怖い話、変な話が大好きだというのは以前も書いた。
さらに、手軽にさくさく読めるショートショートや短編集も好物である。
そんな私にとって、この「異形コレクション」はまさにお誂え向きと言うべきシリーズなのだ。
学生の頃購買で出会った第一集『ラブ・フリーク』から始まり、既刊をすっかり読んでしまった後は新刊を待ち焦がれる日々。出版社が廣済堂出版から光文社に移った後も購読は続いたが、いくら好きでもコンセプトの同じ本を延々読んでて飽きが来ないはずもない。十八集『幽霊船』あたりで疲れが出始め、二十三集『キネマ・キネマ』でとうとう力尽き、その後はしばらく距離を置くこととなってしまった。田中啓文、平山夢明あたりのグロ描写についていけなくなったのもある。
が、先日三十五集『闇電話』を書店で見かけ、懐かしさについ手にとってしまった。そうしたら、時間を置いたせいかそれとも私の精神が老いたのか、結構新鮮な気持ちで楽しめちゃったんである。
そんなわけで、ホラー欲の赴くまま、次は三十三集『オバケヤシキ』をガン読してしまった。これもなかなか良作の揃ったお買い得な一集となっていて満足至極である。
『闇電話』は一部を取り上げるのみにとどめたが、今回は全篇についてちょっとずつ感想をつけてみたいと思う。
●「週末の諸問題」西崎憲
廃墟と化したお化け屋敷に捨てられた赤ん坊を巡る絵画的な一篇。哀れな赤ん坊を"異物"として排除する子羊は神の暗喩か。意外にも後味さわやか。おまわりさんナイス。
●「美しい家」加門七海
幸福な夏の夢を見る古い家。過去がどんなに美しかろうと、もう無いものに逃げるのは不毛だよな。しかしなんか思い出すと思ったらジョジョ第六部のエンポリオだ。
●「ゴルフ場にて」南條竹則
ホラーと言うより二時間サスペンスだこれ。オチがちょっと下世話すぎて好みじゃないなあ。
●「四」倉阪鬼一郎
大学病院なんかはほんと待たされるんで、待ちくたびれて脳みそ煮えてくるこの感じは良くわかる。
●「見下ろす家」三津田信三
"見下ろす家"の正体、友人とその弟が辿った運命が判然としないのが気持ち悪怖い。でも、同じ「その場のノリでみんなで肝試ししたらえらいことになりました」パターンなら、同じ作者の「よなかのでんわ」の方が怖かったな。
●「お化け屋敷」福澤徹三
ダメ親父と娘だけお化け屋敷に入った時点でオチは読めたが、ラストはさすがに胸が冷えた、と言うか憂鬱になった。ありそうな話。
●「DEATH WISH」小中千昭
今回はこれが一番怖かったかも。淡々としたドキュメンタリー風の筆致で"死"と"祟り"を圧迫感たっぷりに描いている。こんな死に方したくねえなー。
●「マヨヒガ」樋口明雄
せっかくマヨヒガなんだから、もっと山霊的なオチを期待したんだけれども。つうか謎の家の正体なんか明かしてくれなくてもよかったのに。悪い意味で予想外のところに着地してしまった感じ。
●「世界のどこかで」安土萌
なんというかマグリットの絵のような、心地良い違和感に満ちている。短い物語の中でいつしか世界が反転し、頭と尻尾が繋がるその美しさ。この人の作品はデビュー作の時からいい味出してる。
●「屍衣館怪異譚」北原尚彦
うーん、ネタもオチも全体的にありきたりで物足りない。"あたし"の正体にはまんまと騙されたが、結局「ふーん」という感想しか出てこなかった。かりかりベーコンなんか猫に食わしちゃダメだ。
●「幻臭」大石圭
うん、怖い。まさに現代のホラー。いつからこうなったのかと考察するに、多分この主人公、最初から狂っているのだろう。じんわりと嫌な話(誉めてる)。
●「テロリスト」山下定
"サイキック部隊"ときた時はどうしようかと思ったが。仕立てはSFながら、本質は間違いなくホラー。世界の行く末どうこうより、幽体だけで井戸の底に閉じ込められた主人公等の現状の方が恐ろしかった閉所恐怖症気味の私。
●「暴君」桜庭一樹
これのみ未読。女の子のしゃべり方や、「紗沙羅」だの「翡翠」だのというネーミングセンスがどうしてもうけつけない。ごめんなさい。
●「ロコ、思うままに」大槻ケンヂ
親に閉じ込められて世界を知らずに育つ子供というモチーフは割りと見かけるが、こもっている世界がお化け屋敷というだけでこうも幻想的に仕上がるのか。かつての筋少ファンとしては、少女がちゃんとニーソックスをはいてるのにニヤリ。
●「昼顔」森真沙子
冒頭の自動車事故の時点でオチが読めてしまったが、迷い込んだホテルに遊郭の匂いがするのはちょっと良かった。単に私が江戸好きなだけだが。
●「彼と屋敷と鳥たち」井上雅彦
うーん。悪くはないけど、あんまり中身がないと言うか。この人雰囲気だけで話を書き上げちゃってるんではないか。それはそれでショートショートしてアリだと思うけど。
●「二階の家族」菊地秀行
タイトルで思わず「李さん一家」を思い出したけど全然違った。最後の最後で明かされる、主人公の恐怖の正体にはぞっとさせられる。さすが、大家の技巧だ。
●「邪曲回廊」朝松健
この人の時代物は独特の粘っこさがあって結構好きだ。この作品に描かれた南北朝の頃のグチャグチャは、いろんな人の恨みや無念が凝ってる感じがしてとても惹かれる。そのうち資料でもあさってみようか。
●「轆轤首の子供」丸川雄一
一般応募作だと言うが、書き慣れた印象。お化けに囲まれて育つ奇妙な子供の物語が、まさかこんな壮大な結末を迎えるとは。私個人は、世界そのものをお化け屋敷に例えるのはあまり好かない。悲観的なのも説教的なのもノウサンキュウだ。
井上雅彦『オバケヤシキ-異形コレクション(33)』(AMAZON)