この『老ヴォールの惑星』は著者初の短編集だという。その各編の根底に流れるのは「極限状態の人間を救うものは、他者との絆である」という徹底した理念だ。光の射さぬ迷宮に閉じ込められようとも、海しかない惑星に身一つで放り出されようとも、愛と友情さえあれば乗り越えられるぜ! という著者の信念がわりとあからさまに伝わってくる。が、淡々とした描写と設定のトンデモさのおかげか、その暑苦しさはさほど鼻につかない。
でまあ、ぶっちゃけると相当面白かった。個人的には表題ともなった『老ヴォールの惑星』の奇妙な珪素生物たちがとても好きだ。でかくてジェット噴射で飛んでネオンで会話して。木星にこんなのが住んでたらワクワクするなあ。
ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』
一言で説明すると"幽霊話"なのだが、これに登場する幽霊達は特に何かするというわけではない。ただ単に、唐突に現れて幼い兄妹をじっと眺めているだけだ。
物語はこの兄妹の家庭教師である女性の視点で進むのだが、これが死ぬほど徹底した主観に終始している。幽霊も恐怖も疑念も憤りも、主人公の内部でしか描かれていない。そのため、読み進むうちにだんだん「これ全部この人の妄想なんじゃないだろうか」と思えてくる。一度そう思ってしまうと、主人公が「恐ろしい」「大変だ」と騒ぎたて、「全て知っててしらばっくれてやがるなこのガキども」と恐れおののく姿が、精神的にヤバい人の独りよがりにしか見えなくなるのだ。
あまりのわからなさに途方にくれて調べてみたら、学界でもストーリーの解釈を巡って未だに議論が繰り広げられているらしく、ちょっと安心した。ジェイムズもあの世でほくそえんでるかもしれない。
トーマス・オーウェン『青い蛇―十六の不気味な物語』
気になった作品は「雌豚」。吉田戦車のマンガみたいな、どうにも不条理で意味不明な話だ。多分意味なんかないんだろう。考えた方の負けだ。
仁木稔『グアルディア』(上) (下)
視点はあっちこっちぶれるわスペイン語英語ラテン語が入り混じってわかりにくいわで読みにくかったが、新人らしいパワーに溢れた良作だった。結局のところ重要なのは、クローンとして世代交代を繰り返した末に生まれたアンヘルが、個人として愛されることを渇望する、その生涯に尽きると思う。つうかこれ、主役は完全に彼女だよな、JD父子じゃなく。
二ノ宮知子『のだめカンタービレ #18』
といっても、人間関係がおざなりなわけではなく、最近はちゃんと恋人同士に見えるようになってきた千秋とのだめのバカップルッぷりもほのぼのと面白い。円満別居が決まった夜、盛り上がってしまった2人に置いてけぼりにされた調律師さんがノクターンを弾くシーンは笑える。
石川雅之『もやしもん 5』
今巻のメインは、学祭とフランス。以前のわだかまりを残しつつも、フランスへと連れ去られた長谷川を迎えに飛ぶ美里&川浜と、ストーリー上初めて自分の意思をはっきりと主張した直保、そして彼らを陰ながら支えた武藤&葉月&蛍の奮闘。全体的に男前過ぎる。その友情と言うか連帯感を、菌薀蓄や泥臭い描写が台無しにしてるとこも好きだ。
ところで農大の学祭で野菜の無料配布に押し寄せるオバちゃん。母が言うにはあれマジらしいです。ただ母が見たその大学ではきちんと整列していたそうですが。あのパワーとカオスの坩堝は関西のオバちゃんゆえか。









ジョナサン・キャロルと言うと『我らが影の声』のインパクトが強すぎ、「普段はもの静かなのに前触れもなく発狂するおかんのようなホラーを書く人」という印象を持っていた。分かりにくいたとえで申し訳ないが、実際そうなのだからしょうがない。