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[ 小説/ファンタジー]2007年06月19日
<プロローグ>(1)     後記


「元気だなぁ」
 小さな泉の端で膝ほどに浸かりながらも、ばしゃばしゃと走り回っている生命を見て、息吹は呟いていた。
 小屋からそう遠くない開けた場所にその小さな泉はある。
 息吹は近くにあった木にもたれかかり、その光景をぼんやりと見つめていた。
 そうして心地よい日差しと木々の子守歌にいつしか眠りに誘われ、おちていった。

 どのぐらいの時間がたったのか。
 息苦しさを覚え息吹は目を開けた。
(陽は……まだ高いな)
 何なのかわからない不安に、横に置いていた剣に手を伸ばす。
「生命?」
 ゆっくりと見回すが、近くに姿がない。
「あなたなんか知らない!」
 しずまりかえっていた空気を奮わすように、高い声が響いた。生命の声だと判断するより先に身体が動いていた。声のする方に。
「生命!?」
 脇にある木々を抜けたところにその緑髪を見つけ息吹は呼んでいた。
 が。
 その先にいる者を視界に認め、足を止めた。
 黒い衣服に黒い髪、いや黒というには適切ではない不思議な光沢の髪。黒銀のとでもいうのか。艶やかな髪をなびかせた綺麗な顔立ちの青年が佇んでいた。
「息吹様っ」
 駆け寄ってきた生命がしがみつき、息吹はようやく我にかえる。
「……ほぉ……あいつに似ているな」
 青年は息吹を見ると口元に笑みを浮かべ呟いた。
 だが目は笑っていず、冷めた目で、観察している目だった。
「あなたは……?」
 様子を見るために、息吹はあたりさわりない言葉遣いを選び聞く。
「この森に棲んでいる者でね。その子とは知り合いなのだが、記憶がないようだね」
 青年が生命に視線を移すと、怯えたように生命は息吹の腕にしがみつく。
「あまりいい印象の知り合いではないようですね」
「そのようだね」
 さらりと青年は応える。
 息吹はこの青年自身から重い空気を感じていた。息苦しさの原因は、この威圧感だと。
「まぁ、役目を放って飛び出していったのだから……怒られるのが恐いのだろうよ。なぁ? 羅阿陀」
 最後の言葉に生命の肩が震える。
「まてよ、らあだ?」
 どこかで聞いた言葉だと息吹は呟いてみる。
「ラーダとも言うな。お前達は」
「ラーダ!?」
 自分でも出すつもりもなかったのに大声で言い、息吹は思わず手で口をふさぐ。
 驚いた生命も腕を離し、自分の胸元を押さえるように手を重ねていた。
「ラーダって……森を……大地を守り続ける神の化身ともいわれてる聖獣じゃないか……」
「神の化身かどうか確かめようはないが……森を守る一族で森より生まれるものであることは確かだ」
 青年は淡々と言う。
「だったら尚更……ヒト違いだろう? 複製人形だぜ? 生命は」
「ほぅ、クローンとして紛れこんだのか……確かに多少人間らしくはなくても、それならば疑われまいよ。いらん知恵だけはあるようだな」
 むか。
 青年のもの言いに何か胸の辺りに詰まる感触を覚える。
「そうして記憶まで封じ、森が滅びていこうと己が生きたいように生きられれば満足か? 羅阿陀の名が泣くな」
「人違いだって言ってるだろう!」
 生命を後ろに隠すように息吹は間に立つ。
「その顔……気に入らんな」
 は?と息吹が問う間もなく四方から延びてきた細長いものが身体を縛った。
「蔦!? なんでこんなもんが……っ」
 ぎりぎりと手足をおさえ、しめつける。
「大人しくしていろ。羅阿陀さえもどれば人柱などいらぬのだ……貴様の命をとるまではせん」
「ひとばしら……?」
 何が言いたいのか、何をしようとしているのかわからない。だが、この青年からは嫌な気配しか感じない。
「やめてっ! 私はあなたなんか知らないっ! 息吹さまをいじめたりしないで!」
 絡まる蔦をほどこうとしながら生命は叫ぶ。
「いじめる……ねぇ。それで羅阿陀としての記憶がもどるなら、いくらでもいじめるのだが」
 ふう。と青年は息を吐く。
「おい、小僧」
 確かに青年の方が年上だろうが小僧よばわりされては、流石の息吹もムッとくる。睨みかえすものの、青年は気にするでもなく続けた。
「生命とやらの作られた日までさかのぼってみるんだな。いつ紛れ込んだかわからないってのが結果になるはずだ」
 そう言い終わると同時に蔦は緩み、地におちる。さっきまでの生きていたかのような動きはない。
「そうだな……調べに行って戻ってくるまで……小休止も含めて3日間やろう。街までの距離から考えて妥当だろう?」
 青年はゆったりと考える動作をしながら告げる。
「なんで……あんたの言う通りにする必要がある?」
 縛られた手をさすりながら息吹は不服そうに問う。
「時間がないからだ。森はこうしている間にも滅びていく。羅阿陀と私が交わり、新しくより強いラーダを生み出し森を活性化させるのが役目なのだ。さらっていくのは容易いが、じゃじゃ馬ならしが趣味というわけでもないのでね」
「あんた……も、ラーダなのか?」
「ああ」
 背ごしに応えると、青年は瞬きをする間にいなくなっていた。
「息吹……様」
 生命が服をひっぱるように腕の部分を掴む。
 不安そうな目を向け、戸惑っているのだけは確かだった。
「ばかだなぁ。だいじょうぶだよ」
 息吹は軽く生命の頭をぽんぽんと叩き、笑った。
 何が大丈夫で、何が不安なのか、わからないけれど。

please,waiting for next...


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Up— posted by 常盤巽 @ 04:53PM   Comment[0]  Trackback[0] 

 
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