定められた舞台設定を元に、作家の個性で自由に描かれた物語群。作品によっては作家や編者のイタズラで軽くザッピングしてみせたりもして、その「実は繋がってる」感がどうにも楽しい。
単純にホラーアンソロジーとしても、この「夏のグランドホテル」はだいぶレベルが高いように思う。変なことが起こってもいいから、こんなホテルに泊まってみたいものだ。
では、各編の簡易感想を。
●「海辺で出会って」中井紀夫
とある女性とのひと夏の出会い。しかし実は、その一日が女性の人生全てをダイジェストで映し出す幻燈となっているのがなんともロマンチック。しかしだからといって、婆ちゃんとアバンチュールは正直ないわと思った。ラスト、そのまま普通に別れるのじゃダメなんか。
●「回転ドア」柄刀一
男の名前で美希風って寒いだろ、と思ったら、この作者の探偵シリーズの主人公なのだそうで。こういうゲスト参加こそ、まさにモザイクノベルの妙味だ。
真実を知るにつれ、次第に逃れられない運命へと追いつめられていく主人公の心理描写も良い。推理モノに心霊持ち込んじゃあかんだろとも思うが、ホラーアンソロなのだしまあいいか。
●「ミューズ」高野史緒
やな話だな、いい意味で。こんな風に不純な動機で音楽をやる者ばかりではミューズもさぞかし苦労だろう。
ホテルにまつわる伝説のせいで貧乏籤を引かされている、というなんだか侘しいミューズの境遇。神様の世界も大変だ。
●「天蓋寝台」北原尚彦
いわく付きの寝台で、死んだ女の霊と邂逅し昇天させる、というオーソドックスな話。ただ、主人公が前作『グランドホテル』の登場人物(しかも別作家の作品の)だという点のみ興味深かった。俄然読み返したくなったけど、どこにしまいこんだやら。
●「ヴェンデッタ」森青花
グロ系不倫モノ。誰が可哀想って妻と親友に裏切られた彼が気の毒でならない。仇を討とうとして返り討ちになった弟も可哀想。
でも悲劇のメインは、不倫三昧で大切な人を傷つけ、挙句に死に追いやった主人公たちなんだよな。自業自得だろと言いたいが解体されるほどではないか。
●「お薬師様」朝暮三文
釣りキチゲームブック。同じセンテンスでも読み順を入れ替えることで見える真実が変わるのはまさに奇想。魚になって川で生きるのも悪くないかも。涼しそうだし。
●「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」石神茉莉
石の精とも言うべき奇妙な女を妻にしてしまった男の悲劇。ラストがよくわかんないなあ。再読するうちにすんなりくるか?
●「お迎え」飯野文彦
死者との高座バトルという題材は新鮮。でもホテルあんま関係ないな。
●「辿り着けないかもしれない」飛鳥部勝則
うわあシュールだこりゃ。まさに悪夢悪夢。とは言え、その奇矯さではなくラブストーリーとしての切なさを私は買いたい。辿り着けないのはホテルだけではなく彼女の心にも、か。全く報われない上、最後まで彼女を哀れむ主人公のお人好しと来たら。
●「異の葉狩り」朝松健
室町ホラーをどうやって現代のホテルに持ってくるのかと思ったら、こうきたか。相変わらず一休さんがカッコ良いです。
●「人魚伝説」町井登志夫
母の絶望の犠牲になった娘がひたすら哀れ。人魚なぞ実体はどれも陰惨なものだが、これは結構キてるなあ。
●「柔らかな奇跡」矢崎存美
もうね、山崎ぶたぶたさんの愛らしさと和みに尽きる。主人公はろくな目にあってないのに、ぶたぶたさんのおかげで「そんなんべつにどうってことないじゃん」てな気持ちの良いオチに流れているのが良い。
彼も作者のシリーズものからのゲスト出演らしい。探してみようかなあぶたぶたさん。
●「チャプスイ」南条竹則
チャプスイの材料をとるためだけの豪華料理なのに、思うとおりに食ってくれないヤンキーどもにやきもきする主人公が笑える。うすた京介に漫画化してほしいなコレ。それだけに血みどろのオチは余計だったかも。
●「無限ホテル」薄井ゆうじ
ようするに無期限お泊り状態ですか。やだな。でもホテルって、こういう客が一人くらいいるんじゃないかと感じることはある。
●「過去の女」森奈津子
いろんな話に登場するバー「オールド・ニック」の古参バーテンが主人公。過ぎ去った青春時代の後悔や「過去の女」に対する罪悪感、といった要素の切なさは良かったが、ネタとしては正直手垢のついた感じだ。しかし生まれなかった子がこんな生々しい思考を持つものだろうか。
●「死神がえし」岡本賢一
大事な者の避けられない死を目前にしたらどうするか、という普遍のテーマ。気持ちは分かるけど、そんな方法で生かされても嬉しくないだろというのも定番どおり。
とは言え、死んだあとも娘は君のそばにいる、て言われてもなんのなぐさめにもならんよな。娘愛しさのあまり狂気に走る主人公が哀れだ。
●「流星雨」速瀬れい
利用したつもりが、人魚に利用された吸血鬼。そして、それを傍観する若いバーテンもまた吸血鬼、という話。私は生魚の踊り食いというのに抵抗がある方なのだが、この作品ではあまりに美味そうに描写されているのでちょっと喉が鳴った。
●「魔夢」夢野まりあ
写真作品。作品内容より、死に触れたがる人間の異常性が垣間見えて空恐ろしかった。あと、電車で読みづらかったです。
●「影踏み遊び」倉坂鬼一郎
妻と子を亡くした俳人が、再び句を詠めるようになるまでの物語。捻りはないが、静かに共感できるいい話。こういうのに弱いんだよなあ。『20世紀少年』のオッチョとか『蟲師』のジンとか『FF6』のカイエンとか。だだ泣きです、はい。
●「局所流星群」野尻抱介
基本的に流星薀蓄だが、その薀蓄の果てに導き出された“正体”が興味深い。どうせならこの直後に加門七海の作品を持ってきても良かったかも。それだと答えが限定的すぎるかな。
●「開かずの間」菊池秀行
ホテルを買い取ってまで主人公が止まることを望んだ“開かずの間”。泊まった客が必ず死ぬなんて伝説は珍しくもないが、この作品の場合老人の心に溢れる虚無感に圧倒される。しかし、またも死者を出すことになってしまったホテルマンは気の毒だ。
●「めいどの仕事」牧野修
ベッドメイングするメイドと電話交換台で、なんでこんなバイオレンスアクションな話になっちゃうんだよ。アホみたいだけどカッコ良くて爽快。変な話だ。
●「金ラベル」加門七海
いつもの筆者とはぐっと趣向を変えた、童話的で美しい物語。北斎のマッチ超ほしいんですけど。あと四つ星ラベルの“魔王になろうとした男”の正体が気になる。
井上雅彦『夏のグランドホテル-異形コレクション(26)』(AMAZON)









ジョナサン・キャロルと言うと『我らが影の声』のインパクトが強すぎ、「普段はもの静かなのに前触れもなく発狂するおかんのようなホラーを書く人」という印象を持っていた。分かりにくいたとえで申し訳ないが、実際そうなのだからしょうがない。