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1 2 3 4 5 あとがき 平原と空が広がるその場所に、まるで目印のように大樹がそびえていた。 その木陰で金髪の青年は腰をおろし幹に背を預けて本を読んでいる。 「天帝サマ〜天帝サマ〜」 のんびりと間延びした声が彼の世界の静寂を壊した。 「そんなに連呼しなくても聞こえるよ。どうした、エニィ」 走りよってきた彼女の後ろに、もうひとつ影があった。 「お客様でス〜」 「久しいな、天帝殿。ご休息のところ失礼する」 軽い会釈から顔あげた青年の、長めの前髪の下から灰色の瞳が覗く。 「これは、これは。冥王ソヴァーリン殿とは珍しい」 ゆっくりと立ち上がり、天帝は微笑むが冥王は怪訝な顔をして言う。 「白白しい。私がここに来ることぐらい予測していたのではないか?」 「というと?」 「貴殿、なぜあの娘に関わらせた?」 「あの娘?」 「貴殿の子息がまとわりついている娘だ!」 荒げられた冥王の声に、天帝の近くへと移動していたエニィは肩をすくめる。 「あぁ、りらとか言ったか」 「そう、あのりらは……私が妻にとまで望んだアリルの転生した姿。なのに、またつきまとわせるとはどういう了見か」 銀髪の奥の瞳が静かな怒りを宿す。 「了見も何も、ワザとじゃないんでな」 やれやれといかにも面倒そうに頭を掻きながら天帝が言う。 「愚息との賭けで、たまたま落とした我が目が、たまたまあのりらに入って、彼女の前世が判ったのだってその後だ。魂には幾重もの封がしてあったしね」 天帝がちらりと冥王を見る。 「その封のおかげで、バカ息子も気づいてはいませんが……封には心当たりがあるようですね」 天帝の目は、冥王の表情を探り告げる。 「アリルに頼まれたことだ……片鱗でも記憶があることが辛いのならばと承諾した。今生こそ幸せに、そう生きられるようにと願った上でのことなのに、彼が関わることで……前世と同じようになりかねないではないか!」 自分の声が大きくなっていたことに気づき、彼は一息つく。 「それとも、彼がアリルの魂に気づいても何ら変わらないという自身でもおありか」 「さぁ? 息子といっても悪魔になりたがっているようなヤツでして、私には見当つきかねます」 その言葉に冥王の目が険しくなる。 「では言い方を変えよう。貴殿らの目的が何であれ、彼女に関わる者として私も人界へ降りることに意義はおありか?」 静かな言葉には殺気が込められ、天帝もそれを察知する。 「どうぞ、ご自由に」 天帝は苦笑を隠しもせず、そう言った。 「いいんデスか?」 張り詰めた空気は冥王が去ると同時に消えた。そしてエニィが天帝に問う。 「んー。まぁ殺されたくはないしな」 冗談めいた口調で天帝は言う。 「それで賭けが無効になるようなコトはありまセん?」 「それはないね。ロードの勝利条件は、あの娘の願いを叶えた上で魂と同化した私の目を持ってくること。こじつけや屁理屈は悪魔のもっとも得意とするところ、それもわからずのんびりしてるヤツには悪魔は不向きだな」 「それッテ」 「うん?」 「天帝サマの方が、悪魔に向いてそうデスねー」 エニィは悪気もなく、ただ素直にそう言った。 りらは廊下を闊歩していた。 そのすぐ後ろには友人の恵留。 「ねぇ、りら。カオ、めちゃ怖いわ」 後ろでは見えていないが、教室を出る時にちらと見、背中から漂う怒気はその表情を変えていないだろうと予測しての言葉だった。 「怖くもなるわよ」 低めのトーンでりらは呟くように言う。 「どこまでついてくるつもり!?」 トイレ前で勢いよく振り返り怒鳴る。 それは恵留にではなく、さらに後ろにいた人物、ロードに対してだった。 「流石にここは、ここまでかな」 トイレ前でいってらっしゃいなどと手を振る。 「出てくるまで待ってるつもり?」 「大丈夫、時間はかったりしないから。出てきたら、転入生らしく校内案内してもらいたいだけだから」 どこで仕入れた知識なのか、ただ単に楽しんでいるかのような様子にりらは呆れる。 「普通ないわよ、そんなのっ。ドラマか漫画の知識っ?」 不意に、ロードが後ろを振り返った。 脈絡もないその動作に、一瞬、りらは呆気にとられる。 「何?」 「いや、今……」 向き直るが歯切れの悪いロードの背後から、見覚えのある人影がこちらに近づいてきていた。 「あれ? 先輩だ」 「先輩?」 ロードは再び顔向けるが、その眉間には皺が寄った。 「いつもの友達と一緒じゃないんだね荒井さん」 涼やかな声だが、ロードは警戒するかのように動かない。 「それと、久しぶりだねロード」 (へ?) と、りらはロードと先輩を見比べる。 二人が目を合わせた瞬間から緊迫感が辺りを包んだ。 「おや」 そんな空気をよそに出てきた恵留が呟く。 「修羅場か。もうちょっと篭ってこよう」 「ちがう! なんか知らないけど緊迫してるだけで!」 置いていかないでとばかりに、りらは恵留にしがみつく。 「だから、三角だからじゃないの?」 「今日のこれまでの会話でそんな色っぽい部分があったなら教えてください」 りらはすがりついたまま言う。 「気にすんな。昔ちょっとしたことがあって、その時の知り合いだ」 聞こえてるっつーのとぼやきながら、ロードが言う。 「ちょっと、ね」 先輩がフっと笑う。 「アリルの魂でも見つけたか? あんたが人界におでましとは」 「カンはそこそこだな。探すまでもなく、知っているさ。魂の管理者だからね」 「なっ」 先輩の言葉にロードが驚いたりしているが、りらには二人の会話が判らない。 (ありるのタマシイ? 魂? 先輩が管理?) 頭の中には?マークが乱舞している。 「りら」 背を向けたまま、ロードが呼ぶ。 「なに?」 「俺、こいつと話あっから。案内いいわ」 「へ? そりゃいいけど……」 どこまで本気だったかわからない案内を急にマジメな顔で辞退され、りらは戸惑いつつ承諾する。 困ったように微笑む先輩と、背中越しにロードに手を振られ、りらはその場を後にするしかなかった。 |
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