プリムラ「公王陛下とアンリ君、話は終わったから今から来るそうよ。」
リナリア「わかりました。では私はお客様を呼んできますね。」
プリムラ「はい。気をつけてね。」
私はお客様を呼びに、外へと出かけました。
『ピンポーン』
『ガチャッ』
リナリア「ただいま戻りました。」
プリムラ「あら、リナリアちゃん、早かったわね。アンリ君たちの方が早いと思っていたのだけれど。」
リナリア「少し準備をするから、先に戻ってほしいと言われました。」
プリムラ「あら、そうだったのね。アンリ君たちもまだだから、もう少し待ちましょう。」
リナリア「はい。」
プリムラさんとゆっくり待っているとすぐに、
『ピンポーン』
玄関のチャイムの音が聞こえてきました。
プリムラ「アンリ君たちかしらね。
はーい、今開けますー。」
プリムラさんと一緒に玄関へと向かいました。
『ガチャッ』
扉を開けると目の前に立っていたのは、プリムラさんの予想通り、兄様と父様でした。
プリムラ「公王陛下。お茶会の準備はしっかりと完了しましたわ。」
アリウム「2人に準備を頼んでしまってすまなかったな。失礼するぞ。」
リナリア「父様っ!」
久しぶりに父様にお会いできたのが嬉しくて、父様のもとに駆け寄りました。
アリウム「ふふっ、そんなに慌てなくとも大丈夫だぞ?久しぶりだね、リナ。元気にしていたか?」
リナリア「はい、父様。あの……勝手に抜け出したりしてごめんなさい……。」
アリウム「アンリと2人できちんと考えた上での決断だったのだろう?それを咎める気はないさ。」
リナ「父様……。」
あの日、兄様と2人で国を抜け出してこの島に来た事を後悔はしていませんが、何の相談もなしに来てしまって父様たちには心配をかけてしまったことはずっと気がかりでしたので、こうして謝ることができて本当によかったです。
プリムラ「感動の再会もよいのですが、もうそろそろお客様もみえるはずですし、中に入っていただけます?」
アリウム「うむ、そうだな。」
アンリ「……。」
兄様は、どこか浮かない様子で父様の後ろを静かについていっています。何かあったのでしょうか・・・?
兄様と父様を部屋の中に招いてからすぐに、
『ピンポーン』
玄関のチャイムの音が聞こえてきました。お客様がいらしたようです。
リナリア「あっ、私が出ます。
はーい、今開けますねー。」
『ガチャッ』
リナリア「いらっしゃいませ。」
ひょっとこ「こんにちわーっ、本日はお招きいただきありがとうございまーす!」
クロエ「……ありがとう。」
ひょっとこさんとクロエさんです。
父様がお2人を是非招待してほしいと言ってらしたので、来ていただきました。
リナリア「こちらこそ、来ていただいてありがとうございます。もう準備はできていますから、中へどうぞ。」
ひょっとこ「お邪魔しまーす!」
クロエ「……。」
(ぺこり)
お2人も部屋へお通しして、これで今日のお茶会の参加者全員が無事に集まりました。
アリウム「どうも、はじめまして、アンリとリナの父のアリウムです。」
父様はひょっとこさんとクロエさんに軽く一礼をしてから、クロエさんのほうへ近づいていきました。
アリウム「貴方がクロエさん、ですね。以前は妹のアルメリアと妻のカリンがお世話になって、今は子供たちまでお世話になって。本当にいろいろありがとうございます。」
クロエ「……アルムとカリンにも、世話になった。……今も、世話になってるの、私のほう……。……アンリは、頼りになる。リナリアは、優しい……。」
アリウム「これは、妹と妻から預かってきたものです。貴方に渡してほしいと。」
クロエさんが受け取った包みを開けると、中身は柊の葉をかたどったブローチでした。
枝と葉の部分はクロエさんの好みの色にあわせてブラックオニキスで、実の部分はガーネットでできているようです。
クロエ「……ありがとう。可愛い……。」
さっそくマントにつけてみて、嬉しそうにじーっと見ています。そんなクロエさんが、何だかすごく可愛らしいです。
アリウム「貴方が、佐藤さん、ですね。いつも子供たちがお世話になっております。」
ひょっとこ「誰も滅多に呼んでくれないのに、佐藤さんって呼んでもらえた……(じーん)
えぇ、俺はマジシャン佐藤っていう奇術師です。気軽に、ひょっとこって呼んで下さいな。」
アリウム「では、ひょっとこさんと呼ばせていただこうか。」
アンリ「そんなに喜んでるわりに、いつもの呼び方で呼んでほしいと言うんだな。」
ひょっとこ「普段の呼び方まで佐藤さんだと、他にも佐藤さんがいた時に紛らわしいからねー。」
アンリ「日本ならともかく、この島には佐藤なんて他にはいないぞ……。」
プリムラ「はーい、話が盛り上がるのはいいんですけど、席についてお茶会をはじめてからにしていただけます?せっかくの美味しいお茶が冷めてしまいますわ。」
アリウム「あぁ、そうだな。」
プリムラ「ケーキはいろいろ準備してありますから、お好きなものを選んで下さい。
たくさんありますから、おかわりが必要でしたら後で言っていただければ取り分けますわ。」
私がお茶を淹れている間に、プリムラさんが皆さんに選んでいただいたケーキをお皿に取り分けてくれました。
私はフルーツタルト、兄様はシフォンケーキ、父様とプリムラさんはチーズケーキ、ひょっとこさんは苺のショートケーキ、クロエさんはザッハトルテを選んでいました。
アリウム「心ばかりのもてなしですが、のんびりとお茶とお菓子と談笑を楽しんでいただければ幸い。」
ひょっとこ「余興の手品ならまかせろー!!」
アンリ「落ち着け。……せめて、お茶とお菓子を食べてからにしてくれ。」
ひょっとこ「はいはーい。そうだよなー、こんなに美味そうな紅茶とケーキがあるんだもんなー。紅茶が冷めないうちに食べなきゃ。いっただっきまーす!
(もぐもぐ)うー、美味いっ!お金持ちの家はさすがにいいお抱えシェフがいるんですなー。」
リナリア「シェフではなくて、このケーキは、母様とアルメリア叔母様のお手製なんですよ。」
ひょっとこ「おー、そうなのかー。リナリアちゃんのご家族は料理上手で羨ましいねー。」
ひょっとこさんはすごく美味しそうにケーキを食べてくれていて、見ているこっちまで嬉しくなってしまいます。
クロエ「(もぐもぐもぐ)……美味しい。(もぐもぐもぐ)」
クロエさんはいつも通り静かですが、喜んでいただけたようで安心しました。
そんな中、兄様の様子をふと見ると、ケーキには手もつけずに、たまに思い出したかのようにお茶に口をつける程度で、何か考え事でもしているようです。
私が心配して見ていると、プリムラさんも兄様の様子に気付いたようで、兄様の隣に歩いていって、声をかけてくれました。
プリムラ「どうしたの、アンリ君?シフォンケーキに生クリームたっぷり乗せても、怒ったり、女の子みたいで可愛いなんて思ったり、子供っぽいなーって思ったりなんかしないから安心していいわよー。」
アンリ「うるさいな。別にそんな事を心配したりなんかしていない。……というか、怒るのはともかく、女の子みたいとか子供っぽいとかそういう言葉が出てくるって事は、お前がそう思っているんだろう?」
プリムラ「くすっ、そんな事はないわよー?」
兄様は、少し苛立たしそうにプリムラさんを追い払い、一口大に切ったシフォンケーキにたっぷりと生クリームを乗せて口へ運ぶ、という作業を静かに繰り返していっていました。
生クリームの乗せすぎで、ちょっと食べ辛そうです。
プリムラ「リナリアちゃーん。アンリ君に追い払われちゃったわ。」
リナリア「兄様は何か考え事でもしているようで、すみません。」
プリムラ「いいの、いいの。わかってて声かけたんですもの。1人でずっと考え込んで沈んでるよりは、少し怒っているくらいのほうが元気があっていいでしょう?」
リナリア「プリムラさん……ありがとうございます。」
私には兄様を心配する事はできても、あんな風に声をかけることはできません。
やっぱり、プリムラさんはすごいと思います。
お茶とお菓子を楽しみながら、のんびりとゲームをしたりお話をしていると、
プリムラ「アンリ君、リナリアちゃん。ケーキのおかわりはいかがかしら?」
さっきまでクロエさんと高レベルな神経衰弱勝負をしていたプリムラさんが、何だか嬉しそうに声をかけてくれました。
アンリ「ケーキのおかわりなら、私たちは自分でやるから父上やクロエたちに聞いてきたらどうだ?」
プリムラ「すでに皆には聞いてきたわ。お2人はどう?」
アンリ「それなら、いただこうか。」
リナリア「私もいただきます。ケーキを取り分けるの、お手伝いしますね。」
プリムラ「いいから私に任せて、2人はここで待ってて。」
そう言ってプリムラさんは、隣の部屋へ行ってしまいました。
アンリ「ケーキは此処にあるのに、プリムラは何をしているんだ……?」
リナリア「さ、さぁ、わかりません。」
プリムラ「お待たせしましたー。」
プリムラさんがホールケーキが入っていると思われる大きさの、白い箱を持って戻ってきました。
箱をテーブルの上に置いて、ふたを開けると、その中身は
リナリア「兄様っ、見てくださいっ。」
アンリ「……。今年は食べられないと思っていたのだがな……。」
箱の中身はなんと、母様とアルメリア叔母様特製のバースデーケーキ!
アリウム「2人とも、誕生日前日にいなくなったからな。
カリンもアルメリアもケーキの準備を楽しそうにしていたのだから、せめて、1日待ってケーキくらいは食べてから行ってくれればよかっただろうに。」
プリムラ「ちなみに、誕生日当日のケーキは私たちスタッフがおいしくいただきました。主役不在だったせいで、みんな浮かない顔してたけど。」
あのとき、まったく考えていなかったわけではなかったのですが、誕生日当日になってしまったら抜け出せなくなると思って行ってしまいました。
本当にごめんなさい。
プリムラ「随分遅い誕生日祝いになってしまったけれど、みんなで美味しくいただきましょう。」
ひょっとこ「おー、これがリナリアちゃんが食べたいって言ってたお手製のバースデーケーキかー。確かに美味そうですなー。」
リナリア「はい。ひょっとこさんが準備して下さったバースデーケーキも美味しかったですが、やっぱり食べなれたこのケーキが一番です。」
母様と叔母様のバースデーケーキが今年も食べられるなんて、ひょっとこさんにも食べていただける事になるなんて、あの誕生日の当日には思ってもみなかった事が今起きていて、何だかすごく嬉しくなってしまいました。
プリムラ「はーい、みんなで食べましょうね。こういうのは大勢で食べるのが一番美味しいんですから。
今から蝋燭つけるから、2人で消してちょうだいね。」
プリムラさんが14本の蝋燭に火を灯し、私と兄様が同時に息を吹きかけて蝋燭の火を消します。
1人7本ずつで14本、綺麗に消えた瞬間に拍手が巻き起こりました。
アンリ「誕生日当日でもないのに、何だか照れくさいな……。」
リナリア「そ、そうですね……。」
ひょっとこ「よーし、誕生祝い恒例のイベントも終わったところで、食べましょーう!」
ひょっとこさんの嬉しそうな声が響く中、プリムラさんがケーキを切り分けてくれました。
美味しいケーキと紅茶が彩る、楽しいひととき。
―― このまま終わるかに思えたお茶会は、思いがけない来訪者によって思いもよらない結末を迎える事になった ――
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