれけに酔っていた。
あの夜の後、妙に一刀は月を避けるようになっていた。
以前のように妹分としてのスキンシップで構って貰えなくなり、月はかなりフラストレーションが溜まっていたのである。
それは、一刀が彼女を『妹』としてではなく『女性』として認識が変わり、一刀はそう接しようとしているのだが、あんな衝撃的なディープキスを相方の秋蘭にもしてないのだから、彼が月の存在を恐れるのは無理もないだろう。
彼女は、まだそれに気が付いていない。
(――月。今はそれで良い)
月に付き合う形で酒を飲んでいる華雄は、心の中でそう呟いた。
(重要なのは『あの』ご主人様に『伴侶』が出来たというその『事実』。――あまりにも色事に疎いから正直、貂蝉や馬岱との衆道的な関係を気にしていたのだが)
結構、無茶な事を考えていた華雄。一刀が聞いたら本気で泣きそうである。
(夏侯淵殿がご主人様が正常であるという事を示してくれたのだ。なに、器量の大きい男であるなら側室や妾など山のようにいよう。――問題は如何に早くご主人様と月の関係を結ばせる事だ)
華雄は、くすんくすんと泣いてべそをかいている月を見て微笑む。
(――当面の強敵は曹操殿だろう。彼女の行動には細心の注意を払わなければ。いっそのこと――関羽辺りに情報を流して、手を組んで事に当たるのも一興かもしれぬな――恋や何だかんだで音々音もご主人様を慕っているし――詠は、もう少し、素直にならんと――まあ、気付かれん程度に後押しをしてやるかな?)
「太平の世も中々悪くない――」
と、呟きながら妹分達と一刀の幸せを思い描きながら華雄は酒をあおるのであった――
おしまい
H21 1/3 初版 H21 1/5 アドバイスにより誤字を修正
あとがき
MiTi さん お待たせしました。
キリ番SSようやく完成しました。
ご希望に合った『クーデレ』分は私の力量不足でダメダメですが、どうでしょうか?
少しでもご希望に添えたなら嬉しく思います。
クルイさん もう一つのキリ番は、もう少々お待ち頂けたら幸いです。
それでは。
|
トラックバックURL : http://blog.surpara.com/usr/trackBackAccept.html/63599

— posted by FUJIBA28
|
Comment[0] |
Trackback[0]
妄想†夢想 キリ番SS
恋姫†無双 キリ番SS (666666 HIT SS 九龍様)
蓮華編
※はじめに 孫権=お酒好き という、イメージしかわかなかった自分にorz
後、表現が一部、エイプリルフールSSの時みたいにちょっと過激かもしれないので一応、十五歳未満禁。 申し訳ありませんがお読みになられる時は自己責任でお願いします。
江東の碧眼美女はお酒がお好き?
曹魏を討ち、南国の孫呉をも併呑した北郷の王こと北郷一刀には今、気になる事があった。
無論、中国大陸の殆どを統一したとは言え、戦乱に明け暮れ疲弊した国の再開発や、歴史の裏で暗躍している白装束達の所在が未だに掴めないことなどの諸問題はあったが、それは“王”としての公的な立場の事であり、今、彼が気にしているのは“北郷一刀”という一個人私的な立場からであった。
一刀は、本日の朝議の後、執務室兼寝室で朱里から渡された行政府の仕事に関する採決が書かれた竹簡の山を黙々と処理していた。
お昼すぎに月が運んできてくれた食事を食べ、その後、食器を片付けにきた詠へ行政に関する質問をして、彼女に叱られながらも何だかんだで結局アドバイスを貰い、引き続き仕事をしていた一刀だが、ふと、溜め息をひとつ吐いて、筆をすずりに置き天井を見上げる。
そして何やら少し、思案した後、座臥の下に隠してあった履物を出し窓から抜け出すのであった。
まあその結果、一刀の仕事ぶりを見に来た愛紗が一刀の不在を知り、執務机の上に置かれた紙に『探さないでください』との書き置きを発見し、彼女は、顔少し俯かせながら不敵にワラう。
「ふふふ、またですか? ほんと、懲りない御方ですねご主人様は――毎度毎度、そんなにわたしを怒らせたいのですか!?」
紙を手でビリビリに破き、咆哮する愛紗。どうやら、ひとりの夜叉を覚醒させてしまったようであった。
一刀も懲りない――いや、ここまで来れば、ワザと愛紗を怒らせているように見えないでもない。要は、好意を持った女の子にはつい、意地悪したくなる感情が入っているのであろう。
兎にも角にも、一刀が愛紗に見つかったらゲームオーバーという宮中では、わりと日常的な鬼ごっこが今日も始まろうとしていた――
余談だが、鬼である愛紗が一刀を発見した時に彼が他の女の子と楽しげにしていた場合は、アイシャゴン覚醒の後、三途の川体験日帰りコース一直線である。
さて、仕事を放り出した一刀は、ある場所に赴いていた。
その場所とは、一応、捕虜という名目で捕らえている華琳に宛がわれた部屋である。
一刀は部屋の扉をコンコンとノックし、中から「どうぞ」という言葉を聞き、中へと入った。
「――お邪魔するよ」
「あら? 誰かと思えば一刀じゃない。どうかしたのかしら?」
部屋の主である曹操こと華琳は、書物に埋もれた机の隙間から顔をのぞかせていた。
「――また、すごい光景になっているな」
「そうね。暇つぶしに孫子の兵法書の編纂をはじめたのだけれど結構、おもしろくてつい熱中してしまっている最中よ――ああ、報告が後になったけど、この本はここの軍事府から借りたモノだから」
「ああ、それは構わないよ――そう言えば、他のみんなは?」
部屋の中をキョロキョロ見渡しながら、そんな事をのたまう一刀に華琳は少しムッとした表情になる。
「春蘭はこの部屋の惨状を見て知恵熱を出して、秋蘭が付き添って部屋から出て行って、桂花は私の頼みごとで席を外しているし、季衣はあなたの所のおチビちゃん(※鈴々のこと)と今日こそ決着をつけてやるっていきこんで出て行ったわよ」
「華琳?」
何故か、不機嫌そうな声音でそう伝える華琳に一刀は首を傾げる。
そんな一刀の態度に華琳は「はぁー」っと呆れた溜め息を一つ吐くのであった。
「まあ、朴念仁のあなたに期待してもしょうがないわね――で、ここに来たって事は、何かしら用事があるってことでしょう? なにかしら?」
「ああ、実は華琳に頼みたいことがあってさ」
一刀は華琳に視線を戻しながらそう答えた。
「へえー、中華を統一した王が虜囚の身である私に頼み事って何かしら?」
華琳は、両手で頬杖を付きながら、幼さの残る顔立ちに妖艶な微笑を浮かべる。
一刀は、華琳の視線にドキッと少し、ときめいてしまうが、首を振り、心を落ち着かせる。
「ん。実は、桂――いや、華琳が造った酒を少し分けて貰えないかなと思ってさ」
華琳は一刀の申し出に少し意外そうな表情を浮かべた。
「なんかヘンな事言ったのか?」
「違うわよ。あなた王――いえ、覇者としての自覚はないの!? わたしは、あなたに負けた捕虜よ? そんなこと――これ以上言っても無理ね」
華琳は一刀に権力者としての自覚の無さを誡めるため言葉を投げかけるが、何の事かわかっていないキョトンとした一刀の表情を見て、それを止めた。
そして、それならそれとして、言葉を紡ぐ。
「まあ、好きなだけ持っていけばいいわよ。けど――その見返りとしてあなたは何をくれるのかしら?」
楽しそうな表情を浮かべながら、少し意地の悪いことを言う華琳。
「うっ……」
一刀は痛いところを突かれたように眉を顰める。
王とは言え、私用で仕える一刀の財産は、一兵卒の給金と同じ額。“女遊びをされても困るから”という理由で、相も変わらず、愛紗と朱里の紐は固いようである。
まあ、そのおかげで紫苑などは時折、金欠の一刀の面倒を見ていたりして、彼の好感を得ているのだから愛紗達の策は完全とは言えないのだが。
話は元に戻るが、華琳の造った(実際にはほとんど桂花だが)お酒は、あまり酒に詳しくない一刀から見ても市に売り出せば高価なものだと理解していた。
「……俺の出来る範囲であれば、一つお願いを聞くよ」
「殊勝ね」
故に、一刀はそう答えたのである。
華琳は、紙に酒蔵から必要な分だけ酒を持ち出す許可を一筆書き、一刀にそれを渡した。
「ありがとう、華琳。恩にきるよ」
「ひとつ、ついでに忠告しておくわ。――これからは、余り自分を安売りしない事ね」
「? ああ」
一刀は華琳の言った意味を完全に理解出来ていなかったが、とりあえず頷いて答えたのであった。
「じゃあ、悪いけど急いでいるからまた」
「ええ、わかったわ」
部屋を出て行った一刀を確認し、華琳は少し、疲れたような表情を浮かべ、椅子の背もたれに身体を預け、少し、ズレ落ちる。
「ふぅ、全くあの男は、自分の価値と置かれた立場が全然解っていないわね全く――捕虜に対しても、安請け合いしていると、いつか寝首を掻かれる事になるかもしれないのに」
(まぁ、でもそれならそうならないように一刀の支えとして、――宰相にでもなって、彼を補佐して、実質的な天下を取るのも悪くは――いや)
そこまで思考して、華琳はぶんぶんと首を横に振って、少し頬を朱に染める。
「らしくないわね――いっそのこと、今回の借りのお礼は“あなたの正室にしてください”とでも言ってみようかしら? ふふふ、愛紗達の怒る姿が目に浮かぶわね――」
華琳は今の暮らしを満更でもなさそうに過ごしているようであった。
酒蔵から、少し大きめの徳利に酒を手に入れた一刀は、目的の場所に向かっていた。
「――主」
だが、その道中、星と出会い呼び止められた。
「星」
一刀の呼びかけに星は、満足そうに少し微笑みを携えて、一刀の許にやってきた。
「普段ならまだ、政務のご時間でしょうに、このような所でお会いするとは思いもしなかったゆえ――さぼりですか?」
「まあ、そんな所かな」
星の言葉に一刀は、ごく自然に答えた。
それ故に、星の視線が少し細くなる。
「ほう、そうですか……なれば、護衛も付けず、どのような理由があってこちらにお越しですかな?」
一刀の行き先には宮中とは言え、彼が一人で行くには余りよろしくない場所であり、星は臣として己の主の軽率な行動を諌める。
「……ん」
だが、一刀は星の質問に即答せず、視線を彼女から外して、どうしたものかと言わんばかりの態度で考え込んでいた。
星は、そんな一刀の態度に、さて、どうしたものかと考えていたが、ふと、一刀の持っていた徳利に視線が移った。
「――主、それは酒ですね?」
「あ、うん。実は、華り――」
一刀はハッとした表情になり慌てて右手で己の口を塞ぐ。
「なるほど。曹操が造ったアレですか――主、是非私も一献戴きたい「ダメだ!」――ふむ」
普段の一刀らしからぬ発言に、星はよほどの事だと思考する。
「とにかく、今回は見逃してくれないか星。――頼む」
一刀は両手を合わせて星に懇願した。
星は、そんな自分の主君に思わず苦笑してしまう。だが、その瞳はどこか優しげに一刀を見つめていた。
「主、お顔をあげてください。何も無理やり取ってまで飲みたいとは思いませぬゆえ」
一刀は顔を上げて「本当か?」という表情を浮かべてる。
「ははは、主は私を何だとお思いか?」
「――妖怪メンマスキー」
阿吽の呼吸、打てば響くという形で一刀はキッパリと迷う事無くよどみもせず、真剣な表情でそう答えた。
「ほう」
星の整った顔立ちがヒクヒクと怒りで痙攣し、手にしていた槍を一刀の首へあてがう。
「はっ! しまったつい…・・・」
「――ついで許される問題ではないと私は思うのですが?」
一刀は目的のために手にした酒を失わないように必死になっていた為、少し、注意力がおろそかになってしまい普段とても口に出せないことを口走ってしまったのである。
星の気の篭った瞳に一刀は、蛇に睨まれたカエルのようになり脂汗をダラダラと掻き、迫りくる恐怖に恐怖で目を閉じた。だが、酒だけは何としても死守せんと後ろ手で背に隠す。
だが、一刀の予測を超えて星は――
――ちゅっ
何が起こったか咄嗟に理解できない一刀は己の唇を指であてがう。
そして、星に視線を向けると、彼女は少し頬を朱に染めながらもまるで、イタズラ猫のような表情で微笑んでいた。一刀と同じく、人差し指を己の唇に当てながら。
「ふふふ、今回はこれで無しという事にしておきましょう――主、少しの浮気ならそれも男の甲斐性とは思いますが、私も女ですので、お慕いしている殿方が、他の女を必要以上に気を遣うのは正直、好ましくありませぬ――まあ、今回はお優しい主に免じて見逃しますゆえ」
星は、石のように硬直している一刀の頬を愛しそうに優しく撫でると、その場を後にする。
「…・・・」
後ろの柱の影から感じる、戸惑いと怒りと嫉妬を含んだ視線を背に感じながら。
(ま、今回は貴女に主を譲るのだから、このくらいの役得は貰っておいて然りだろう?)
星は本当に楽しそうに口元をニヤリとさせながら、飄々とした態度で去るのであった。
「――全く、星のやつにも困ったもんだな」
そうブツブツ言いながらも先程の星との情緒を思い出し、少し頬を赤くする一刀ではあったが、目的地である孫権こと蓮華の部屋の前に辿り着き、コホンと咳払いをして心を落ち着かせる。
そして、コンコンと部屋の扉をノックした。
「蓮華。一刀だけど」
だが、反応が無いのでもう一度、ノックする。
「蓮華ー」
さらにもう一度。
一刀は蓮華が不在な事に首を傾げる。
記憶に間違えがなければ今日の午後、彼女は部屋にいる予定であっただからだ。
故にこうして、一刀は午後の政務をサボってきたのではあるが。
彼女に対して気になる事がある一刀はここで諦めたら、次の機会が得られるのか解らないと考えていたが、ふと、扉をよく見ると、少し開いていたのである。
悪いとは思いつつも一刀は部屋の扉を開けた。
「蓮華?」
探し人は部屋の中にいた。
ただ、椅子に座って顔を俯かせているので彼女の表情が今どのようになっているのかは、一刀の位置からわからない。
「……お邪魔していいかな」
「何のようかしら? “北郷”」
どこか陰の雰囲気を纏い、虚ろな表情で言葉にそう答えた蓮華。 一刀は思わず、一歩後ずさってしまう。
呼び名が”一刀“から”北郷“へ変化しているのも気になったが、これではどのみち埒があかないと考えた一刀は勇気を出して声を出した。
「蓮華に逢いにきた」
「うそ」
「? うそじゃないよ。どうして、そう思うの?」
「さっき、そこで趙雲将軍と仲良くしてたじゃない――唇まで交わして」
蓮華の言葉に一刀は、見られていた事に驚いたと同時に、星のおかげで話が、余計にややこしくなってしまった事に頭を悩ませる。
「あれは――事故のようなもので、たまたまそうなっただけで、あまり深い意味はないよ」
星がこの場にいたら、間違いなくオシオキされそうな事を言う一刀。
「ふーん。北郷は、好きでも無い相手と唇を交わすのね」
蓮華の言葉に一刀は、突然、真剣な表情に変わる。
「いや、そんなことはない。今回は事故だったかもしれないけど、俺は、星の事が好きだから、そんないい加減な事はしない」
一刀の剣幕に、何よりも『星の事が好きだから』という言葉に、勢いに押される蓮華。
そんな彼女の心の動揺を察した一刀は首を横に振る。
「いや、こんな事で言い争うために俺はここに来た訳じゃない」
「……」
「――蓮華と一緒にこれを飲もうと思ってね」
一刀は徳利を持ち上げて、笑顔を浮かべて蓮華にそれを差し出した。
「――えっ?」
思いもよらない一刀の言葉に蓮華は、纏っていた陰の空気が一気に四散し、小麦色の頬を朱に染める。
―― 一刀が私に逢いにきてくれた?
きちんと、そう理解した蓮華は、先程、外で見た一刀と星の一見すら忘れ、急にソワソワし始めた。
(か、一刀が逢いにきてくれたのに、わ、私、きちんと身なりを整えない!?)
「蓮華、どうかしたのか?」
「! ううん、何でもない」
恥ずかしそうに身を縮こまらせて、顔を俯かせる蓮華。
「まあ、この酒をぱーっと飲んでさ、面倒なことは忘れてさ。気晴らしでもしようよ」
「えっ?」
一刀は蓮華が塞ぎ込んでいる理由を彼なりに理解していた。
北郷軍に破れ、呉の王としての地位を失い、しかし、一刀のはからいにより生きながらえることが出来、建前は捕虜ということで、新しい環境に置かれ困惑していたこと。
曹操のように機転が利き、要領がいい人間なら兎も角、蓮華のように不器用で一途な人間はどうしてもそういった新しい環境には馴染めず、また、消極的な性格が災いして塞ぎ込んでしまう。
それは、性格のことはさて置き、一刀がこの外史に飛ばされた直後と似たような状況であったからだ。
いくら、愛紗や鈴々が傍に居てくれたとは言え慣れるまで孤独感は消えなかった。故に、蓮華の気持ちを考えると、一刀は放って置く事が出来なかったのである。
さらに彼女は、先の戦いで仲違いはしたものの姉亡き後、自分を支えてくれていた周喩――冥琳を失ったことも大きい。 一刀の気になる事というのは、仲良くなった蓮華が塞ぎ込んでいるので何とかしたいという事他ならない。
それで、考えついたのが酒盛りというのは考え物ではあるが。
だが、蓮華にとっては、“一刀が自分の事を気にかけてくれていた”というのが重用なのであった。
「……あ、ありがとう一刀」
「ははは。さあ、飲もうか。味の方は保障付だからさ」
こうして、二人は酒を飲み交わす事になった。
――だが、一刀は一つ気づいていないことがあった。
孫権仲謀といえば――無類の酒好きなのである。
しかも酒癖が悪く、人にも無理やり飲ませたりし、度々、それが臣下とのトラブルのもとにもなっていたという記述があったことを一刀は覚えていなかった。
故に、飲み始めて数刻後に彼の不幸は始まるのであった。
北郷一刀は今、窮地に瀕していた。
蓮華と軽く飲み始めていた時は、談笑交じりにほんわかとした空気であったのだが、貰ってきた酒を二人で飲み干し、追加を貰ってきてから、その様子が段々と変化してゆく。
何時のころかは覚えていないが、蓮華の目は座り、ただ無言で酒を煽り出したのである。
その空気が一刀には重たかった。
そこではじめて、鹿児島の祖父の家で読んだ三国志の本に『孫権はお酒が大好きであり、酒癖が悪かった』という記述を読んだことがあるようなないような気がしてきたのである。
「―― 一刀」
ジト目で蓮華がこちらを見据えてきた。
「ん? なんだい蓮華」
酔っ払いは刺激しないに限ると考えていた一刀はやんわりと蓮華の言葉に応じた。
ずいっと酒の入った器を一刀に差し出す蓮華。
「まだ、こっちに入ってるよ?」
一刀は自分の手にした器を少し持ち上げて彼女に見せる。
「ん」
だが、それとはおかまいなしに蓮華はさらに手を伸ばし、器を一刀に押し付ける。
「……」
一刀は、それを受け取る。
手持ち無沙汰にどうしたものかと考えながら、酒を眺めているとじぃ〜っとこちらを見ている蓮華の視線を感じた。
一刀が蓮華に視線を向けると彼女は、無言でこちらをずっと見ている。
試しに一刀が、手にしていた酒を一気に煽る。
すると、彼女は表情を嬉しそうに崩した。そして、空になった器に新しい酒を注ぐ。
一刀が躊躇していると、蓮華は表情をまたいつものポーカーフェイスに戻し、「ん」と言って、その器をずずいっと一刀に差し出してきたのである。
(――もしかして、エンドレス!?)
流石に一刀はこのペースで飲まされたら潰れると、自分の酒量を弁えていた。
「あー蓮華? 俺、これ以上はさすがに……」
と、一刀が断ると――
「……ひっく、えっぐ、えっぐ」
蓮華は、碧い瞳からぽろぽろと涙を流し始めたのである。
普段のクールな彼女とは違い、まるで幼子のように涙を流す。
「ははは! よし! どんときなさい蓮華クン!」
一刀はそんな蓮華を宥めるために、胸を張り“どーんとこいカモーン”と虚勢を張る。
すると蓮華はまるで向日葵のような笑顔になり喜びの表情を浮かべた。
「……」
そんな彼女に見惚れてしまい動きが止まる一刀。そんな彼を余所に蓮華は笑顔のまま彼の器にトクトクと酒を注ぐ。
そして、一刀は頑張って酒をあおる。
蓮華にもうキツイと告げる。
蓮華悲しむ。
一刀酌を受ける。
蓮華喜ぶ。
一刀頑張って酒を胃に流し込む。
蓮華笑顔で空になった一刀の器に酒を注ぐ
エンドレス。
こんなことが幾たびと続き、一刀は机にうつ伏せに倒れてしまう。
「……さ、さすがに、もう、飲めない」
一刀がこれ以上は、勘弁してもらおうと蓮華の顔を見上げると――彼女は、倒れた一刀が不満らしく、不機嫌な表情をしていた。
蓮華は、一刀が見上げている事に気が付き、また空になった器に酒を注ぐ。
「いや、蓮華さすがにこれ以上は――」
と、一刀がうつ伏せのまま苦笑いを浮かべながら蓮華にそう告げる。
「……勝負」
「は?」
「私の酒が呑めないというなら、それ相応の事をしてもらう――そうね、何か面白いこと言って私を笑わす事が出来たら勘弁してあげるわ」
「……」
蓮華のあまりにも理不尽な提案に一刀は頭痛を感じるのだが、さりとてこれ以上酒は飲めそうに無い。故にそれの話に乗る。
「ん……」
一刀は少し考え、やがて答えが出来たのか、蓮華に視線を戻した。
「えーっと、“周泰(しゅうたい)さんがお酒を飲んで醜態を晒す”なーんてね」
ひゅるりら〜
彼が選んだのは、駄洒落。しかも、かなり寒い。
とりあえず炎も凍てつくような蓮華の流し目が一刀の心臓に突き刺さる。
さらに、その場にシュタッっと音を立て、天井から影が降りてくる。
その影は、クノイチのような忍者衣装を身に纏った蓮華のボディーガードである周泰こと明名(みんめい)その人であった。
「「「・・・・・・」」」
何ともいえない気まずい空気に支配されてしまう。
「……う」
「う?」
明名の言葉に一刀が首を傾げる。
そして――
「うわ〜ん! かずとさまの馬鹿ぁ〜! 私、蓮華様みたいに酒乱じゃないもん!」
そして、そのまま部屋を飛び出しフェードアウト。
普段、大人しい彼女が取り乱した事に一刀は驚きを感じつつも、どうしようもないので諦める事にした。
だが、一刀はそれで窮地を脱したわけではない、明名の出て行った扉を見ていたのだが、悪寒が彼を襲う。
そして、振り向くと、何時の間にか席を立ち一刀の後ろに回りこんだ蓮華が酒の入った器を手にしていたのである。
「おもしろくなかった――だから、罰として飲む」
淡々と冷酷な表情で一刀にそう告げる蓮華。
「いや、蓮華。うん、落ち着こう」
一刀は何とか蓮華を宥めようと立ち上がり彼女の両肩に手を置き、椅子に座らせよと促す。
そんな一刀の心中をよそに蓮華は器に入った酒を少し口につけた。
(ああ〜こんなに蓮華が酒癖が悪いとは……もうちょっと別の手段を考えるべきだった――んぐうぅ!?」
思考が突然途絶え、一刀は口の中に突如、広がる酒の味を感じた。
そして、鼻腔に広がるのは、目の前で一刀の口を自分の唇で塞いで酒を口移しで流し込んできた蓮華の甘い香りであった。
「――!?」
ピチャ、ピチャとどこか淫靡な音を立て、酒と唾液が蓮華の舌が交わる感触に一刀は目を見開いて石のように固まってしまった。
「――ぷはっ」
蓮華は一刀の口内を充分堪能し、満足したのか一刀から唇を離した。
その表情は、艶かしく喜びに満ちた女の表情を浮かべていた
一刀の唇と蓮華の唇との間に銀糸が一本垂れている事が先程の行為の激しさを物語っているようであった。
そして、一刀は――
目を見開いたままそのまま後ろに後頭部から、ばたーんっと倒れてしまったのである。
「……?」
蓮華は何故、一刀が倒れたか理解できないようで、可愛らしく首を傾げていた。
一刀の頬をぷにぷにと指で突いて、反応が無いことを確かめると、蓮華は器に入っていた残りの酒を飲み干し、寝台にあった毛布を一刀にかけた。
続いて、その場で蓮華は頭に付けている冠を取り、机の上に置く。
「ふぅ」
そして、毛布をめくり、気絶した一刀を抱き枕のように抱えながら、彼の胸に寄り添う。
「ん〜おやすみ、かずとぉ」
ここに来て、いや、姉の孫策が無くなって依頼始めての心底に幸せそうな笑顔を浮かべ蓮華は、一刀の横で目を閉じたのであった。
孤独な王であった呉の元王は、一刀に出逢い、そして敗れてこうして生活するようになり、本当の“蓮華自身”の幸せを掴み始めていたのかもしれない――
願わくばこの不器用なまでに生真面目で、心優しき少女に幸せを――
終劇
おまけ
「うーん」
一刀は閉じた瞳に陽光を感じ、意識を覚醒させた。
シュルシュルとを音を立てながら毛布を体から除け、腰を起こす。
「――頭が痛ぇ」
ズキズキと頭が痛み、吐き気を少し感じながら一刀は立ち上がろうとしたが、半身に重みを感じ、そちらに視線を移すと――
そこには自分に寄り添うようにして、幸せそうな寝顔をしている蓮華がいた。
その状況に一瞬、ドキッとしたが、彼女の表情を見るとそれも落ち着く。
優しく蓮華の前髪を指で梳く一刀であったが――背後から感じる身の危険に振り向かないほうがいいと頭の中で解っていても振り向く。
そこには、阿吽の金剛像よろしく若しくは、西遊記に出てくる金角、銀角兄弟のように仁王立ちしている愛紗と思春がいた。
「――ご主人様? 昨日は政務を放棄してこのような所でさぼっていたのですか? さぞ、お楽しみだったようで」
一刀を冷たい瞳で見下している愛紗。
昨日、一刀の姿が見当たらず始めは怒りでうち震えていたが、やがて、不在な事にそれは心配にかわり、必死で彼を探していたらしい。
愛紗の瞳にはクマが浮かび、手入れの出来なかった美しい髪が少し乱れている。――故に怖さは倍増である。
「北郷一刀、貴様! 蓮華様に対してどのような不埒な振る舞いをしたのか!」
「えっ? ……」
激情する思春の言葉「不埒な振る舞い」というキーワードに一刀は、昨日、意識を失う前に蓮華に情熱的なキスをされた事とその感触を思い出し、目の前に居る二人から視線を外し、頬を染める。
ブチッ!
一刀の態度に愛紗と思春は堪忍袋の緒が切れた。
ドンガラガッシャン! ドタン! バタン!
滑稽な音を立てながら、二人の猛将から処刑を喰らう一刀であった。
「――あ、愛紗! 俺のお尻に青龍偃月刀は入らないから! アッー!」
一刀の雄叫びが虚しく、朝議前の宮中の中に響き渡る。
そんな中にあっても、碧眼の少女は安らかな表情ですやすやと幸せそうに寝息を立てていたそうな――
おまけ その二
「とほほ〜 愛紗も思春も、手加減してくれよ全く」
身体のいたる所に包帯を巻き、頬に残る引っかき傷が非常に痛ましい姿を晒している一刀は、遅れが出ていた政務にしぶしぶと励んでいた。
(まあ、痛い目にはあったが、蓮華が元気になったのならそれでいいかな)
一刀は筆を動かしながら、そんな事を考え少し微笑むのであった。
「――失礼します」
そんな事を考えている一刀の許へ、愛紗が訪れてきた。
彼女は、少し緊張した面持ちで一刀の傍へと歩いてきたが、執務机を挟んだ状態でピタリと動きが止まった。
「? どうしたの愛紗」
両手を後にやり、なんだがそわそわしている愛紗を不審に思った一刀が声をかける。
「ご、ご主人様!」
「は、はい!」
突如、叫んだ愛紗に吃驚した一刀は背筋を伸ばし返事をする。
そして、ダンッ! と大きな音を立てながら、愛紗の手により机の上に置かれたのは徳利であった。
「――もしかして、お酒」
「はい、ご主人様が仰るとおりです」
「また、なんで?」
一刀のその言葉に愛紗は、耳まで真っ赤にさせ、俯く。
「ご、ご主人様も考えてみれば年頃の男性です。で、あるなら――やっぱり、こう政務や会議ばかりだと、その溜まってしまうのは無理もないかと」
「は?」
愛紗の言葉の意図が読めない一刀は首を傾げる。
「で、ですから! そのはけ口を求め、捕虜の身にある女性を用いて解消して、それが街中に広まったなら、国の品位が民に問われてしまいます!」
「あ、愛紗」
そこで、愛紗が何を言っているのか理解した一刀は、先日の蓮華との件を思い出し恥ずかしさで頬を朱に染めてしまう。
「――ですから! そ、そのような事をなさらずとも、臣下である私にお申しつけてくださればいつでも……ごにょごにょ」
愛紗は恥ずかしそうに身を小さくさせながら、一刀にそう告げる。
「い、いや、なんだその」
好意を抱いている異性からそんなアプローチを受ければ一刀とて、嬉しくないなんてことはない。
何ともいえない二人の間に微妙な空気が流れる。それを破ったのは――
「お兄ーちゃん! 鈴々と一緒にお酒を飲もうなのだ!」
自分より大きな瓶を背負ってまるでお日様のような笑顔を浮かべながらやってきた鈴々。
「あ、あの! 本で調べて気分が和らぐ薬草の入ったお酒を作ってみたんですが――はわわっ! 愛紗さんに鈴々ちゃん!?」
自分で調合した酒を手にしてやってきた朱里。
「ごごごごご、ご主人様! あたしの故郷の西涼のお酒を部下の奥さんから貰ったんだ! よかったら…… なななな、なんでみんなもいるんだよ!」
なにやら決意した真剣な面持ちでやってきた翠は、一刀以外にも人がいた事に驚き、首まで真っ赤にさせて、部屋の隅へと後ずさって「う〜」と唸りながら、一刀を恨めしそうに見る。
「主、街の酒屋でここより遠き国から仕入れた珍しい酒を手に入れましたぞ――ん? ふむ、“皆も考える事は一緒”なのか」
翠の後に、窓から侵入してきた星は、部屋の中にいる者達を見渡して、満足そうに微笑む。
「失礼しますわ――ご主人様」
「ごしゅじんさまー」
そして最後に部屋に現れてたのは、娘を抱っこしながらニコニコと楽しそうな笑顔で入ってきた紫苑と、母に抱かれて、お酒の入った瓶を落とさないように両手に抱えた璃々であった。
何気に璃々の衣装が、月や詠が着ているメイド服と同じである。
娘に何をさせる気なのでしょうか紫苑さん?
「……」
一刀は執務机にパタンと力無く、うつ伏せで倒れる。
もう、お酒は当分コリゴリだと思った一刀であった――
おしまい
あとがき
666666Hit キリ番SSがようやく完成しました。(約二ヶ月以上)
九龍さまのご依頼は蓮華で、外史を舞台にした外伝との事でしたが、こんな感じになりました。orz
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
それでは、短くて申し訳ありませんが、失礼します。
|
トラックバックURL : http://blog.surpara.com/usr/trackBackAccept.html/55004

— posted by FUJIBA28
|
Comment[4] |
Trackback[0]
妄想†夢想 キリ番SS 700000Hit (ゼファーさんのリクエスト)
〜お読みになる前に〜
このSSは、設定をかなり変えています。
ダイレクトに言うと、ヒロイン役である華琳様の年齢が一桁程、若くなっている仕様となっています。
各キャラクターもそれに伴い、聖典(原作)とはかなり違う作りになっています。
よって、原作至上主義者の方はここで回れ右をお願いいたします。
これも一つの外史だと許容していただける方は、駄文ではありますがどうぞよろしくお願いします。
上記の点を踏まえた方は下へスクロールをしてくださいませ。
妄想†夢想 華琳伝
『かりんさまは○学○年生!』
空には暗雲が立ち込め、今にも雨が振りおちそうな雰囲気が立ち込めている。
しかし、そんなことを思考の片隅にも置かず、ただ、じっと目の前にある霊廟の前にたち続ける幼き少女が一人いた。
年の頃は、まだ幼く十にも満たっていない。可愛らしく頭の両側頭部でカールさせた金糸の滑らかな髪が美しく、幼いながらも目鼻が整った年齢にそぐわない美しい顔立ちが、彼女に言い表す事の出来ない艶やかさを醸し出している。
将来、大人の女性に成長したら間違いなく美女と謳われること間違いない少女であった。
「……」
だが、今、彼女の本来、美しい色を携えているであろう瞳には色は無く、生気が感じられない。
(……ひとりぼっちになっちゃった)
少女は心の中で悲しみを憂う。
目の前にある霊廟に眠っているのは、自分を可愛がってくれた祖父。酒癖が悪かった父――自分と同じ暗闇さえ照らし出すような美しい金糸の髪を持った母の三人であった。
少女は、幼くして祖父と両親を亡くし、天涯孤独の身となってしまったのである。
(……わたしが、ほんとうにのぞんたことは――)
少女はそこまで考えて、首を左右に振った。
もう、自分の本当に望んだ夢は一生叶うことはないのだから。
祖父や父が私財を溜めていてくれたおかげでお金に困ることはない。
少女自身、幼いながら他の者に追随を許さないほどの才を持っていた。
故に彼女が一門の本家を継ぐ事に多少の反対があったが、親戚筋の夏候家、傍流の曹家の協力もあって少女は多少なりとも権力を手に入れたのであった。
奇しくも世の中は、天子が蔑ろにされ、官は金銭でその位を買い、地方で叛乱が起こる乱世の到来を告げていた。
少女は、己の掌を開いてじっと見つめ――力強く握り締めた。
ならば――己の技量で、女の身でどこまで行けるのか、それを試してみるのも悪くないと、年齢にそぐわない野心を心の中にたぎらせるのであった。
突如、雷雲が地に向かい激しい音を立てる。
続いて稲光が空から堕ちる。
少女は、それを見ながら薄く微笑むのであった。
少女の名は曹操孟徳。真名を華琳という。
後に『治世の能臣、乱世の奸雌(し)』と呼ばれた万能の異端児はここより中原へと躍り出ることとなった――
祖父と両親の墓参りを済ませたその帰り道、華琳は仔馬に跨りながら私邸へと向かっていた。
だが、あと数刻で家に着く前、道端に何かが倒れているのを発見する。
「? いきだおれかしら――にしては、かわったいしょうをみにつけているわね?」
華琳は、行き倒れている人物の着ている服に好奇心が刺激され、そこへと近づく。
行き倒れていたのは――そう、聖フランチェスカ学園の服を身に纏った青年、北郷一刀その人であった。
(あら? へーみんにしては、けっこう、かおだちはととのっているわね)
「……うっ」
華琳が倒れている一刀をまじまじと見ていたら、彼は意識を取り戻し始めるのであった。
一刀は、意識を取り戻す。
そして、後頭部に頭痛を感じながら、何故このようになったのかを思い出していた。
そう――
「あいつ、男のなのにチャイナドレス似合っていたな……」
一刀が頭の中に思い浮かべていたのは――深夜に出会った真紅の生地に龍が描かれたチャイナドレスを身に纏った少年、左慈であった。
左慈とばったり遭遇し、その手には博物館に展示している筈の銅鏡があった為、本来はそれを咎めねばならぬのが一刀の責務であったはずだが、不覚にも相手に見惚れてしまい、気を取り戻した瞬間には、チャイナドレスのスリットから出た脚線美の足により側頭部を蹴られ、意識を刈り取られていたのであった。
そして、意識を取り戻した一刀の眼前に飛び込んできたのは――
「ふむ、白か」
幸か不幸か、意識をなくして倒れていた一刀を観察していた曹孟徳、いわゆる華琳のパンツであった。
「しね」
少し、舌足らずの声音でいきなり死刑宣告をされ、次に一刀見たのは――すごい勢いで振り落とされる靴底であった。
容赦なく靴で一刀の顔面を思い切り踏み抜く華琳。
幼き覇者の気位を持ち合わす少女の下着を見た罪はどうやら万死に値するようであった。
〜妄想†夢想 華琳伝 完〜
冗談はさて置き、今回の外史は二人の出会いにより始まる。
一人は、中原を駆け抜ける稀代の英雄。
もう一人は、この乱世にあっては、平凡な一介の元学生。
異端の外史は、くるくると縁(えにし)の糸を紡ぎ始めていた――
繰言になるが、曹操こと華琳は大変稀有な存在である。
一刀は、「わたしのしたぎをのぞいたつみは、あなたごときのだけんが、ひゃくまんかいしんでもつぐなえるものではないわ――しぬまで、わたしのいぬとしてつくしなさい」
と、華琳に問答無用で――まあ、乙女の下着を覗いた罰なのだから当然といえば当然なのだが、理不尽な契約を結ばされようとしていた。
そして、現代日本人とはいえ、鹿児島に住む祖父から日本男児たる何かを学んでいた一刀は「わかった」と自分の非を認め、『華琳の言葉に従って』しまった。
それは、元には戻れない帰りの見えない地獄への片道切符であった。
華琳は幼くも美しい顔立ちに、何か悪巧みを思いついたのようにニヤリと妖しく微笑んだ。
まるで、中国殷王朝末期時に、紂王を色香で手玉に取った悪女、千年狐狸精(せんねんこりせい)所謂、妲姫(だっき)のように――
そして、一刀は華琳の奴隷(犬)になる代わりに、衣食住を得ることが出来たのである。
「えっ? これ、何てプレイ!?」
「『ぷれい』って……また、わたしにわからないことばばかりつかって――まあ、みてのとおりく・び・わよ!」
華琳に忠誠の証しとして首輪を取り付けられた北郷一刀。
幼女に躾けられる高校生の不可解な図がそこにあった。
一刀は思う。この場で、刀を授けてくれるのなら――切腹したかった。割と本気で。
「あはは〜、兄ちゃん可愛いよ〜」
「うん、とっても」
「……」
曹操の近衛を務める上から、許緒こと季衣、典韋こと流琉、そして最後にコクコクと二人に続いて頷いている楽進こと凪の三人が一刀の首輪姿を褒める。
――何、この幼女率。
兎にも角にも異世界からの異邦人北郷一刀は曹操孟徳こと華琳の許で、近衛として仕える身になったのであった。
「くー! 新参者くせにぃ!」
「ああ、華琳様。何故、そのような畜生に気を許すのですか〜」
「……桂花、姉者。仕事をしてくれ、頼むから」
一刀の処遇について嫉妬する軍師と猛将。その二人を懸念するクールな弓遣いが柱に隠れていたり。
十にも満たない幼なさながらも、曹一門を纏め上げ、信賞必罰を持って事にあたり、黄巾党の乱を始めとし、華琳は中原へ躍り出る――
董卓討伐軍への参戦。
「おーほっほっほっ! 私が連合軍の盟主を務めるからには、董卓さん如きに負ける要素なんて皆無ですわ! 華麗に舞って差し上げましょう」
おバカ盟主こと袁紹が、高らかに笑い連合軍の勝利を宣言する。
そんな事を華琳様が見過ごす訳もなく――
「――オバサンがまっているのはあたまのなかみでしょ?」
ある意味、子供らしい直球な発言。
「キィー! このチビジャリ許しませんわ!「わわわ、姫! ダメですよ!」――顔良さんお放しなさいな! 文醜さん! 何故、笑っているのです!?」
幼女の挑発にまんまと引っかかり、激昂する袁紹を傍に控えていた斗詩が抑え、猪々子は最高! と言わんばかりに腹を抱えて笑う。
「……ふぅ」 そんなやりとりに江東の女王が、溜め息を吐く。
「あんたもじぶんはかんけーないってかおするのやめてくれないかしら? しょーじきウザイから」
だが、そんな態度がお気に召さない華琳様は、容赦なく口撃する。
「なっ!」 「曹操貴様! 孫権様に何たる物言い! 許さん!」
唖然とする蓮華に、己の主君への暴言を許すまじと立ち上がる思春。
江南一の暴れん坊を前にして、華琳は怖れず自信ありげに冷笑する。
「かずとバリアー!!」
叡智に優れた幼女は自分の部下を盾に己の危機を脱する。
「何で俺ー!?」
他の外史では天の御遣いとして扱われる一刀君も華琳様の前では、ただの奴隷(いぬ)であった。
「兄ちゃん頑張れ!」 「アンちゃんふぁいとだよ!」
「……」
同僚の三人は助けてはくれない。
「ちっ!」
容赦のない攻撃が一刀に襲い掛かる。
「へぶらっ!」
思春の放った攻撃をモロに受けた一刀はそのまま吹き飛んでしまう。
「きゃっ!」
「おお? 痛くない? それどころか……やわらかいものが」
吹っ飛ばされた一刀は目の前の視界が塞がれたが、冷たい壁や床ではなく何かクッションのようなものに当たって事なきを得たと感じていた。
そして、自分の頬に感じたやわらかくて――何故だか温かいモノを確かめるために、手で感触を確かめる。
「あっ……ぅん」
一刀が手で触れているそれをにぎにぎと揉むと、甘い吐息が返ってきた。
寒気を感じ、一刀は顔を上げる。
そして、彼の見知らない、凛とした表情の中にどこかしら幼さを残した女性と目が合った。
「ご、ごめんなさい!」
一刀は、一瞬にして我に返り、尻餅をついたまま後ずさる。
「……あっ」
対する女性も頬を朱に染め、着崩れた着物をいそいそと直す。
「貴様! 義姉者に対して何たる不埒な振る舞い! この関雲長が成敗してくれる! そこに直れ!」
そして、一刀とその女性との間に割り込み、激昂するは――艶やか黒髪を靡かせた軍神、関羽雲長であった。
「おやめなさい! 愛紗!」
だが、その軍神を心に響く鈴の音ような声音で制止する女性。
「しかし!」
「おさがりなさい……私は大丈夫です」
女性は、愛紗の前髪をそっと優しく撫でる。少し、冷徹な面持ちの中に彼女に対する信愛を含んだ表情を見せていた。
そして、少し不満げな表情を浮かべながらも関羽は下がる。
女性はそのまま尻餅をついている一刀の前で再び膝をつき、掌と拳を組んで礼をする。
「私は、劉備玄徳と申す者です――先程は、義妹が失礼を致しました」
「あっ、い、いえ、とんでもない。俺は、北郷一刀っていいます。俺の方こそ、とんだ粗相を――「一刀様とおっしゃるのですね」――はい?」
一刀は目の前にいる少女が、かの仁君劉備玄徳と知り、驚きを感じつつも挨拶を交わすが、続いて謝罪を述べている途中で、彼女から『様』付けで呼ばれそれを遮られる。
そして、目の前にいる劉備はその場で正座し、三つ指を着いて一刀に深々と頭を垂れた。
「私の真名は桃花(とうか)といいます――末永く、よろしくお願いいたします『旦那様』」
劉備玄徳こと桃花の発言により、大本営の中に雷のような衝撃が奔った。
「にゃはは。鈴々たちのすんでいた啄郡では、成人した後、けっこんまえののおとこのひととおんなのひとがはだをふれ合うことはすなわち、『こんやく』を意味するのだ」
呆然とする一刀の背中に赤髪の小さな女の子がおぶさってきて、桃花の奇功の意味を解説してくれた。
「とゆーわけでよろしくなのだ。お兄ちゃん」
「いや、唐突にそんな事言われても!? ――俺、日本生まれですから?」
あまりにも予測不可能な展開に一刀はタジタジになる。
そして、続いて背中に氷の刃で射抜かれるような冷たい視線を感じた。
「ごしゅじんさまいがいのおんなにさかっているんじゃないわよ、このいぬ!」
「義姉者が穢された、ケガサレた、けがされた、KEGASARETA……ぶつぶつ」
一刀の背後に仁王のように立ちふさがる、怒れる華琳と少し、鬱の入った暗い表情で、青龍偃月刀を力強く握り締めている愛紗。
「――かくごはいいかしら」
敬愛する己の主君にとても可愛らしい表情で、腹を括れと宣言される。
一刀は尻餅をつき、背中に鈴々を背負ったまま、最後の言葉――所謂、遺言を述べた。
「――まだ、紫のパンツは早いと思うぞ?――「しね、だけん」」
そして側頭部に放たれる渾身の蹴り。
一刀の最後に見たものは、背伸びした少女の紫色の下着であった――
董卓討伐後、各地で起こった諸侯による群雄割拠――
華琳は、迅速に黄河流域より南の各地を平定し、その領土は宛を治める張繍(ちょうしゅう)の許にまで及んだ。
張繍は、降伏を申し出て曹操軍へ帰順することになり、華琳は連戦の疲れもあり、宛にて休息することになった。
外の見張りに典韋、許緒、楽進――そして、一刀を残し、休息をとる華琳。
「ふう」
小さな覇王は、寝室の窓から星空を眺めながら溜め息を吐いた。
理由は――最近、中原の統一という果てしない野心がどうでもよいものに感じ始めていたからであった。
それもこれも、あの時出会った、一刀という存在の所為だと華琳は心で呟く。
かれは、へんじんだ。
このらんせで、たにんをかんたんにしんようし、うたがうことをしらないばかものだ。
けど、だからこそみなが、わたしをいせいいしゃとしておそれているのにもかかわらず、かれはこわがらない。
それどころか、よわいくせにぶかにかくれてたまにはと、いきぬきでだらしのないことをしたりすると、まるでちちかあにのようにわたしをしかりつけてくる。 そして、なによりだれよりも――やさしい。
わたしを『そうそうもうとく』ではなく『かりん』としてせっしてくれる、ゆいいつむにのそんざいだ。
ああ、ほんとうにわたしがほしかったものでみたされているから――
華琳がそんなことをらしくもないと考えながら思考に耽っていると、コンコンと寝室の扉が叩かれる音が聞こえてきた。
「はいりなさい」
寝室に入ってきたのは、外で警護をしている凪であった。
「あら? どうしたのなぎ」
「……」
楽進こと凪は、少々顔を顰めて、視線を窓の外に移した。
彼女があまり喋らないことを知っている華琳は、凪が視線を向けた方へと己の視線を向ける。
そこで少女が見た光景は――
「あ、あの、自分は警護の任務中でして……」
「そんな事おっしゃらないで……つれない御方」
警護をしている一刀にしな垂れかかる妙齢の美女であった。
「で、ですから――「私、主人を亡くしてから生きがいを見つけることが出来ずに、日々を無為に過ごしていましたわ――けれど、貴方に抱きとめられたとき、久方ぶりに感じた殿方の肌に眠っていた私の女の性(さが)が目覚めましたの……女の一人寝は寂しいですから……」――は、はあ。そうなんですか?」
女性は、妖艶な色香で迫り、着崩した着物から見える決して大きくはないが、掌にスッポリとおさまりそうな形の良い胸を一刀の腕に下半身は、生のふとももを押し付け、潤んだ瞳で見つめる。
一刀は、首まで真っ赤になり、ガチガチに固まっていた。
「――なに、あのちじょ?」
自分の所有物がだらしなくしている姿に華琳は可愛らしい顔を顰め、冷徹な眼差しを向ける。
「今日のお昼、市を警邏していた時に私達の目の前で、貧血で倒れた女性――カズが抱きとめて事なきを得たのですが……」
凪には珍しく、長い言葉で華琳に事情を説明する。
平静を装っているが、その様子から彼女もかなりご立腹のようである。
「名を雛(すう)。張繍の亡くなった叔父 、張済(ちょうさい)の夫人だった方です」
「――へぇ」
凪から女性に関する情報を聞き、華琳は――ワラう。
無表情のままではあるが思わず、後ろに控えていた凪が、戦場にあっては曹操軍の一番槍を欲しいままにしている楽進が、主君の発する陰の含んだ気に中てられ、思わず後ずさる。
「ほんとうにこまったいぬね。しっぽをふっていいのはごしゅじんさまだけだってことまだわからないのかしら――やっぱりおすは、きょせいしないといけないわね?」
「うふふ。甥に頼んで寝所の用意はすでにととのっていますわ――さあ」
「いやいやいや! ――色々と死活問題になりますので、国同士とか、俺個人とか! ――ああ、そもそも、美女に興味があるのはあのお子ちゃまの方で――「たのしそうね」……神は死んだ!」
魅惑の未亡人雛に迫られ、そして、止めとばかりに一番見つかりたくない人物に見つかって、一刀は己の死を覚悟した。
「ん! 待てよ? この世界で死を迎えるということは……元のいた世界に帰れるのかもしれない?」
一刀は混乱し、自分でも意味不明な事を言い出していた。
「じゃあ、じぶんでたしかめてきなさい!」
一刀の生殺与奪権を握っている少女から放たれるお馴染みの蹴りが膝を付いた彼の側頭部に炸裂する。
「――ふふふ、黒のガーターベルトとは、背伸びしすぎだぞ?」
「……」
意識を放り出す前の一刀の言葉に対し、華琳は、うつ伏せで倒れた彼の頭を容赦なく――踏み抜いた。
誰のためにこんな下着を履いているんだ! と言わんばかりに羞恥心で頬を朱に染めながらではあるが。
「ああ……ありがとうございます。これで、寝所まで運びやすくなりましたわ」
気絶した一刀の傍に駆け寄って、嬉しそうな表情をしながらいそいそと彼を運ぼうとする未亡人。
「だめよ、『おばさん』。これは、わたしのしょゆうぶつだから」
華琳の言葉に雛は、その場で――ピシリと音を立てながら石化した。
「……なぎ。これをわたしのへやまで、はこんでおいて」
凪は、コクリと頷き自分よりも大きな体躯をしている一刀の両足を持って、電車ごっこのようにそのままズルズルと音を立てながら運ぶ。
それが、何気に一刀に対する罰だと言わんばかりに。
華琳も凪の行動を責めはしなかった。
その後、華琳の寝所に運ばれた少年がその夜どうなったかは、小さな少女を除いて知ることはなかった――
ちなみに一刀は、夢の中で久方ぶりに元の世界で、学園生活という名の青春を謳歌していたそうな。
幼き覇王華琳様は、その後も各地を平定し、ついには権力闘争に巻き込まれ流浪していた天子一行を保護し、許昌に献帝を迎え入れる事に成功した。
ここに中原のみならず四海に曹操孟徳の名は威光を持って知られる事となったのである。
そして、徐州で袁紹と袁術の従姉弟に敗れた劉備玄徳が呂布と共に曹操軍の許へ亡命する事件が起きた。
元々、関羽雲長を喉から手が出るほどに欲していた華琳は狂気乱舞して喜び、部下達の諌言を聞き入れず彼女達を保護する事となったのである。
「ふふふ。さっそくこんや、かんうをわたしのところによんで――うにゃ?」
まるで、中年親父のような思考回路でイケナイコトを考えていた華琳の首根っこを猫のようにひょいと持ち上げる者がいた。
一刀が少し怒った表情をしながら、華琳を持ち上げていたのである。
「人の想いを無視して、自分の欲望のままにそーいうことをしたら駄目だっていっているだろ?」
「はなしなさい! あなたはしゅじんにたいして――「華琳が俺のご主人様だから言っているんだ!」――えっ?」
「こーいうことは、両者の同意のもと行わないと今は良くても、必ず後でしっぺ返しがくるんだからな?」
「う、うん」
一刀の口から思いもよらぬ言葉を聞き、嬉しさと恥ずかしさで華琳は大人しく言うことを聞いていた。
だが、ハッとなり首を勢いよく横に振って思考を冷却させる。
犬に諌められてい覇王など滑稽でしかない。
華琳は冷笑を浮かべる。
「あら、わたしがかんうにけそうしていることにじぶんのたちばをわきまえず、ごしゅじんさまがとられることにしっとしているのかしら?」
――かんぺきね。
と、華琳は感じていた。
意趣返しに一刀が慌てふためく様子が見たかったのである。
だが、一刀は華琳をぶら下げたまま、「?」と首を傾げていた。
見事なKY(空気読めない?)振りだ。
華琳は、こめかみに怒りマークを浮かべる。
「こほん! もしかしてとはおもうけど、ごしゅじんさまをさしおいてかんうにけそうしているんじゃないでしょうね?」
そして、発言をスベらせた恥ずかしさもあって、華琳はそう誤魔化した。
「う……」
だが、華琳も思いもしなっかった反応が返ってきたのである。
一刀は先程とは違い、頬を朱に染めて、華琳から視線を逸らしていた――あたかも、正解です言わんばかりに。
一刀にとって、関羽こと愛紗は凛々しく美しい存在であった。
それはまるで、自分の元いた世界で剣道部の先輩であり、憧れでもあった不動先輩を思い出すからであり、別に他意はない。
だが、華琳にとっては腹が立つ事この上ない態度である。
「――そんなにおおきいおっぱいがいいのか!」
その言葉と共に一刀の大事な部分を潰すが如く急所蹴り。
「はがっ!」
華琳を手放し、大事な部分を押さえながら悶絶する一刀。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「アンちゃん、どうしたの?」
「?」
同僚の季衣、流琉、凪が一刀の傍に駆け寄って心配してくれる。
幼女たちに囲まれながら、急所を押さえ悶絶する一刀であった。 ――何、この羞恥プレイ?
そんなこんなで、ある晴れた昼下がり。
華琳は献帝こと劉協を引きつれて、盛大な狩りを開催していた。
無論これは、曹操の許に天子が在るというデモ・ストレーションの一環でもあった。
「む……せい!」
曹操より少し年上の若い皇帝が馬上から弓で矢を射り、鹿を狙うが、彼女本来の性格の優しさのあらわれか、矢は外れてしまう。
外した本人も、どこかしらほっとした表情を浮かべていた。
周りの者達も矢を外したとはいえ、幼年にそぐわない彼女の弓の扱いに賞賛の声を上げる。
「――へいか、しつれいします」
そこへ、馬を並べた華琳が、彼女の手から弓矢を奪い取ったのである。
周りに他者達と共に、狩りについてきていた劉備一行にも緊張が奔る。
中でも愛紗は、青龍偃月刀を構え前に出ようとしていたが、桃花の手によって遮られた。
「義姉者!」
漢朝の復興を強く願う愛紗は、義姉の行動に思わず激昂した。
目の前で天子様が、賊に弄ばれているという構図が生真面目な彼女には許せなかったのである。
だが、桃花は、義妹の言葉に応えず、じっと前だけを見据えていた――その表情に少しだけ微笑を携えながら。
天子から弓矢を奪う。この事こそ、『曹孟徳が天子より上の立場』である事を知らしめる格好の場となる――はずであった。
しかし、その目論見は叶わない。何故なら――
「こら!」
叱る声と共に華琳の脳天にゲンコツがゴン! と落ちたのである。
それは、急いで駆けつけてきた一刀のゲンコツであった。
一刀は、華琳の手から劉協の弓矢を奪い取る。
「上の立場にある者が、人の物を勝手に取ったら示しがつかんだろ。それに、お前に弓矢はまだ早い、弦で頬を切ったりでもしたら危ないだろ!」
あの曹操に対して、怖れることなく一喝する青年に回りにいた王朝の官吏達は、皆揃ってポカンと口を開き、あ然とした表情になった。
「か・ず・と〜!」
タンコブができた頭を手で、押さえながら涙目で一刀を睨む華琳。
「そんな顔してもダメなものはダメ!」
一刀はまるで教育ママのように華琳を叱る。
続いて、一刀は劉協の傍に赴き、馬から降りると弓矢を丁重に彼女に差し出す。
「申し訳ありません陛下。我が主君はまだ幼くもあり、それを止めなかった臣にこそ責があります。何卒、お咎めなきよう取り計らいをお願い申し上げます。それでも主君に非があるとおっしゃるなら、代わりになるかは存じませぬが、私の首を差し出しますので、重ねてお願い申し上げます」
馬上にいた劉協は、目の前にいる青年に驚きを隠せないでいた。
そして、あの曹操に手を上げたこともそうだが、何より、曹操の臣下でありながら、皇帝への敬意を忘れず、なおかつ、主君の非礼に対し、自らの身を持って主への忠節を尽くす彼に感謝の気持ちと共に好感と僅かながらの興味が湧いてきた。
「叔母上。どう処するべきでしょうか?」
幼き皇帝は、桃花を呼び寄せる。
劉備玄徳こと桃花は、先日曹操と共に劉協に謁見した際に彼女の血縁ということが判明し、以後、宮中の者達から敬意を持って『劉皇叔(こうしゅく)』と呼ばれるようになったのである。
「はい。殿下のお心のままに処してよろしいかと」
「左様ですか」
「――あと、私事ではありますが」
「何であろうか?」
再び、恭しく頭を下げて発言する桃花に劉協は首を可愛らしく傾げた。
「はい。実は、そこにいらっしゃる北郷一刀様は、私と婚約の儀を交わした間柄でもございます。このような場で妻として、夫を亡くすには耐えられませんわ」 【※注 : あくまで桃花主観】
そう言いながら、視線を一刀に意味ありげに向け、頬をポッと紅く染める桃花。
「なんと、そうであったか! ならば、一刀殿は朕の義兄上にもなられる御方ではないですか! むむむ……ん? これも何かの縁でありますし、どうでしょう。朕が仲人となってお二人の祝言を上げるというのは」
「えっ!?」
「まあ! ありがとうございます」
劉協の発言に一刀は、何故! と驚き、桃花は女の幸せを得たとばかりに嬉しそうに微笑んだ。
普段、無愛想でむっつりとした表情が多い彼女がこんな表情を見せることは珍しい。それだけ、この件が彼女にとって心躍るものなのかもしれない「ちょっとまったー!」……まあ、色んな意味で大変そうではあるが。
この後、劉協と桃花を中心とした者達と華琳を中心とした曹操軍とで一悶着起きた事は想像に難しくない。
ちなみに中心地にいた一刀は嫉妬した華琳、春蘭、桂花。ついでに愛紗の手によりフルボッコの刑。
(しかし、まあ……ある意味、北郷殿を懐柔できれば、どこの勢力にとっても強力な手札になるのでは?)
争いには参加せず、それを離れた場所から神眼の宿った瞳で見守っていた秋蘭は、そう思考していた。
騒ぎの中心地から、春蘭の攻撃でも受けたのか、一人の官吏が人間ロケットの如く宙を舞う。
秋蘭は溜め息を吐いて、この場の事後処理をどうするべきか頭を悩ませていた。
ちなみに余談ではあるが、狩りはその後どうなったかと説明すると――
瀕死状態の一刀を餌にして木に縛りつけ、熊をおびき寄せる事に成功。
その後は、鈴々、季衣、流琉のチビッ子豪傑の手により捕獲し、捕らえた熊で宮中にて大宴会が開催され、先程の件は水に流されたのであった。
その場にいれば、また、問題を起こす種になったであろう一刀は、宴会の外で門番を申し付けられていた。
宴会を抜け出した呂布こと恋と、董卓と呼ばれていた少女、月がおすそ分けとして熊肉とそれでダシをとったスープを差し入れに持ってきてくれた時、一刀は彼女達の優しさに不覚にも涙を流したとか――
曹操と劉備の蜜月はそう長くは続かなかった。
劉協の処遇を巡る問題で対立してしまったのである。
無論、これには一刀が絡んでいるのだが、それは英傑二人しか知ることのない闘争である。
表向きは、劉協を慕う臣下が劉備や他の者達と結託して、叛旗を翻そうとしていたのだが、事が露見してしまい、怒りに狂った華琳により大粛清が行われたのである。
一刀も諌めはしたが、この時の華琳は、覇権を握るために必要なことであると、一刀を叱り、粛々と処刑を行ったのである。
それに加担したと疑われた桃花一行は、袁術討伐を理由にして兵馬を借り、一足早く都を脱出した。
そして、監査役として送り込んだ華琳の部下を都に送り返し、小沛、下邳城を占拠し、曹操に掌を返したのであった。
華琳は寝室にて、ウロウロと所在無く行ったり来たりを繰り返していた。
「参謀会議は終わったのかい?」
そこへ、聖フランチェスカ学園の制服の上にエプロンを身につけた一刀が盆を手にして現れた。
「うん。りん(郭嘉)と――なんでか、ものすごくやるきのかく(詠)にりゅうびのとうばつじゅんびをさせているわ」
「そうか」
一刀は心なしか、がっかりとしたした表情を浮かべた。
人間誰しも、自分を慕ってくれた人と敵対関係にはなりたくはないのであろう。
「――程?(ていいく)さんは何か言っていなかった?」
程?仲徳(ちゅうとく)。曹操に仕える初老の男性で、身の丈が百九十一センチの巨漢の参謀である。
「こうわさくばかりをうるさくしんげんするから、『だまれジジイ』といっかつしたら、たいざんにのぼったままかえってこなくなったわ」 【補足】
「……」
天に向かい両手を上げ、視線は泰山へ――そんな程?に同情する一刀。人生経験の多さなど目の前の覇王様には何ら意味するものではない事に溜め息を吐いた。
「まあ、とりあえずその話は置いておいて、華琳。久しぶりにアレを作ってみたんだが――「ホント!?」……ああ」
一刀の言葉に華琳は、驚きと共に喜びの声を上げた。
そんな彼女本来の子供らしさに微笑みながら、一刀は机の上にあるものをおいた。
「うわぁ……」
華琳の表情が喜色に染まる。
少女の目の前に現れたのは、『バニラアイスクリーム』であった。
無論、この時代にアイスクリームなど存在はしない。
一刀が苦心して、オリジナル要素を含めて編み出したモノである。
その苦労が華琳に対して、生活の改善及び、交渉のカードに成り得るからであった。
授業でならった事を思い出して、自分なりに氷に硝石を入れる冷却方法を凪の姉妹的存在である李典こと真桜の協力の許、編み出し、アイスクリームの材料は都の市で揃える事に成功したのである。
何気に揃わない材料もきちんとあった所は外史ならではのご都合的展開と思ってください。
兎にも角にも、華琳がご機嫌斜めの時は、こうして一刀が宥めていたわけである。
故に、曹操の家臣団、特に男性陣である程?や荀攸などの知識人は、一刀を信頼していた。
逆に曹一門や女性陣には認めながらも人気は今一つ。
何だかんだで、女性好きである筈の華琳の寵愛が奴隷に向けられているのだから、彼女を慕う者達にとっておもしろいはずもない。
「こら、食べる前に手を洗いなさい」
「えー」
行儀悪く、早速、アイスクリームに手をつけようとしていた華琳を一刀は叱る。
「えーじゃない。ほら、絶影(ぜつえい)はきちんと待っているだろ? 華琳は、絶影のご主人様なのにそんなはしたないことをするのか?」
一刀は部屋の隅できちんとお座りしている灰色の毛並みをしている子狼こと絶影を指差す。
「う〜」
「ほら、いくぞ?」
不満げな声を上げながらも絶影のご主人様として、一人の淑女として一刀の言葉に従う華琳。
そんな彼女を一刀は、愛おしそうな眼差しで見守るのであった。
結局、劉備討伐は行われた。
この戦いに置いて、華琳は桃花や鈴々などを捕らえる事は叶わなかったが、代わりに愛紗を投降させる事に成功したのである。
そして、虜囚の身になった愛紗を謁見の間に連れ、華琳は再び喜んだ。
それ以後、一刀が以前言った言葉に従い、愛紗にあれやこれやと尽くし、贈り物などを贈る日々が続くが、主君を劉備ただひとりと決めている彼女は、決っして、帰順することはなかった。
それでも、愛紗を傍で侍らす事が出来る今の環境に華琳は満足していたのであった。
そして、少しの刻が過ぎ、事件は起きた――
ある日の晩、一刀は屋敷の見回りを終えようとしていた。
だが、中庭で愛紗の後姿を見つけてしまう。
こんな夜分にいくら三国一の猛将とは言え、女性である彼女に声を掛けようと一刀は近づく。
そして、見てしまったのである。
中庭に備え付けられた池を目の前に、池が月を映し出し、光を反射していた。
その月明かりの許で、軍神と謳われた少女は――泣いていたのである。
「……義姉上ぇ、鈴々……」
義姉妹に会えない寂しさ故に、少女は泣いていた。
一刀は、歩みを止め、俯き、唇を噛み締めた。
自分も同じ環境であったが、華琳に救われ、寂しさとは無縁の生活を送れていた。
それを当然の事だと思っていた自分を恥じる。
だが、華琳が愛紗に固執している事も知っている。
己の主は裏切れない。
そんなどうしようもない葛藤が、一刀の心をぐるぐると渦巻いていた。
自分が出来ることはないか?
そう考えていた一刀は、ある事が閃いた。だが、その思考は、愛紗の手によって遮られる。
「――誰だ!」
一刀の接近に気づいた愛紗が吠えたのである。
そして、後ろに一刀がいることを確認した愛紗は眉を顰めたまま、疑惑の視線を向けた。
「――もしかして、見ていたのか」
「いえ、いましがた着たばかりなので、俺は何も」
腕で目をゴシゴシと擦る仕草をしている愛紗に一刀は、先程、見た事を嘘をつき否定した。
「そうか。衛兵ともなれば、虜囚の身である私が深夜にうろつくのはあまりよろしくないだろうな」
「関将軍――ぶしつけではありますが、少し時間を頂けないでしょうか」
己の醜態を恥じながら苦笑している愛紗に一刀は提案を申し出た。
「? 何であろうか――まあ、貴殿とは浅はらかぬ縁であるし、私は今、捕らわれの身。好きにするがいい」
他の衛兵なら断ったが、彼に関しては、自分の義姉が懸想していることもあり、無碍に扱うことも愛紗には出来ず、承諾を示した。
「では、お言葉に甘えて。少し、そこでお待ちになってください。すぐに準備を整えて戻ってきますので」
そう言うや否や、一刀は駆け出して行ってしまった。
「あっ……」
愛紗は、一刀のあまりに突然の行動に、少し呆けてしまっていたが、義理高い彼女は、彼の言葉に従い、中庭に用意されていた吹き抜けの小さな庵で待つ事にしたのであった。
程なくして、一刀は愛紗の許へと戻ってきた。
そして、手にしていたモノを愛紗が座って待っている席の上へと差し出した。
「北郷殿、これは?」
珍妙なモノを見るような目つきでアイスクリームを観察する愛紗。
「ああ、これは俺の、――コホン。私の故郷でお菓子として食べられているものです。どうぞ、召し上がって下さい」
「……そうか。では、遠慮なく頂く」
これが、一刀なりの気遣いと悟った愛紗は口元に微笑を浮かべながら、用意されたアイスクリームを一口食べた。
「――これは、なんと……冷たくて甘いお菓子だな」
「お気に召しましたか?」
「ああ、このようなモノ初めて食べる……鈴々など喜んで食べるであろうな――すまぬ」
愛紗はハッとなって、自分の非礼を詫びた。
一刀は首を横に振る。
「いいえ、関将軍が皆さんを想う気持ち、俺にわからないものでもないですから。少しでも気が晴れたのなら、それに越したこともありません」
一刀は微笑んでそう述べた。
「……そ、そうか」
「?」
一刀の微笑みに不覚にも見惚れてしまった愛紗は、木製のスプーンで掻き込む様にアイスを口にした。
「あいたたた!」
冷たいモノを急に大量に摂取すると頭が痛くなるという現象が、愛紗を襲った。
「はははは。急がなくても、関将軍誰も取ったりしませんよ?」
「――そなたは、結構意地が悪いな」
愛紗は口を尖がらせて、恥ずかしそうな、表情を浮かべていた。
二人による深夜の密会は、月のみぞが知るお互いだけの秘密であった――
が、一人の少女が、屋敷の影に隠れながらその密会を盗み見ていたのである。
そして、二人が微笑み合う姿を見て、陰を纏った表情を浮かべていた。
まるで、あの日のように。
自分の家族を全て失くした、あの時のように――
金糸の髪を携えた少女は、無言でただ、そこにいた。
翌日、一刀が華琳の私室で見たのは、荒れ狂い、酒を浴びるように飲んでいる己の主の姿であった。
絶影も彼女の荒れように恐れをなし、布団の中で隠れて情けない泣き声を上げている。
「――華琳!」
一刀は大声を上げて、彼女を呼んだ。
ここまで彼が、怒るのは珍しい。
政庁にやってこない華琳を心配した一刀と一緒に来ていた凪は目を見開いて驚いていた。
一刀は、振り返りもせず、酒を飲んでいる華琳の傍に赴くと、酒の入った盃を強引に奪い取った。
「ああん! なにするのよ!」
「何じゃない、華琳! これはどういう事だ! お前はまだ小さいんだから、お酒は、お祭りとか祝い事の席でしか飲んじゃいけないと言っているだろ!」
一刀の言葉に華琳は涙目になる。
「だって、だって! かずとがわるいんだもん!」
「はあ?」
華琳の言葉に一刀は疑問の声を上げた。
「……あいす! あいすくりーむ!」
「むっ、こんな悪いことをしている華琳にアイスクリームは作ってあげられないぞ」
「ちがうもん!」
「何が?」
普段、大人びた口調でませた事言動が多い華琳が、年相応の少女のように振舞う事を不思議に感じながら一刀は続きを促した。
「あいすくりーむをかんうにあげてた!」
一刀は、昨日の深夜の件が、華琳にバレた事を少し、拙く思いながらも『そんなこと』で、彼女が怒る理由がわからなかった。
「黙っていた事に関しては、悪かったと思う。けど、それだけで――「それだけ!?」――えっ?」
華琳が豹変したように、まるで、信じられないといった表情で一刀を睨む。
「どうしたんだ華琳?」
「……でてけ」
俯きながら、何か言葉を発し、どす黒い感情が少女を支配してゆく。
「ででいけ! このうらぎりもの! ごしゅじんさまをうらぎったいぬなんてもういらない! かんうもきらい! ふたりともわたしのまえからきえてよ!」
黒い感情が華琳の心を支配したその刹那、爆発したように癇癪を起こし、床にあった酒瓶を次々と一刀に向かい放り投げはじめた。
そして、その一つが一刀の頭に命中し、陶器が割れる音と共に華琳は我に返る。
一刀は避けもせず、華琳の癇癪によって放り投げられた酒瓶をその身に受けて、中に入っていた酒を頭から被りながら、割れた酒瓶の破片で額を切り、血を流しながらその場に立ち尽くしていたのである。
そして、何も言わず華琳の顔をじっと見ていた。
華琳は一刀の向ける視線に耐えれなくなり、視線を背けた。
「……」
一刀は主君の背でひざまづいて、拳と掌を合わせて礼をする。
そして、己の腰から華琳から預かった宝剣と首輪を取り、それを凪に預けた。
凪は、何か言いたそうな視線を一刀に向けていたが、彼は苦笑し、「じゃあな」と彼女の髪を一撫でして、部屋から出て行ってしまった。
少しの間を置いて、凪も頭を下げてから華琳の私室を辞した。
そして、部屋の中に静寂が訪れ――少女は、盛大にわんわんと泣き始めた。
まるで、親に見捨てられた幼子のように――
小さな覇王は己が望んだものを一時の感情――嫉妬に捕らわれて手放してしまったのであった。
己の主君から暇を出された一刀は、都の市を所在無く、ふらふらと歩いていた。
華琳に全ての衣食住を頼っていた故に、一刀はどうしたものかと考える。
確かに市で仲良くなった人達はいるが、その人達に迷惑を掛けるわけにもいかない。
「――北郷殿!」
そんな事を考えていたら、後ろから見知った人物から声を掛けられた。
それは、外套を身に纏い背嚢を背負った愛紗であった。
「関将軍?」
驚いた表情を見せる一刀に愛紗は苦笑しながら首を横に振った。
「いいえ、今の私は将軍ではありません――急に、曹操殿の御使者から主君の許に帰ってもよいというお達しがあり、お言葉に甘えて先程、頂いた贈り物や官位の璽を返してきた所です」
「そうなんですか」
「所で、北郷殿は何故、このような所に? ああ、警邏のにん――」
そこで愛紗は、一刀の腰に視線を移し、彼の腰に帯剣がないことに眉を顰めた。
「お恥ずかしながら、己の主君より暇を出されてしまいまして」
愛紗の視線に気がついた一刀は、頬を指で掻きながら苦笑を浮かべる。
「はあ。しかし、信じられませんね。あの、曹操殿が貴方を暇させるなんて」
「どうやら、逆鱗に触れたようでして……」
愛紗は「ふむ」と呟き、何かを考え込んでいた。
「――北郷殿、よろしければ私と一緒に義姉者の許へ参られぬか?」
「えっ?」
一刀は愛紗の申し出に目を見開いて驚いた。
「いや、別に強制するものではないが、義姉者と貴方は、その……婚約者なのだろう? 貴方が来てくれるなら義姉者もきっとお喜びになるはずです」
一刀の手を包み込むように握って、説得する愛紗。
彼女も昨日、世話になった恩とその時、芽生えた一刀に対する好意を考えた上で提案をしたのである。
「俺は――」
愛紗の真摯な瞳に見つめられながら一刀は――
その日の夜。
華琳は絶影を抱きながら、夜空に浮かぶ満天の星空を見上げていた。
心を馳せるのは一刀の事ばかり。
昼過ぎに政庁に赴き、愛紗に使者を送った後、政務に励んだが、一行に行政処理がはかどる事は無かった。
そして、夕刻に屋敷に戻る。
もしかしたら、一刀が帰って来てくれているのかも知れないというありもしない幻想を胸に抱きながら。
だが、当然の如く、彼はいなかった。
夜分遅くになっても眠れず、考える事は一刀の事ばかり。
華琳は、謝りたかった。――そして、出来ることなら許してもらい、いつものように傍にいてほしかった。
そこまで、一刀に依存しているなど考えもしなかった。
けれど、失って初めて彼の存在が自分にとっていかに大事なものかを思い知らされてしまった。
「かずとぉ……」
華琳は弱々しく、声を上げ、フラフラと身体を左右に動かした後、コテンと横になったのである。
翌日の政庁は、昨日以上に大荒れとなった。
華琳が病に倒れたのである。
過労が積み重なり、高熱を出し床に伏せってしまった。
唯の風邪とはいえ、まだ、幼い華琳の発熱は、場合によっては死に直結する。
こんな所で己の敬愛する主君を亡くしてなるものかと曹操陣営の者達は右往左往しだしたのである。
春蘭と曹仁は、部下達を率い熱さましの薬草を採取しに出かけた。
曹洪は私財を使って、都中の腕のいい医者や薬を掻き集めている。
秋蘭は、慌てふためく同僚達を見つめながら溜め息を吐いていた。
(北郷殿がいてくれればこのような騒ぎには――)
と、思案していた秋蘭にツンツンと腕をつつく者がいた。
「? 楽進? どうかしたのか」
そして、楽進からもたらされた話を聞いた秋蘭はいつものポーカーフェイスに少し微笑みを携えて喜ぶのであった。
華琳は夢を見ていた。
そう今より、ちょっと昔の夢を――
しゅんらんおねーちゃんは、いつもそうこうおにーちゃんとけんかしてる。
しゅうらんおねーちゃんにいわせると、しゅんらんおねーちゃんはおとこまさりだから、といってくしょうしてた。
けど、しゅんらんおねーちゃんはかわいいものがすきといって、わたしをいつもだきしめてくれる。とてもおんなのこらしいとおもう。
「ああ、かりんさま」とかいって鼻血をだしながら――うれしいけどしょうじき、ちょっとこわい。
しゅうらんおねーちゃんは、ものしずかだけど、とってもやさしいの。
いつもみんなをみまもってくれて、えがおでわたしのあたまをやさしくなでてくれるの。
わたしもしゅうらんおねーちゃんみたいな、おとなのじょせいにはやくなりたいな。
そうじんおにーちゃんはいつもわたしをかたぐるましてくれて、いろいろなものをみせてくれるの。
そして、しせんのさきにはいつも、おじーさまとおとーさまとおかーさまがいてほほえんでくれていた――
かずとぉ――
華琳は、幼き時の幸せな情景を思い出し、それを気づかせてくれた少年の名を呼んだ。
「ん、どーかしたのか?」
その言葉に華琳は覚醒し、目を開けた。
正直、身体がだるく熱いし、オマケに頭も痛い。
けれど、そんな事がどうでもよく思える程に驚いていた。
何故なら視線の先には、暇を出したはずの一刀がいたのである。
「夏候将軍と凪に呼ばれて付いてきたら、華琳が風邪を引いて寝込んでいるって知って、悪いとは思ったが、看病させて貰った――この時代の医学よりも、俺の知っている家庭医学の方が役に立つとは思いもよらなかったけど、大丈夫すぐによくなるから。早く、元気になれよ」
また、訳のわからない単語を使って意味不明な事を言っている一刀を見て、嬉しさで華琳は涙を滲ませた。
両脇に挟みこまれた氷嚢が、冷たくてとても気持ちがいいと華琳は自分の心をごまかすようにして、感じていた。
「ああ、そうだ。ひとつ言っておくことがある」
一刀が戻ってきた安堵感からか、華琳は気持ちよく眠りにつこうとしていた。
「華琳が、いらないといっても、俺はお前についていくからな? 奴隷(いぬ)にとっては、ご主人様はたった一人だから仕方がないと思ってあきらめてくれ」
そんな一刀の言葉を夢に誘う、子守唄にしながら、華琳は眠る。
自分の許に、本当に欲しかったモノが戻ってきた事に喜びと幸せを感じながら――
外史の歯車は鈍い音を立てながら再び、ゆっくりと廻りはじめた。
それはまるで、稀代の英雄と少年の絆の強さを祝福、あるいは、嫉妬するかの如く。
外史はまだ終わらない――
おまけ
華琳が病に倒れ、その後の一刀の看病が効を奏したのか、順調に全快の兆しを見せ始めていた。
「ほら」
「あ〜ん」
今では、このように一刀が剥いた桃を食べさせて貰うぐらいには回復してはいたが、一刀の強い要望により、政への復帰は当面禁止されていた。
この小さな少女に皆、甘えすぎだと一刀は、文武百官に対して物申したのである。
彼の真摯な言葉に皆、心打たれ、必死に己の仕事に打ち込むようになったおかげで、華琳は久方ぶりの休息を得ていたのである。
そして、忙しい仕事の中にあっても自分を心配し、見舞ってくれる家臣達に華琳は喜びを感じていた。
そのすべては、横で甲斐甲斐しく自分の世話をしている少年によって全て創られた新しい曹操軍の形であった。
それに感謝しながら、一刀から差し出された桃の味を堪能している所に、扉がノックされるコンコンという音が響いた。
「んぐ――はいりなさいな」
桃を急いで咀嚼して、中に入るよう促す華琳。
そして、部屋に入ってきたのは、于禁と凪の二人であった。
「丞相。元気になられたようで、なによりでございます」
無骨な于禁は、拳と掌を合わせて礼をする。それに合わせて凪も彼と同じく礼をとった。
「ありがとうふたりとも。きょうはわざわざおみまいにきてくれたの?」
「はっ。無論それもございますが、本日は、そちらにいらっしゃる北郷殿に少し、お尋ねしたい議がありまして参った次第です」
「そうなの――かずと、うきんがあなたになにか、たずねたいことがあるそうよ?」
来客に伴い、皿を片付けて戻ってきた一刀に華琳は声を掛けた。
「俺にですか?」
「うむ、北郷殿。率直に聞こう――先日、凪と床を共にしたというのは本当かね」
于禁の言葉にピシリと空気が張り詰め、部屋の温度が急激に下がる。
「えっと、その、先日、泊めてもらったのは事実です――「本当かね!」――は、はい!」
華琳に追い出されたその日。愛紗の誘いを断った一刀は、迎えに来てくれた凪のススメによって、彼女の兵舎にある個室でお世話になっていた。
華琳のご機嫌が直るまで、少し、距離をとった方がいいという判断からである。
無論、凪も女の子であるし、翌日以降は親しくしている程?か荀攸に相談するつもりで、一晩だけ、間借りをしたのであった。
一刀が部屋にいた事が誰かにばれたらしい。
「そうか。娘の沙和から聞いた時は信じられなかったが……むう」
一刀が凪に視線を向けると、付き合いの長い者だけが解る僅かな表情の変化で、彼女は申し訳なそうな瞳をこちらに向けていた。
「北郷殿!」
「は、はい」
再び、于禁に名を呼ばれ、背を正し、返事をする一刀。
「婚礼前の女性と床を共にしたのだ。貴殿に婚約者がいるのは重々承知してはいるが、――凪は遊びだったという不義は、この于禁文則が許さぬぞ?」
手にしていたまさかりの刃を一刀の首に当てながら、脅しという名のお願いをする于禁。
「――へえ、なにかおもしろそうなことをいっているわね?」
背後に感じた殺気に一刀はゆっくりと、首をそちらに向けると――
敬愛する己のご主人様が、年に似合わない艶やかさを含んだ微笑みを浮かべていたのである。
一刀は、これから起こる惨劇を想像して、少し涙するのであった――
おしまい
【補足】そーてんこうろネタです。
初版 H20 5/15
あとがき
お待たせしました。ようやく完成したキリ番SSでございます。 ゼファーさんのリクエストは華琳様でした。
この作品ではどうもツンデレ分が不足していると思うので、彼女をリクエストします。
との御意見でしたが、いかがでしょうか?
何を持ってツンデレとするか、作者としてどうするべきかと悩みましたが。
こんなものでいかがでしょうか?
喜んで頂けたのなら幸いです。
それではまた本編にてお会いすることを願って。
藤林 雅
|
トラックバックURL : http://blog.surpara.com/usr/trackBackAccept.html/50871

— posted by FUJIBA28
|
Comment[1] |
Trackback[0]
妄想†夢想SS 第1弾 (五十万HITキリ番 by ジン様 リクエスト)
※麗羽さんは天上人演義での性格をベースにしていますので聖典(原作)と違和感ありますでしょうが、お許し下さい。
彼氏は、今の世の中では珍しい、優しい心を行動で示せる故に、どこかしら危なっかしいが、その『仁徳』で人を惹きつける少年です。
彼女は、王朝の重役に代々名を連ねる名家の傍流の出身でしたが持ち前の美貌と威張ってはいるが、根にある人の良さとおバカお嬢様特有のおっとりした性格から人々に慕われる、いわゆる『カリスマ』を持ち合わせた不思議でどこか放っておけない女性です。
二人は、現代の日本とは異なる『外史』という不思議で、まるで夢のような世界で出会いました。
最初は逆賊を討たんとする連合軍の祭り上げられた盟主と、北方の田舎からひょっこりとやってきた太守として。
覇権を懸けて敵として争う事もありましたが、その後は和解し、まるで姉弟のように仲良く過ごし――時には辛い想いをすることもありました。
けれど、二人は挫けることなく手を取り合って『漢王朝』再興という偉業を仲間達と共に果たしたのです。
二人は平和になった世界で、共に幼き皇帝を補佐する仕事に就いていた為、共になる時間が多く、不器用なりにもゆっくりと愛を育み、遂にめでたく結ばれたのでありました。
この出来事に、都の宮中は季節外れの嵐が吹き荒れました。
実は、彼を狙う女性が指では数え切れない程、沢山いたのです。
それこそ、宮中では昼夜を問わず彼に想いを寄せる女性陣による権謀術数に溢れ、さながら群雄割拠の争いのようでした。
しかし、女性陣にとって彼女が彼の相方になるとは誰もが予想外だったからです。
――彼は、もしかしたら気付いていたのかもしれません。
故にそういった事に無関係であった彼女に心惹かれたのでしょう。
この事に特にショックを受けたのは同じく彼の姉的存在なボーイッシュでポニーテールなお姉ちゃんと、彼と結ばれた彼女と、若き日から様々な面でライバル関係にあったパツキンドSな覇王様だとか。
正史において、そのほぼ無敵な覇王様に土を付けたこともある緑髪のツンツン眼鏡っ子軍師曰わく、「予想外過ぎて、開いた口が塞がらない」と述べたほど、二人が結ばれる確率は低かったのです。
しかし、運命の悪戯か、女神の嫉妬なのか――外史の住人ではない彼が世界の理により、元の世界に飛ばされる事になりました。
けれど、彼女はその理不尽さに怒り、それを覆し、共に彼が居た世界へと、一緒についていったのでした。
――誤算と言えば、二人の仲間達もまとめて一緒に飛ばされた事です。
まあ、その後も色々ありましたが、現世で、二人は仲睦まじく暮らしているのであります。
けれど、そんな二人にはちょっとした秘密がありました。
彼氏である北郷一刀は本人は否定していますが、妹分に相当甘く、いわゆる、『シスコン』で―――
彼女である『北郷』麗羽はなんと――漢のロマンであるドリルの使い手であり、『うっかり』さんだったのです。
……別に秘密にするような事、以前にみんなにバレているような?
兎に角、そんな二人のお話です。
恋姫†無双 二次創作 妄想†夢想SS しりーず アトリエちゅうとはんぱ ぷれぜんつ
彼女は麗羽さん 編
聖フランチェスカ学園の郊外に新築の香りをまだ残す一軒家。
そこに住むのは、かつて『外史』と呼ばれた異世界で英雄となった北郷一刀と彼のパートナーとなった『北郷』麗羽である。
ついでに、家族当然の間柄である『北郷』斗詩と『北郷』猪々子も共に仲良く暮らしていた。
居候二人曰く、『危なっかしくて見ていられない』と言っているが、元主君であり敬愛と言うよりは、親愛している一刀と麗羽と一緒に居たいのである。
恋人同士である二人は快く彼女達を受け入れて、こうして奇妙な四人の生活が営まれていたのであった。
え? 『何でフランチェスカ学園の寮に住んでいないの?』ですか? ――そういう仕様です。
冗談はさておき、実は、最初はみんな別れて寮生活を送りつつ学園に通っていたのだが、一刀を慕う女性陣が麗羽がいない隙に彼に猛アタックを仕掛けてきた結果、男子寮に住む生徒達から苦情(主に嫉妬が九割九分)が学校に山のように寄せられ、職員会議で採決を執った所、一刀の退寮命令が可決したのであった。
いきなり路頭に迷いそうになった一刀であったが、思わぬ所から救いの手が述べられた。
それは、外史の世界において中原の覇王と呼ばれた少女。曹孟徳こと華琳であった。
彼女は現世においても才能を遺憾なく発揮し、フランチェスカ学園で勉学に励みながら――会社経営を片手間にこなしていたのである。
『MOUTOKU』は証券会社から始まり、半年もせぬうちに世界相手にM&Aをこなす企業へと発展していったのである。故に、カリン=ホンゴウの名は世界に轟いていた。
無論、これには朱里、詠、桂花、穏などの知識人の協力により、成し得たものである。
そんなこともあり学生にも関わらず、彼女達に経済界の様々な所からオファーが飛び込んで来たが、皆、断っている。
今では交渉人達は矛先を、『北郷ファミリー』の中心地にいる『北郷一刀』に目を付けていたりするが、彼は学業終了後はMOUTOKUの傘下グループに配属される事が既に決まっていたりする。無論、本人は知らない。
閑話休題。
話は逸れたが、要は、『お金を腐るほど持っている』華琳が、一連の騒ぎに自分も荷担し、一刀達に迷惑を掛けた詫びとして学園の郊外にポケットマネーで一軒家を購入してくれたのである。
明日からどうしようかと悩んでいた一刀は救いの手に、思わず、喜びの余り華琳を抱きしめて「ありがとう、華琳!」といいながら彼女を抱きかかえたままグルグルと回る。
華琳は「このバカ!」と言いながらも思い焦がれている少年の行為に、頬を朱に染めながら照れていた。
と、まあそんな訳で一刀は、学園生活を変わらず謳歌していたのであった。
一刀の寝室。
その部屋の扉の前に立つのは聖フランチェスカ学園の制服に袖を通した麗羽その人であった。
黙っていれば、見目麗しく、スタイルもボン、キュッ、ボンで、男子諸君がおもわず前屈みになりモデルも真っ青な肢体を持つ彼女は、ニコニコ顔で、愛しい彼の寝ている部屋のドアを勢いよく開けた。
「一刀さん、朝ですわよ〜!」
外史の世界での彼女を知っている者達が見れば、狐に包まれたような顔をする事間違いなしの麗羽の甘ったるい声である。
けれど、彼女の目の前にあるベッドにいる人物は布団を頭の上まで被った状態でピクリともしない。
ちょっと、ムッとした表情を浮かべた麗羽であったが、すぐに何かを思いついたようにニンマリと愛らしく微笑む。
「――もう、一刀ったら甘えんぼさんなんですから。ふふふ、今、起こして差し上げますわ」
そう言って、ベッドに腰掛け、『お目覚めのキス』をするべく、布団を優しく剥ぐ麗羽。
で、そこに現れたのは――一刀が以前、制服の下に着ていたお古のカッターシャツを寝間着にした、肌Y姿の猪々子が、猫のように背を丸めて安らかに寝息を立てながら寝ていたのである。
「えへへ〜ごしゅじんさま〜」
猪々子は、布団に残っている一刀の残り香を堪能するように顔を擦りつけながら、微笑む。
――三、二、一、はい。
「キシャァ――!!」
麗羽さん大噴火。
「キャ、キャィ――ン!!」
姫様の怒りの咆吼と共に猪々子の子犬の叫び声が木霊するのであった――
「ただいまー」
ガチャリとリビングのドアを開けてジャージ姿の一刀が頬に汗を掻きながらビニール袋を片手に入ってきた。
どうやら、ジョギングに出かけていたらしい。
「おかえりなさい。ご主人様」
一刀の声にスリッパの音をパタパタと立てながら迎えるのは、聖フランチェスカ学園の制服に花柄のエプロン姿がとても良く似合う斗詩である。
斗詩は一刀にタオルを渡しながら、彼の手からビニール袋を受け取った。
「えっと、言われたとおりコンビニで醤油を買ってきたけど、これでいいのかな?」
「はい。わざわざありがとうございます」
「そんなとんでもない。斗詩さんに家事を任せっきりにして、こちらこそ世話になっているんだから……それに――家族なんだから、遠慮しないで何でも言ってください」
「――そうですね」
一刀の照れた表情と彼の口から『家族』と言われた事に斗詩は喜びを隠さず微笑むのであった。
「今日こそ許しませんわよ! 猪々子さん!」
「ちょっ! 姫! タンマ! ダブルのドリルなんかで突かれたら、あたいご主人様のお嫁と斗詩の婿に行けなくなるってば!」
ドタンバタン、ガラガラ、ガッシャンとコミカルな音を立てながら二階で暴れている二人の喧騒が聞こえてくる。
「――平和だなぁ」
「――平和ですね」
苦笑する一刀と斗詩であった。
四人そろって、テーブルを囲んでの朝食タイム。
白飯にアジの開きに出汁巻き卵、大根と人参に油揚げが入った味噌汁といった結構手の込んだ和食が立ち並ぶ。
無論、斗詩お手製の料理の数々であった。
彼女の気遣いに感謝しながら一刀の箸は進む。彼の対面に座っている猪々子は、「うま、うま!」と言いながら見ている方が微笑んでしまうほどの健啖ぶりを発揮していた。
「ご主人様、おかわりはどうしますか?」
その横で、斗詩が一刀が手にしていた茶碗の中が空になっていることに気づき、声を掛けてくれた。
「あっ、うん。お願いします」
まるで、長年連れ添った夫婦のような呼吸で微笑みあいながら茶碗の受け渡しをする二人。
それを、じっと見る猪々子。
「ん? 猪々子どうした?」
視線を感じた一刀は、箸をくわえたままほっぺにご飯つぶを付けてこちらを見ている猪々子に苦笑しながら問う。
「――何かさぁ、ご主人様と麗羽様が恋人ってより、ご主人様と斗詩が夫婦って感じがしない?」
「ぶ、文ちゃん!」
猪々子の発言を窘めながらも斗詩は恥ずかしさの中に満更でもない表情を浮かべていた。
「……そうですわね、ちょっと妬けてしまいますわ」
そんな斗詩を羨ましげに見つめながら、さりげない動作で急須に入ったお茶を湯飲みに注ぎ、一刀の傍に置く麗羽であった――
聖フランチェスカ学園 ?―? (ロサ・モスカータ)
麗羽が在籍するこのクラスでは今、担当教諭が所用で自習時間となっていた。
一応、予習と復習を兼ねたプリントが配布されていたが、元々、優秀なお嬢様達が多いので、そんな課題はサッサと終わらせて、思い思いに時間を過ごしている。
最上級生であり、本来ならば受験勉強などで大変な時期ではあるが、多くは金持ちの子女である。殆どの生徒は推薦での進学や実家に帰ったりと何かしらの進路が決まっていたのである。
「う〜ん」
そんな中、麗羽だけが英語の辞書を片手に美しく整った顔を歪ませてうんうんと唸っていた。
国語や数学などはそれなりに理解していたが、どうやら英語は彼女にとって鬼門であるようだ。
けれど、以前のように投げ出さないのは、元、主と言うよりは、年長者として猪々子や斗詩への模範になるべく励む事と、一刀に恥をかかせない故である。その姿に過去の『袁家』を背負う影はない。あの外史で、麗羽は他人と支え合う事を学んだのであった。
「――麗羽さん、よろしければお手伝いしましょうか?」
課題に悪戦苦闘している麗羽に、救いの手がのべられた。
少し、ゆっくりとした口調でそう申し出てくれたのは前髪の左部分に髪留めをしたロングストレートが印象的な、麗羽のクラスメイトである楠原彩夏(くすはら あやか)嬢であった。
整った顔立ちに嫌みのない微笑みを浮かべながら彩夏は、麗羽のプリントを覗き込む。
「ああ、この例文はですね、この接続詞を使って――」
「――そうですの? と、なると……ここはこうかしら?」
「ええ、そうですわ。麗羽さんは飲み込みが早いですわね」
二人とも、表面上の性格は明と暗に分かれるが、根にあるおっとりした部分が、ウマに合うのか十数年間共に過ごした友人のように親しい。
「――ふぅ、終わりましたわ」
「おつかれさまでした」
「彩夏さんのおかげで助かりました――」
彩夏に対し、お礼を述べる麗羽の視線がふと、外れた。
「?」
麗羽の態度におかしいと感じた彩夏も彼女の視線を追い、窓の外に向けられた。
そこでは、野外に設置されたバスケットゴールの下で聖フランチェスカ学園の男子生徒達が合同体育の授業として 3 on 3 を行っていたのである。
早坂章仁、及川佑、北郷一刀の『聖フランチェスカ漫才トリオ』(章仁4:及川5:一刀1の割合)チームと上級生チームとの試合であった。
スポーツには疎い二人にも解るほど、試合は白熱しているようで、その証拠に共に体育の授業を受けている女子生徒達や、麗羽達と同じように窓から眺めている者達がちらほらと見受けられた。
「及川!」
章仁が切り込むようなドリブルで一人を引きつけ、及川にパス。
「はいな!」
及川はストレートに飛んできたボールをカットにきた先輩に背を向けた状態で抱え込むように腕を腹に引き込む。そして、反転し、片足を軸に回避行動に移る。
それを見たゴール下で一刀を警戒していたもう一人の上級生が、及川のコースを塞ぐようにプレスを仕掛ける。
「甘いな!後輩共!」
二人にチェックされた及川は、一瞬、苦悶の表情を見せたが、すぐ不適な笑みになり、抱えていた両手を開く。
「残念! フェイクや!」
「なっ!」
「!」
及川の手にはボールがなかった。
そして、同時に、ラインギリギリで一刀がボールをキャッチする。
及川は章仁のパスをスルーしたのである。
しかも、パスを出した本人は一刀が間に合うようにボールにバックスピンをかけていたのである。
そして、フリーの一刀が教科書通りの美しいフォームでシュートし、ボールは美しい弧を描きながらゴールネットに吸い込まれた。
キャ――!っと、三人のプレイに女子生徒達から黄色い歓声が上がる。
お嬢様達が淑女の嗜みを忘れてしまう程、魅入られていた。
一刀達はお互いにしてやったりと互いにハイタッチを交わし合うのであった。
「……」
不覚にも麗羽はスポーツに汗流す一刀の姿に見惚れていた。
「ふふ、素敵ですわね」
「彩夏さん?」
「明るく、みんなの先頭に立ちリーダシップを発揮するけど、ちょっとやんちゃな早坂君。いつもユーモラスに溢れ、ムードメーカーな及川君。ちょっと古風で頑固だけど、誰よりも家族を――そして、麗羽さんを大切にする優しい心を持ち合わせた一刀君」
「なななななっ!」
彩夏の思いがけない発言に麗羽は茹でタコのように顔を真っ赤にさせた。
「――ごめんね、ちょっと麗羽さんが羨ましくてからかっちゃった」
少し、翳りのある笑顔で彩夏は微笑んだ。
「あや「大丈夫です。麗羽さんから一刀君盗ったりしませんから」――!!」
自分の家庭の事情を知る麗羽を冗談で気遣い、再び羞恥心で真っ赤にさせる彩夏であった。
「でも、一刀君、私達のクラスでも結構人気あるから注意したほうがいいかもしれませんね」
麗羽の視線は彩夏の言葉と共にクラスメイト達に向けられる。
確かに、熱い視線を向けている者達がちらほらと見受けられた。
それが、一刀に対して向けられているものかは定かではないが、麗羽の心には少し、チクリと棘が刺さるのであった――
「――ご主、一刀さん、どうぞ」
「ありがとう斗詩さん」
昼休み。
一刀、麗羽、斗詩、猪々子の四人は、校庭の中庭でブルーシートを敷いて昼食を仲良くとっていた。
「……」
朝にも、猪々子にからかわれたが、一刀と斗詩のやりとりは、本当に仲睦まじい夫婦のように麗羽の目には見えていた。
それに、彼女は生活面で家事を殆ど受け持ち、一刀の信頼は揺るぎようのないもになっている。
「なあなあ、一刀! 今日、授業でばすけっとぼーるやってたよな〜! 何であたいを呼んでくれないんだよ〜!」
頬を膨らませながら、一刀の背中におぶさる猪々子。
「猪々子、重い」
口ではそう言いながらも一刀の表情は、「しょうがない奴だな〜」と言わんばかりに微笑んでいた。
「れでぃに対して、それはないとおもうぞ! ……へへへ、もーらい!」
「もぐもぐ――うまうま」
「あーそれ、食べかけなんだが……」
一刀が食べかけていた、斗詩特製のタコさんウインナーを頬張る猪々子。
「ぶ、ぶぶぶぶ文ちゃん! お行儀悪いよ!」
行儀云々より、『一刀が口にしていたものを食べた』という事実に羨ましさと恥ずかしさで声を上げる斗詩。
猪々子と一刀に関しては、異性と言う以前に、同年代の親友同士のような気安い関係を構築している。
ある意味、それは一刀にとって精神的な安定をもたらしているのかもしれない。故にべったりくっついても彼は拒否反応を見せない。
麗羽、三人のやり取りを観察しながら、ふと、思う。
(一刀さんや、皆さんに甘えるだけで――私は……)
例えば、一刀と斗詩が、若しくは一刀と猪々子が恋仲であったのなら、自分はこの場にいれたであろうか?
考え出すと、自分の中にある暗い感情が押し寄せてきて、麗羽は箸をくわえたまま俯いてしまう。
とりあえず、今自分が――『一刀のパートナーである麗羽』がしておく事は。
躾の悪い元、部下に制裁という名のお仕置きをすることであった。
「キャィ――ン!」
朝に続いて、聖フランチェスカ学園においても、猪々子の悲痛な叫び声が木霊するのであった。
放課後、聖フランチェスカ学園『統合生徒会』室の中で、聖フランチェスカ学園統合生徒会名誉顧問兼筆頭会長の肩書きを持つ『北郷』劉協ことキョウは執務用に用意された学園長が使用するような権威を醸し出す重厚な造りをした机で園児、児童、生徒、はたまた教職員から送られてくる嘆願書に目を通していた。
彼女の両脇に用意された秘書机にはそれぞれ、麗羽と一刀が座り、事務の補佐を手伝っていた。麗羽は主に書類の整理。一刀はパソコンのデータ管理やメールの確認作業を行っている。
「――義兄上」
パソコンのディスプレイに視線を向けていた一刀は席を離れ、自分の横にいつの間にか来ていた劉協に視線を移す。
「どした?」
「これをご覧ください」
劉協から差し出された用紙を覗く一刀。
その用紙にはクレヨンで一生懸命さが伝わる似顔絵らしきものが描かれていた。
「――これは?」
「ふふふ、璃々からです。こちらが、義兄上でこれが妾だそうです」
璃々が描いた絵の下には形が崩れた丸っこい字で『きょうおねぇちゃんとごしゅじんさま』という文字があった。
「しかし、何でまた嘆願書の用紙に?」
「璃々なりの気遣いなのだと思います。彼女は幼いが、紫苑殿に似てとても聡明ですので」
「なるほど」
本来、初等部の最高学年『児童』の劉協が大人顔負けの仕事をこの学園で行っているのである。
璃々は嘆願書に幼い自分が仕事を手伝う事が出来ない代わりにこうした形で想いを伝えてくれた事に劉協は微笑んでいた。
そんな二人のやり取りを麗羽は手を止めて見つめていた。
一刀と劉協。
二人は立場は違えど、外史でもこの世界でも兄妹の関係でいた。
その関係は、血縁者であっても相争うことになる現代社会においては、形骸化してしまった大切な絆。
浅ましくもそんな二人に嫉妬してしまう麗羽。
普段なら、そんな事を考えないのだが、今日は、色々積み重なって不安に駆られていた。
――いや、今まで溜まっていたが、無意識の内に避けていた想いが麗羽の心の中に溢れてしまう。
ガタン!
勢いよく席を立ち上がる麗羽。
それに吃驚した一刀と劉協は吃驚とした表情を彼女に向けてしまう。
同じような表情をしているという事にすら、嫉妬を感じて険しい表情を浮かべてしまう麗羽。
だが、すぐ、ハッとなり恥ずかしさで俯く。
「麗羽さ「すみません。今日は体調がすぐれないみたいですわ――先にしつれいします」……」
何か言おうとした一刀の声を遮り、麗羽はそそくさと荷物を纏めてしまい、部屋を退出してしまった。
彼女が、出て行った扉を一刀は悲痛な表情を浮かべながら見つめていた。
そんな義兄の表情を見上げながら、劉協は、深く溜め息を吐く。
『兄』とある意味『母』的存在の二人の不器用な姿に幼き少女はやりきれない気持ちになるのであった。
「義兄上――」
故に、『妹』であり、『娘』である劉協が執るべき行動は決まっていた――
真っ赤に染まる夕焼け空の下、麗羽は、学園の郊外にある小さな公園でブランコに乗りながら、俯いていた。
自分が取った浅ましい行動で一刀達に迷惑を掛けた事を恥じていたのである。
『嫉妬』という概念は元、上流階級にいた麗羽にとっては『恥』なのだ。
一言で言えば、『面子』の問題である。
一家の年長者としてのソレが、彼女を悩ませていた。
(一刀さんの事を想うと、小娘みたいに情緒が不安定になるなんて情けないですわ……これでは、斗詩さんや猪々子さんにも示しがつきませんわね)
そんな事をしょんぼりと考えていた麗羽を人影が覆うように包む。
麗羽が影に気づき、顔を上げるとそこには、後ろ手で鞄を持った斗詩が腰を曲げて彼女の表情を覗いていたのである。
「斗詩さん……」
何を言うべきか、迷う麗羽に斗詩は我が子を見守る母親のような優しい笑顔を向けてきた。
「――姫、よろしければ少し、私につきあってくださいませんか?」
斗詩の言葉に、麗羽は少し、悩んだ後、素直にコクリと頷くのであった。
一刀は、とっぷりと日が暮れた夜空の中、付近の住宅から、漏れる明かりと外灯の光を頼りに家路へと急いでいた。
彼の手にはある二枚のチケットが握られていた。
麗羽が去った後、一刀は生徒会室の中で、劉協に『女性の機微』について長々と説明というか説教を受けていたのである。
無論、デフォルトは正座で。
麗羽の事が気になり、話しに集中しないでいると、義妹から、笑顔なのに何故か物凄くプレッシャーを感じる空気に当てられる為、その場から離脱できないでいたのである。
そして、話が終わった後、劉協は執務机の引き出しからあるものを取り出し、それを一刀に渡したのであった。
一刀の手にあるチケットは水族館の優待券であった。
劉協曰く、「家に帰ったら、麗羽殿にきちんと謝罪し、それで『でーと』に誘うのです。よろしいですね?」と、またもや、にこやかな表情でプレッシャーをかけてくる彼女に一刀は頷く事しか出来なかった。
そんなことを考えている内に家の前に辿り着いてしまう。
一刀は玄関の前でゆっくりと深呼吸をし、意を決して、ドアを開ける。
「ただいまー」
その声と共に、リビングから猪々子がひょっこりと顔を出す。
「おかえりなさ〜い」
「猪々子、麗羽さんは?」
一刀の言葉に猪々子は笑顔を向け、コイコイと手招きする。
一刀はそれに従い、猪々子の後に付いていく。
そして、キッチンの前で彼女は「しー」と人差し指を口元に当て一刀を促す。
そこで、一刀が見たのは――
「――包丁を持った手はそのままで添えた手を動かすのがコツです」
「こんな感じかしら?」
斗詩の指導の元、麗羽がジャガイモの皮むきをしていたのである。
「今日は、カレーだってさ」
その光景を見ていた猪々子が一刀の耳元でそう囁く。
「まあ、姫とご主人様が仲違いするのはあたい達にとって一番嫌な事だかんね。斗詩が気を利かせてくれたんだ」
「そっか」
真剣な表情でジャガイモの皮むきをしている麗羽の姿を見ながら一刀は心が温かくなるのを感じていた。
斗詩が監修した麗羽お手製のカレーの味は一刀にとって最高のものだった。
そして、食べ終えた後、リビングのソファーで食休みをする一刀の許に麗羽がやってきて、何も言わずに、普段と少し離れた間合いでとなりに座る。
「「……あの」」
同じ言葉が同時にユニゾンする二人。
「……一刀さんから、どうぞ」
麗羽の申し出に一刀は頷く。
「えっと、あの後、キョウから怒られたよ『義兄上は鈍感です』って。……麗羽さんごめんなさい」
麗羽と対面して、頭を下げて謝罪する一刀に麗羽吃驚する。
「俺、麗羽さんに甘えていました。本当なら麗羽さんの事を常に気にかけていないといけないのに――「謝る必要はありませんわ一刀さん」――えっ?」
「謝るのは私の方ですわ……他の女性と少しぐらい仲良くしている姿に、優しげな表情を向けるアナタに、彼女達に嫉妬していたんですもの」
斗詩は、麗羽を連れてスーパーへ赴いて、一緒に買い物をしている時に、「素直にお心内をお話ください――口にしないと伝わらない想いもありますから。それに、ご主人様はそれぐらいで姫を嫌う事はありませんから」と、笑顔で助言してくれたのである。
「――っ」
しかし、恥ずかしい事には変わりない。
一刀も麗羽の思わぬ告白に頬を真っ赤にさせて照れていた。
そして、互いに笑い合う。
それも収まった所で、二人は視線を交わし、見つめ合う。
一刀がそっと麗羽の手を上から重ね、彼女に顔を近づける。
その意図を察した麗羽はゆっくりと目を閉じ――「よし! ちゅーだ! そこで、ぶちゅっと!」「ぶ、文ちゃーん覗くなんて二人に悪いよ〜」
存在に気が付き、二人はリビングのドアに顔だけ出している猪々子と斗詩に視線を向ける。
「あっ!……そ、その失礼しました〜!」
「ご、ごめんなさい〜!」
一刀と麗羽に見つかった二人は、バタバタと足音を立てながら一目散にその場から逃げたのであった。
そんな同居人達の行動に二人は微笑み、そして、再び見つめ合う。
少しの間を置いて唇同士が軽くふれ合う、恋人同士の優しいキスが交わされた。
――一刀さんと共に過ごせて、私は本当に果報者ですわ。
愛し合う二人に幸せが訪れますように――
彼女は麗羽さん 編 了
おまけ
「二人も無事に仲直りしたし、今度はあたいの出番だね!」
「文ちゃん? なんのことを言ってるの?」
「何って、ナニだよ? ホラ、二人とも奥手で初心だから、ニャンニャンするとき困るじゃん?」
「にゃ、ニャンニャンって……」
猪々子の発言に顔を朱に染める斗詩。
「で、あたいがご主人様の『筆下ろし』をしてあげて、来るべきその時に備えて練習台になってあげるのさ」
「そ、そ、そんなの駄目だよ! ……それに猪々子だって、そんな経験ないでしょ?」
「うん? その辺は大丈夫」
斗詩の言葉に猪々子はゴソゴソと何かを取り出した。
彼女が取り出したのは一枚のDVDであった。
タイトルは『突撃! となりのお姉さん!〜迫りくる濃密ボディ激闘の120分〜』である。
「あわわわゎゎゎ〜」
ボヒュンと湯気を噴火させ斗詩はテンパってしまう。
「こーゆのもあるよ?」
猪々子は笑顔でもう一枚DVDを出す。
二枚目のタイトルは『漢の浪漫! 女子高生と夢の3P〜桃源郷はここにある〜』であった。
「い、猪々子、こここ、こんなの、どこで――「ご主人様の部屋」――えっ!?」
斗詩は思いがけもしない猪々子の言葉に固まってしまう。
「ご主人様も健全な男の子だってことだよ。綺麗どころが三人も同居しているんだよ? さぞかし、ソッチの処理も大変だったんだよ。きっと」
うんうんと頷く猪々子。――因みに彼女は勘違いをしていた。 この二枚のDVDはそれぞれ章仁と及川の所有物であった。寮の監査を逃れる為、一刀に預けていたのである。
「……」
生真面目な斗詩は俯いて黙ってしまう。
「そうだ! あたいよりも斗詩の方が適任かも!」
「……え、ええええ〜!」
思いがけない猪々子の言葉に斗詩は仰天する。
「だって、ご主人様かなりの『おっぱいスキー』じゃん? 悔しいけどあたいより斗詩の方が……」
「ぶ、ぶぶぶ文ちゃ〜ん!」
「斗詩が、裸にプレゼント用のテープを巻いてさ〜『ご主人様、どうぞお召し上がりになってください』っていえば、絶対上手くいくよ!」
「……」
猪々子の言葉を頭の中で想像する斗詩。
一刀の寝室のベッドに寝そべりながら、羞恥心に耐えながらも両手を拡げて――
「ど、どうぞ……ご、ご主人様」
そして、理性の糸が切れた一刀が獣の如く自分の身体を貪る――
「……いいかも」
斗詩を焚き付けることに成功した猪々子はニンマリと笑うのであった。
――夢のみんなで仲良く4Pに想いを馳せながら。
おまけ その2
「キョウありがとな、あのチケット有効に使わせて貰ったよ」
劉協から貰った水族館の招待チケットを使い、一刀は麗羽と良い休日を過ごせたようで、喜びに満ちた表情をしていた。
「そうですか。それは上々でした」
義兄の笑顔に満足そうに頷く劉協であった。
「それでさ、何かお礼がしたいんだけどさ、キョウは何か俺にして欲しい事とかあるか?」
その言葉にピクッと反応を見せる劉協。
「――どのような事でも?」
「ああ、俺に出来る事ならなんでもオーケ−だ」
麗羽と仲直りする事が出来た一刀は少し浮かれていた為、義妹の微妙な表情の変化に気づかなかった。
――言質は取ったと。
劉協は一刀の傍に赴き、彼の目の前にズイッと紙切れを差し出す。
それは、チケットで、内容は『わーるどわんわんフェスタ 〜世界の厳選された名犬とのふれあい〜』であった。
「れ、麗羽殿とばかりズルイかと……妾もたまには義兄上と『でーと』がしたい」
そして、上目遣いに涙目のミックスコンボ。
自覚はないが、『シスコン』の彼がそれに堕ちない訳は無く、頷くしか答えは残っていなかった――
猪々子の野望が、4Pから5Pに変わるのはそう遠くない未来なのかもしれない――
おわり
後書き
ジン様リクエストの『麗羽』SSをお送りしました。
思いのほか難産でした。
時間が掛かって申し訳ありません。 orz
正直な所、人気の高い星、恋、蓮華辺り若しくは妙に人気が高いキョウを辺り予想していましたが、『麗羽』がリクエストされるとは、予想外でした。気分は、第三帝国にトーチカを避けてアルデンヌを突破されたフランス・イギリス連合軍のような心境でした。正に、『これはないだろうという』油断を突かれたジン様の見事な電撃作戦でした。
内容的にはどうでしょうか? 皆様に楽しんで頂けたら幸いです。
キョウSSとか猪々子&斗詩さんSSのような気がしないでもありませんが、お許しください。 orz
|
トラックバックURL : http://blog.surpara.com/usr/trackBackAccept.html/40788

— posted by FUJIBA28
|
Comment[0] |
Trackback[0]
妄想†夢想SS 第零弾
彼氏は剣道部に所属し、性格に古風さを残すところがある一介の高校生。
彼女は見た目は幼いが、彼氏と同世代の可愛らしい普通の女の子。
二人はこの世界とは異なるおとぎ話のような国で奇跡的に出会い、縁によって結ばれました。
二人はごくごく普通の恋愛を――と思っているのは当人達だけで実際は、彼氏を慕う二十名を超える乙女達(一部筋肉妖怪含む)の猛攻を切り抜け、常に寝取られの危険性を孕んだ恋をしましたが、彼氏が女性陣の気持ちに鈍感なおかげで無事ゴールインしました。
――何か前置きで既に普通とは、ほど遠いので改めて紹介しなくてもいいと思うのですが仕様ですので続けます。
しかし、そんな二人は互いに一般人には言えない秘密があったのです。
彼氏は異世界において人々から『天の御遣い』と呼ばれ、戦乱の世を仲間達と駆け抜けた希代の英雄で、彼女はなんと――『フタナ○』だったのです!
大丈夫なんでしょうか? この企画。
恋姫†無双 二次創作 妄想†夢想SS しりーず アトリエちゅうとはんぱ ぷれぜんつ
彼女は大喬編
フランチェスカ学園男子寮。
寮と言っても工事現場において、休憩室などの用途でよく使われるプレハブ小屋である。
そんな場所に眩しい朝日と小鳥達がチュンチュンと鳴く早朝、寮の二階に上がる塗装や防腐処理をされていない銅色の階段をカン、カン、カンと軽快に上る音がまだ多くの男子生徒が就寝中であろうこの場に響く。
早朝の男子寮に訪れていたのは――『北郷 大喬』フランチェスカ高等部に通う少女であった。 大喬は身の丈より、少し大きいフランチェスカ学園の制服姿で通学用のカバンと共にエコバックを手にしていた。
そして、目的の部屋の前、すなわち北郷一刀の部屋の前でポケットから合い鍵を取り出す。
これこそが、大喬が一刀を慕う多くの女性陣から彼女が勝利した証である。
ガチャリとサムターンを回し「おじゃましまーす」と小さな声で部屋に入る大喬。
簡素なキッチンが備え付けられたワンルームの部屋の中から聞こえてくるのはスヤスヤという小さな寝息だった。
大喬がベッドに視線を移すとそこには部屋の主ではなく、小さな少女、璃々が毛布にくるまって寝ていたのである。
璃々の幸せそうな寝顔に大喬はおもわず笑顔になる。
少女の安らかな眠りを妨げないよう静かにキッチンに向かう大喬。そして、制服の袖を捲り、可愛らしく「よーし」と気合いを入れ、愛しの彼の為に朝食を作るのであった。
一方その頃、一刀はフランチェスカ学園と寮を結ぶ並木道でジョギングをしている最中であった。
一刀は、心を交わした愛しの少女と外史から現代へと戻ってきたが、何の因果か他のみんなまで一緒に付いてきたのである。
最初はみんなの身分証明を作ったり、この世界のルールを教えたりと、何故かこの世界の理について詳しい貂蝉と共に必死で立ち回っていた。
そのかいがあって、現在は、皆それぞれにこの世界で謳歌している。
一刀は、生活が一段落した所で再び剣道に精を出し始めた。
しかし、最初は乱世の世界で培った生きるための剣術とスポーツとしての剣道のギャップに勘を取り戻すのに少し時間が掛かったが、マネージャーとして大喬が剣道部に入ったことにより、果然やる気になった一刀は実力を着実に伸ばしていったのである。
こうしてジョギングしているのもその一環であった。
一刀は最終地点である寮の前に辿り着き深呼吸をし、息を整えクールダウンとして軽くストレッチを終えてから自分の部屋への階段を上る。
そして、自分の部屋の前にひとりの少女が腰に手を当て仁王立ちで立っていることに気づいた。
少女は、目元がつり上がっている所以外は姉大喬にそっくりな彼女の妹である小喬その人だった。
「ここであったが――「おはよう小喬」――う……」
小喬にとって一刀という存在は大好きな姉を盗った憎き相手。しかし、一刀にとっては愛しい恋人の実妹である。
故に、小喬がつっかかっても、この通り一刀は敵意のかけらすら見せず、それどころか親愛の情で小喬の突然の来訪を迎えていた。
「小喬がここにいるってことは、大喬が来てくれているのか?」
一刀はそう言いながら部屋のドアノブを捻りながら、小喬を部屋の中に促す。
彼のマイペースな態度に小喬は毒を抜かれてしまいそうになるが、「コイツはお姉ちゃんを盗った憎き男」と心の中で気を引き締め、声を上げようと口を開く。
「アンタ――「一刀さんおかえりなさい」……」
二人を出迎えたのはもちろん大喬。
しかし、一刀と小喬は狐に頬を抓られたような表情をしていた。
何故なら――
大喬は制服の上にエプロン姿、その手にはおたまという、珠玉のコンボ(学生服+エプロン+おたま=幼妻制服Ver)であったからだ。
「――これは孔明の罠よ!」
小喬は絶叫する。
「えっ、朱里ちゃん?」
妹の発言に首を傾げる大喬。
その頃、フランチェスカ学園女子寮のマンションのある部屋にて――
「くちゅん!」
学校へ登校する準備をしていた朱里がくしゃみをする。
「朱里どしたの? 風邪?」
ルームメイトの小蓮が朱里を気遣う。
「ん〜心なしか、不本意な扱いをされた時のように心にモヤモヤがですね……」
真剣な表情で腕を組んで顎に手を添えて考える神算ポーズをとる朱里。
困ったときの朱里○もんは、現代に置いても一刀が係わった事においては勘が鋭いようであった――
「違うよ〜この格好でお迎えすれば、一刀さんが喜ぶって羽未(うみ)ちゃんが――「早坂妹の仕業か!」」
一刀の友人である早坂章仁の妹である羽未の仕業と知って驚愕する一刀であった。(二人については恋姫†無双の前作に当たる春恋*乙女参照)
「と、とにかく、この場をなんとかしなきゃ!」
「そ、そうだな! 頭を冷やす為にシャワーを浴びてだな!」
「う、うん! そうしましょう!」
そして、二人してユニットバスルームに向かう一刀と小喬。
「って! 何考えてんのよこのスケベ!」
我を取り戻した小喬が一刀の腹を抉るように裡門頂肘。
「いいクンフーだ!!」
震脚と腰の入った技に感嘆の科白を残しながら沈む一刀。
「いいなぁ、小喬ちゃん。一刀さんと仲良くできて……」
二人のコントを羨ましそうに見ている大喬。
朝一からカオス状態の北郷家(夫婦+姑+娘〔寝ている璃々〕)であった――
「しかし、アレね異様な光景としか言えないわ」
「何が? 小喬ちゃん」
「なーに? しょうきょーおねえちゃん?」
「何だ? 義妹(いもうと)よ」
小喬の言葉にそれぞれ反応する三人。
「うっさい! 妹ゆーな!」
一刀の言葉に小喬は過敏に反論するも、心なしか頬が紅い。おそらく、恥ずかしさ八割、嬉しさ二割と言った所であろうか。
現在、四人は連れ立って学園と続く遊歩道を歩いていた。
一刀と大喬の間に璃々が、それぞれに手をつないでご満悦な様子で、大喬も幸せそうに微笑んでいた。
そんな三人の横に小喬は付いてきており、第三者の視点で口を開いたのである。
「親子って言うよりも……うだつのあがらない情けない兄を反面教師として健気に世話をする妹ふたり?」
「ほう……中々、おもしろい意見を言うのはこの口か愚義妹よ」
小喬の発言にちょっぴりトサカに来た一刀は、彼女のほっぺを両手でびよーんと、ひっぱる。
「いわぁい! いわぁい! らふぃふうんほひょ!」 (訳:痛い! 痛い! 何すんのよ!)
一刀の膝に蹴りをいれながら、抵抗する小喬。
そんな、ケンカばかりしている二人を止めたのは――
「かずとおにいちゃんも、しょうきょーおねえちゃんもけんかしちゃだめー!」
ご立腹な璃々様でした。
「だって、コイツが悪いのよ!」
「それは聞き捨てならないぞ! だいたい小――「ふたりとも、せいざです!」」
尚も、言い争う二人を可愛らしい怒声で一喝する璃々。
そして、すごすごとバツ悪そうに一刀と小喬は、璃々の前に正座する。
そんなおかしい光景を大喬は子供達を優しく見守る母のように微笑んでいた。
一刀さんと一緒になれて本当に良かった――雪蓮様、私、とっても幸せです――
璃々に怒られて、縮こまっている一刀と小喬を見つめながら大喬は幸せを感じていたのであった。
フランチェスカ学園高等部、?−? Lyon(リオン)組。
一刀と一学年下になる大喬は、ここのクラスで勉学に励んでいる。
「――ダメ! ダメ! ダメだよ! 大喬ちゃん! そんなんじゃあ、一刀さん小喬ちゃんに盗られちゃうよ?」
大喬に向かってそう絶叫する少女は、クラスメイトの早坂羽未。
小柄な背丈、桃色の髪をサイドに二つに分けたショートツインテールが印象的な可愛らしい少女だ。
愛らしい顔つきの眉間を厳しいものに変化させ、大喬の席の机をバンバンと叩く羽未。
「そうかなぁ」
対して、大喬はおっとりとした様子である。
「うー、まあ、妹の小喬ちゃんはともかくとしても、一刀さんは愛紗先輩や鈴々ちゃんに璃々ちゃんのおかあさんの紫苑先生とか……えとせとら、えとせとら――といった不特定多数の人達からも狙われて居るんだから、ここでしっかりと手綱を引き締めておかなきゃだめだよ?」
「……うん、けど、どうしたらいいのかなぁ。私、スタイルとかそんなによくないし……」
羽未の気遣いに感謝しながらも、一刀に失恋してもへこたれるどころか、ますます積極的にアプローチを仕掛けている愛紗を始めとした女性陣への対抗策が思いつかない大喬は「うーん」と唸っていた。
「――大丈夫! 私に考えがあるの……」
そう言って、ニヤリとちょっと悪巧み風に微笑む羽未の姿はどことなく、宮中内での謀略が得意な緑髪のツンツン眼鏡っ子に似ていたそうな。
そして、昼休み。
一刀は大喬に呼ばれ、学園の中庭にて一緒にお昼をとっていた。
別段、それは珍しい事では無いのだが、一刀は困惑していた。
どれくらいかって表現すれば、左慈と鏡の件で争い、外史の世界に飛ばされて混乱していた時ぐらいに。
まあ、それはそれとして、一刀はどうしたらいいものかと考えていた。何故ならば――
「はい、一刀さん。あーん」
胡坐をかいて座っている一刀の片足にちょこんと座って、瞳を嬉しさで少し細めながら、恥ずかしさで頬を少し朱に染めながらも箸に手を添え「あーん」を強要する大喬。密着している肌と、彼女の甘い吐息が届くほぼ零距離の間隔が非常に悩ましい。
一刀は急に積極的になった自分の彼女に萌え殺されようとしていた――が、それ以上に背後から感じる人々の視線や気配に冷や汗をダラダラと掻いていた。
愛紗は教室の窓から二人の様子を覗きながら、昼食をとっていたが、箸がバキッと折れている。
そんな彼女の横でヤレヤレと首を横に振りながら、足を組んで椅子に座って、水筒に入った『酒』を嗜む星。
朱里はシュンとした様子で、何だか切なそうな表情で一刀達を見ていた。
そんな朱里に対し、小蓮は「一刀のうわき者ー」と叫んでいたり。
中等部の校舎から、うらやましそうに二人を見ている鈴々。
教員のいる職員室からあらあらと言った感じで微笑んでいる紫苑。但し、眼は笑っていません。
ぷりぷりと不機嫌そうに怒っている翠。
彼女のいる教室の床には、従姉の八つ当たりを受けフルボッコされ、さめざめと泣いている馬岱の姿が。
炎も凍り付かせるような冷たい視線を一刀に向けているのは蓮華。
主の命令があれば即、一刀を亡き者にする準備万端の思春は懐刀の刃を入念にチェックしていた。銃刀法違反? 多くの女性をヤキモキさせる甲斐性なしの朴念仁は、死罪だと思うのですが?
穏は「やりますね〜」とのほほんと見ているが、頭の中では一刀に対するアプローチ方法を練っている。
華琳は挑戦的な視線を二人に送っている。「そうでなくてはおもしろくないわ」と。元、中原の覇王は今の世にあっては一刀をいかにして自分のモノにするかを楽しんでいるようである。
指をくわえながら「いいなぁー」とか言っている猪々子に「文ちゃーん、駄目だよ覗き見なんかしちゃ」と言っている斗詩の視線はチラチラと一刀に向けられていたり。
生徒会の会長席で劉協が目を瞑りながら憮然としていたり。
校舎の屋上からピザまんを口にくわえたまま、じーっと一刀達に視線を送っているのは恋。
他にも色々意味ありげな視線を一刀達に送っている元、メイド達やお姉ちゃんだったり、がいるのだが、きりがないので割愛。
唯一の救いは男子生徒が極端に少ない為、男達の夜襲がないことだけが救いなのかもしれない。
一刀は大喬が自分為に作ってくれたお弁当の味もわからず、ただ、ひたすら咀嚼を続けるのであったが――
「あっ、一刀さんほっぺにご飯粒がついてますよ?」
――Chu!
大喬がそれをついばむようなキスで一刀の頬から回収する。
本人は「えへへ」と可愛らしく微笑んでいるが、一刀は背後でより大きくなった感情の渦巻く気に失神しかけている。
そして、そんな二人の様子を羽未が満足そうに見つめていた――
黎明館。校舎に併設された喫茶店である。
何と言っても、メイドさんが給仕してくれるのが、数少ない男子生徒に大好評である。
「いや〜ほんま、おもろいなぁ自分」
「……」
放課後、剣道部の練習が始まる前の時間を利用して、一刀は悪友の及川と共に黎明館に訪れていた。
おもしろそうにケラケラ笑う及川を憮然とした態度で接する一刀。これ以上、つっこんでの藪蛇は御免被りたいのであろう。
「――詠、俺の注文したコーヒーはまだ?」
そこに黎明館でアルバイトをしている詠が一刀の横を通りかかったので、一刀はメイド服姿の彼女を呼び止めて声を掛ける。
しかし、詠はツーンといった感じで、一刀を無視する。
「あかんなぁ、かずぴーは。傷心の女の子の傷を抉るような事をしたら――こういうときは『詠。すまなかった。お詫びに今度の土曜日に――ヤラナイか?』や」
無意味に歯を白く光らせて、指で男女の交わりを表現したジェスチャーをする及川。
「死ね!!」
「らぶっ!」
容赦なく飛び前蹴りで及川を沈める、キックの鬼と化した詠。
こちらの世界に来てムエタイなどの技もマスターしているようだ。
兎にも角にも眼鏡キャラ対決は詠の一方的な勝利で幕を閉じた。
「あ、あの、ご注文のコーヒーをお持ちしました」
そこへ、やってきたのは小動物のようにおどおどした、メイド服姿が愛らしい月だった。
一刀の席に月はコーヒーを置く。
「ありがとう、月」
様々な英傑を虜にした一刀スマイル発動。
「い、いえ、お仕事ですから」
恥ずかしそうにお盆で顔下半分を隠す月。
「ほら、月」 そんな彼女を詠が肘でつつく。
「え、詠ちゃん」
「――ここで、他の連中や大喬にアドバンテージをとっておかないとダメなんだから」
「う、うん」
何やら二人で会話を交わしているので一刀は聞いてはマナーに反すると考え、コーヒーの香りを楽しむことにしていた。
「あ、あの兄様?」
「ん?」
可愛い妹分に呼ばれ一刀は顔を上げる。
「お、お昼は、その大変でしたね」
「あ、ああ、いや、まあ、何だ、その、うん」
昼間の大喬との情緒を思いだし頬を赤くする一刀。
そんな彼の態度に月はちょっとムッとなり、おどおどした態度は影を潜め、何かを決心したような表情になる。
「――気を失ったと小耳に挟んだので……お身体は大丈夫ですか?」
と、言って、一刀のおでこと自分のおでこをくっつけて熱を測るような仕草をする月。
「ゆ、ゆえ?」 パシャ。
「――」
一刀の問い掛けに、月は顔を真っ赤にさせ彼から離れる。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いや謝る事はないさ。ちょっと、吃驚しただけだから」
謝る月を一刀は宥める。
その横で、詠は何やら携帯電話を操作していた。そして、仕事中に携帯電話をいじるのはマナー違反だぞと一刀に言われた詠はお盆を縦にして彼の頭をかち割った。
いつから黎明館は暴力ツンツン喫茶になったんだろう? と、一刀は意識を失う寸前にそう自問していた。
剣道部での練習を終えた一刀は寮までの道を心なしかウキウキとした様子で歩いていた。
寮では、先に帰った大喬が手料理を作って待っていることに一刀は幸せな気持ちになっていたのである。
そして、あっという間に寮に着き、ドアを開ける。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
二人は新婚夫婦のように軽く抱擁し合い、部屋の中へ。
一刀は部活で掻いた汗を流す為、シャワールームへと赴いた。
大喬は夕飯の準備を整えていたが、今日は姑(小喬)や娘達(鈴々、璃々、少ない確率ではあるが音々音と張々)がいないので、程なくして終わってしまう。
手持ちぶさたになった大喬は自分の通学鞄から携帯電話を取り出した。
「あっ、メールがきてるみたい……詠さんから?」
詠からのメールに首を傾げる大喬であったが、何か大事な用件が書かれているのかも知れないと思いメールを開く。
ピッという確認ボタンの音がして、間もまなく――大喬の背中に雷が落ちた。
「ふーさっぱりした」
一刀がバスタオルで髪を拭きながら戻ってきた。
「あれ、大喬? 俯いたりなんかして――何かあったのか?」
恋人が俯いてじっとしているので、一刀は心配になり声を掛ける。
大喬は何も言わずスッと自分の携帯のモニター画面を一刀に見せた。
そこにあった、メールの画像は――
一刀とメイド服姿の月が顔を合わせて、まるで、キスしているかのような写真であった。
一刀は後ろ姿でその表情は、見えないが月は目を瞑りながら頬を染めている。
普通に見たら間違いなく、汝熱的なベーゼを交わしている写真と勘違いされてもおかしくない。
「詠ー!」
犯人が解った一刀は激昂する。――が、手首をガシッと大喬に押さえられてしまった。
「――大喬さん?」
ただならぬ、大喬の様子に一刀は思わず丁寧語になる。
そして、顔を上げた大喬の表情は清々しいほどまで爽やかな笑顔であった。
「――そんなにメイドさんがいいんですか? 一刀さん」
「ちっ、ちがって……何するんですか大喬さん」
大喬は弁明する一刀を無視して、パイプベッドの足に一刀を後ろ手にしてグルグルとロープで縛る。
足を放り出したような形で一刀は身動きが取れなくなる。
そして、彼の目の前で大喬は着ていた制服をシュルシュルと艶めかしい音を立てながら脱ぎ始めた。
自称、紳士の一刀は首を懸命に背けて目を瞑り、その情景をカットする。
「ふふふ、ねんねじゃないんですから――見てくれていてもいいんですよ」
見た目とは裏腹に妖艶な声で大喬は一刀に声を掛ける。だが、一刀は首をブンブンと横に振り、そんな誘惑をシャットダウンすることに必死だ。
「――もう、目を開けても大丈夫ですよ」
ややあって、大喬からそう声を掛けられて、一刀はゆっくりと目を開いた。
そこにいたのはメイド服姿に着替えた大喬であった。
ショートスカートから覗く、ガーターと太ももに視線の高さが合う為、否、愛しい人がそんな格好をすれば一刀ならずとも大半の男性は堕ちるだろう。
「ふふふ、一刀さんが誰のモノか、ちゃあんとまーきんぐしなきゃダメですよね?」
一刀の顎に人指し指を添えて大喬は微笑んだ。
彼女の下腹部、彼女が天より与えられた異形。
本来男性にあるソレが、興奮で勃起していた。
つまりは――
一刀は己のある部分の貞操に危機を感じていたが、拘束されているので逃げれない。
「――ちなみに、一刀さんの上も下も両方ですから」
死刑宣告。
こうして恋人達の夜は過ぎていくのであった――
翌日、お肌がツヤツヤでニコニコしている大喬を小喬が見て、一刀がに視線を向ける。
そして、互いにちょっと蒼白な表情で頷きあう。
どうやら小喬も、一刀と同じオシオキを受けた事があるようだ。
義理の兄妹は妙な親近感を互いに抱いてたのであった。
教室で椅子に座るとき、痛みを堪えるような表情をしている一刀をクラスメイトの女子生徒が多数確認し、『相手は貂蝉先生か後輩の馬岱、もしくは三角関係?』 という憶測が学園中に拡がるのはそう遠くない未来であった――
彼女は大喬 編 了
|
トラックバックURL : http://blog.surpara.com/usr/trackBackAccept.html/39433

— posted by FUJIBA28
|
Comment[0] |
Trackback[0]