テーマがテーマだけに、SFチックに偏るかと思ったのだが意外とそうでもなく、捻りに捻りまくった作品が多くて楽しかった。扉絵代わりの江本創氏の幻想標本もナイス。実は江本氏の作品には初めて触れたのだが、標本と言うよりは"干物"に見えてしまうのも結構あった。表紙のやつとかあぶったら美味そう。
それはともかく、各編の簡易感想である。
●「神の右手」藤崎慎吾
ちょっとラブクラフト的というか、「進化論」テーマとしてはオーソドックスながらまとまりの良い作品。冒頭を飾るには相応しかろう。
余談だが、この作品のせいで12日の「プラネットアース」は無駄にハラハラしながら見てしまった。逃げて緒方逃げて。
●「魚舟・獣舟」上田早夕里
人として生きられなかった兄弟の成れの果ての上で暮らす人々、と、文章にしてみるとへんてこ過ぎるがインパクトは大の世界観。
獣舟の進化は人々への復讐などではなく、ただひたすら生存に向かうためのものだろう。その容赦のなさが怖い。
●「罠の前でひざまずいて」西崎憲
なんか凄いオチが待ってるのかと思ったのに。薀蓄まみれのプロローグのみでぶち切られてしまった印象。
●「量子感染」平谷美樹
ええと、要するに量子テレポートを悪用した話、ってことでいいんだろうか。実験成功のニュースを見た時はそんなSFみたいなと思ったものだが、実際こうして小説になってみるとほんととんでもない技術だ。
人も動物も植物すらも、その積み上げた進化をまとめてリセットされてしまうこの恐怖。しかし同時に、ラストの"楽園"の描写は実に穏やかで美しい。エコロジーを突き詰めればここにたどり着くんだろうけれど。
●「娘の望み」八杉将司
SF短編の体裁をとりながら、根本には"父と娘"が向かい合うことになる永遠のテーマが横たわっている。どんな形にせよ、ようやく父の望みと娘の望みが昇華したラストシーンは泣けた。
●「うしろへむかって」井上雅彦
この人の作品、嫌いじゃないんだけどどうも文章がゴテゴテしてて苦手だ。とは言え、この作品自体はシンプルな一口サイズでなかなか楽しめた。薄味だけど。
●「バード・オブ・プレイ」多岐亡羊
頑張って読んだけど、発想のチープさもラノベ感バリバリのキャラも文章も極めて苦痛だった。
●「希望的な怪物 Hopeful Monster」小中千昭
東京の地下にまつわる都市伝説。都市部に住む者にとって地下は馴染みの場所のように思えるが、その実は全く未知の領域と言えるのではないだろうか。
地下鉄のラインとラインの間、我々はけして目にすることの出来ないそこに、こんな人たちが住んでたらちょっと素敵やん? そうでもないか。
●「読むべからず」飛鳥部勝則
全て裏返しになった人間を想像しようとしたら脳が拒否反応を起こした。いちどきにではなく、日記形式でじわじわと、なのがまたタチ悪い。かゆい うま。
●「ランチュウの誕生」牧野修
徹頭徹尾、何ひとつ救いのない、痛くて悲しくて胸糞悪い、心底嫌な話<誉め言葉。
ひとつだけ救いがあるとすれば、作中最も不幸な人物と言える主人公の娘の"その後"が描かれなかったことくらいだ。
●「この島にて」朝松健
蠱毒や犬神を人間でつくっちゃいました、という話。いつもの朝松節炸裂で、ファンならば満足できるだろう。私個人はこの人の歴史薀蓄部分が好きなのでバッチリでした。
●「書樓飯店」蒼柳晋
投稿作品。紙魚に文字を食わせて、人がそれを味わうというのは幻想的で面白い。が、その紙魚を養殖する方法がグロすぎてあわわわわ。私ならそれが何だろうと、自分で産んだものを喰う気にはとてもなれん。
●「貂の女伯爵、万年城を攻略す」谷口裕貴
指輪物語的。この世界観をこれだけで終わらせるのはちょっともったいないかも。人間が頭悪すぎてちょっと悲しくなるけど。
●「個体発生は系統発生を繰り返す」竹本健治
作者の見解をダラダラ垂れ流してるようにしか思えなかった。さわやかな海風を感じさせる雰囲気は好き。
●「ヤープ」平山夢明
『モルグ街の殺人』を思い出したのは私だけではあるまい。チンパンジーは、共食いをする話を聞いてから私にとっては熊と同レベルの恐怖対象だ。
●「楽園の杭」野尻抱介
生物は生きるためにこんなこともやってのける、という壮大なオチ。だがそれよりも、宇宙に放たれた囚人の孤独なイメージが心に焼きついた。宇宙の孤独には、恐ろしいけれどなぜか惹かれてしまう。
●「逆行進化」堀晃
進化という言葉は、実は進歩と必ずしも同義ではない・・・とは分かっているが、私は今の人類をそんなにダメだとは思ってないのでこのオチには異論がある。それもまた一方的な価値観からの意見に過ぎないけれど。
●「おもかげレガシー」梶尾真治
ちょっと変わった日常の物語が、とんでもなく巨大なスケールの物語に繋がっていく。託された植物の種のイメージが"地球の歴史、生命の記憶"を凝縮していて、もうなんだか胸がパンパンだ。
そんな壮大な流れからしたら、ほんの一滴に過ぎない主人公の行動が遠い未来に誰かを救う。素晴らしい読後感に、気持ちよく本を閉じることが出来た。
井上雅彦『進化論-異形コレクション(35)』(AMAZON)








