2008年11月30日 @ 09:43PM
「どうかされましたか?」
憔悴した様子で座り込んでいた少年に、エリンは声を掛けた。
「妹が居なくなったんだ」
初対面のエリンに、そうとだけ言って俯いて黙り込んだ。
その様子から、エリンはかなりの異常性を汲み取った。
「人探しなら、私の主人に頼むと良いですよ」
少年が、そう言ったエリンを不思議そうな顔をして見た。
エリンが確信に満ちた満面の笑みをして、少年を誘うように立ったまま見下ろしていた。

「ただいま戻りました」
そう言って戻ったエリンの背後に、少年が僅かな不信感を表情に表しながら付いて来ていた。
ナフィルはそれを認めながらも、
「さっきまた犠牲者が見つかったそうよ。これで3人目よ」
と苦々しげに言い捨てた。
「そうですか」
後ろを気遣う様子を見せながら、エリンも表情を曇らせた。
「で、そちらは?」
ナフィルが表情を崩すことなく、そう問うた。
「あ、はい、先ほど市場の入り口のところで出会いまして、妹さんが居なくなったそうで探しておられたのでお連れしました」
少年はそれだけで話が通じるのかと不安そうな顔をする。
しかし、
「そう。なら中で話を聞くわ」
と言って、ナフィルはその理由をあらためることもなく、思いのほかすんなりと話が通じた。
「そちらで座ってお待ちくださいね。今お茶を入れてきますから」
「ああ、エリン、私は薬湯ね」
炊事場に消えるエリンの背後に、ナフィルはそう横柄に言って先にテーブルに着く。
その風貌はエリンと差ほど変わりない年齢に見えるが、奇妙な威厳を漂わせるローブを着て、エリンの言う主人がこの少女であることを知って少年を戸惑わせた。
「座りなさい」
エリンとは違って配慮の無いそっけない言い方をして、向かいに座るように促す。
「はい」
少年は返事はしたものの、それはおびえた様に小さなものだった。
「いつから居ないの?」
単刀直入に、ナフィルはそう聞いた。
「昨日の朝から、です」
そう答えながらも、自分の不安が解消するようには思われない期待の外れた態が見て取れる。
「じゃ、違うわね」
ナフィルはしかしそれで何かに確信を持つと、小さく息を吐いた。
「では、まだ無事なんですね?」
エリンが盆に3人分のカップを載せて現れると、先ほどまでは見せなかった真剣な面持ちで、ナフィルに聞いた。
「多分ね。と言うより、まだ連れ去られたと決まったわけでもないし」
ナフィルはそう言うと、受け取ったカップを一飲みで飲み干して立ち上がった。
「その妹の名前は?」
「レイスです」
そう問うて、その名を刻み込むように噛み含めると、
「エリン、後は頼んだわよ。私は追跡結果を見てくるわ」
と言って、奥の部屋へと姿を消した。
「分かりました」
少年の表情はますます混迷の中に迷い込んだように晴れない。
それを見てエリンは、
「大丈夫ですよ。これからナフィル様が探してくれます。それで、そのレイスさんの使っていた品物が何かありませんか?」
と再び微笑んでそう言ったが、少年はそれでエリンの言葉に理解を示すことは無かった。
「えっと、たぶん髪留めなら家にあるかも・・・」
少年の言葉に、
「では、それを預からせてください。それを手掛かりにすぐ見つけ出します。出来れば急いで持ってきて下さい。それだけ早く不安が解消されますから」
エリンはそう自信満々な言い方をした。
それで安心をすることは無かったが、少年はエリンの言葉に従うことにした。
すがりたくなる抱擁力が、エリンの微笑みにはあった。

セレスタという小さな都市が、魔術師の実験場跡に造られた街であると知ったナフィルが訪れたのは4日前の事。
その事実は既に知られていて、文献を調べたナフィルもそれほどの期待をして来たわけではなかった。
事前の調査は、大抵は傭兵などを雇うなどしてナフィルが一人で訪れるのだが、今回はエリンを伴って、装備もさほど持たずにやってきた。
迂闊だった、と言う事は今更言うまでも無い。
街に入った途端、結界が発動した。
それは明らかにナフィルに対するものだった。
しかし、魔術師が居るはずは無い。
その魔術師は、人間によって捕らえられて殺されていた。
それが偽装では無いとは言い切れないが、ナフィルは恐らく魔術師は居ない事を確信していた。
この結界が、遺跡の稼動と防御を行う意図によってもたらされている事がすぐに分かったからだ。
それが、あの人工生命体だ。
結界自体は直接人間には作用しない。
また、現状はナフィルに制約を科すとは言え、実害はない。
問題は、あの管理者精霊に似た存在が、その礎にするための肉体を得るために、人間を襲っていると言う事だ。
そして、この4日間で数人の女性が行方不明となり、そのうちの3人が遺体で見つかっていた。
その様子から、ただ人を襲っているのではないと推測された。
「礎には条件が必要なのよ。恐らく、魔力干渉力か魔力への順応への適性がいるのね」
遺体の一つに接する事が出来たナフィルは、それが急激な魔力中毒によるショック死であることを察して警戒していた。
肉体を得ればすぐにでも現れるはずだ。
しかし今の世界では、その適性を得るのは簡単ではない。
しかも、1日で1体程度を支配下に置くことしか出来ないようで、それに耐え切れずに死んだ肉体を捨て、次々と礎を探しているのだろう。
エリンの感は当たっていた。
追跡していたナフィルの使い魔は、そのセレスタの管理者精霊の居場所をある程度突き止め、少年から預かった髪留めの霊視によって、まだ生存している事が分かったのだ。
ただ、ナフィルは予断を許さない。
時間的にみて、今生存が確認できた事は、裏を返せば礎として認められた可能性があった。
「もちろん、すぐ使い魔で襲わせたわ。逃げられたけど、あの様子ではまだ完全に支配していない。このまま放置して来るのを待つわけにはいかないわ。こちらから追い詰めるわよ」
ナフィルはそう言うと、いくつかの装備をエリンに渡した。
エリンはそれらの支援魔法具を使用して、ナフィルの魔術支援者として同行する事になった。















設定だけあったのを、気晴らしに適当にでっち上げたもの。
いつか書きたい。
そんな感じ。
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2008年11月27日 @ 00:16AM
これで最後ですね。
続きは「迷い森・上」(エリンさんの活躍)と「迷い森・下」(エリンさんの憂鬱)です。
タイトルがハルヒっぽいですね。
どちらかと言うと「迷い森」も非常に多いタイトルですが、これは確かに書いてて多いと思いました。
入ったが最後、迷ってもう二度と出てはこれません。
いえ、出てこれても、今までと同じ関係には戻れません。
知ってしまった以上、黙っていることも、知らないで済ますことも出来ません。
大体、何が正しいのか、その決断が本当に良かったのかなんて、いつ分かるかなんて分かりません。
悲劇の出発点は、こんな何気ない普通のお話から既に決められているんでしょうね。
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2008年11月26日 @ 00:09AM
最近はカウンターも3桁回ってて嬉しい限りですが、じゃ実際にどれだけ読まれているのかと言うと、やっぱりそんなに居ないんだろうなぁと思うんですよ。
絵と違って小説は読まれてナンボですからねぇ・・・。
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2008年11月24日 @ 00:52AM
続き。
やっぱり今書き直したら長くなりそうだ。
というより、エリンさんは別件であの人と会ってるんだけど、それは端折ったみたいです。
性格もちょっと違う感じ・・・。
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2008年11月24日 @ 00:16AM
2005年のコミケ68で友人の力で頒布した作品を公開します。
また中途半端に長いので分割しますが、新着記事での紹介が流れたら次を載せますので割と早い気もします。

これは、第二部見習い魔術師編「精霊界の門」のプロローグに当たります。
メインはエリンさんと言っても良いほどの内容です。
これも結構古いので書き直したいところですが、それは本編執筆時に、ということで。
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2008年11月23日 @ 04:54AM
魔術師は、魔力に干渉して魔術をなす。
この時、魔術師はその場にある魔力と、自身の持つ魔力を使用するが、その魔力量には限界(能力的、物理的)があった。
その為、大規模な魔術を行使する場合には、必要な魔力量を集める儀式を行った。
ところが、その賄う魔力は無からは生み出せないから、何処からか供給され無ければならない。

その量がそれほどでもない場合、支援者からの魔力支援を受ける。
これは、純化魔力(圧縮増量)や変換魔力(属性付与)であるが、しかしその量は高が知れていた。
必然的に、魔術師は恒常的、かつ安定的で、大量の魔力を引き出せる魔力供給源を欲していた。
一番多く用いられたのが、人為的魔力供給源たる家魔術である。
これは契約者(多くは当主だが一族であることもある)に対して魔力を供給する存在で、支援魔法具である場合や異界の存在、魔力を蓄えた空間などで、その家系の魔術に特化したものであるのが普通であった。
しかし、これは魔術師個人が持つものではなく、基本的には継承によるものであったから、制約があったり一族などによる監視などがあって、必ずしも自由なものではなかった。
つまり、魔術師である以上個人の魔力供給源は必須の要素であり、一人前の証でもあった。


−主な魔力供給源−


神に祈る。
そのこと自体、魔術師であることを自ら捨てたとして蔑視されたが、これもひとつの魔力供給の手段だった。
もっとも、認められることは代行者であるということでもあり、その制約においては必ずしも有効なものとは言えず、魔術師には忌避された。

妖精界(幻想界)
実世界上には無い、世界を形作る元素である魔力が満ちた空間は、魔術師にとっては非常に魅力的な魔力供給源である。
ただし、それは実世界上に接したものである必要があった。
また、多くの妖精界には意図(方向性)や妖精王(管理者)が存在したり、また幻獣や妖精がいるなどして、必ずしも容易に手にすることが出来ないものでもあった。
それでも、基本的には魔術師1人では到底使いきれないほどの濃い魔力が大量に満ちており、求めるものは多かった。

夢幻(無限)界
高位幻術師が作り出した固有結界は、それ自体が魔力を生み出すという魔力供給源でもあった。
ただ、これを作り出すのは常人では不可能であるとされる。
この供給する魔力は、狂気や無限の想像力などによってなされる予測的魔力変換で得られた自家魔力供給であり、必要とされる魔力をそれ以前に無意識的に集積変換したものである。
その為、本人はもちろん、その支援を受ける魔術師は二次変換魔力としての供給を受けるため、その恩恵には計り知れないものがあった。

異世界の存在(魔神や幻獣)
魔力をその存在の礎とする生物を、召喚や契約によって従えることにより、その保有する魔力を借り受けたり、その元なる世界との窓(<門)を開いて魔力の供給源とする最も一般的な手段である。
特に召喚術師によるものではないが、しかし負担や制約も大きく、召喚術家の戒め(檻)などが無い場合、その都度必要に応じて召喚し、従えて魔力を供給させなければならなかった。

神樹
実世界上では最大の魔力保有量を誇る存在である神樹との契約によって魔力を供給させる手段。
存在自体が魔術師よりも上位であるため従えることは出来ないが、代行者や相互支援の契約に基づいて魔力の供給源とすることができた。
ただ、それが出来たのは魔法王国のごく初期だけで、以降は王国管理下にあってその契約者は王国の許可や委嘱によるものだけだった。

人為的魔力供給源
特に魔法王国後期以降、魔力干渉能力の劣った魔術師のために魔力を供給する装置(あるいは集積空間)が多く作られた。
精霊界の門はそのうちのひとつである。
また、「全き神聖」のような人工聖霊(限定神)や複合精霊、魔法陣などを組み合わせた生体魔術装置など、その規模は大きいものではなかったが欠かせないものだった。

支援魔法具
人為的魔力供給源のひとつ。
主に錬金術師が作るもののうち、工芸品に分類される支援魔法具はランクは下がるが魔力供給源に成り得た。
特に圧縮精製した魔力を蓄積したものは、携帯式で非常時向きだった。



なお、魔術師(中期までの正統な王国魔術師)は家魔術、魔力供給源、予備魔力(後述)などを持つことが求められており、これにより魔術行使の制限が減り、地位や身の安全が保たれたと言われている。

予備魔力・・・支援魔法具、従者、魔術支援者などの本人に拠らない魔力。人間や魔神といったものや、纏う幻影といった変り種もあった。
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2008年11月22日 @ 04:08PM
魔法使いと称される特殊能力者(超能力者)は、その殆どが神に通ずる使徒や代行者であるが、稀に混沌の渦や精霊界とのチャンネルを開くものがいる。
混沌の渦に繋がるものは理を超越し自我をも奪われる事象の具現者であるが、精霊界との繋がりをもつものは物質を統べる四大の具現者である。
精霊使いは、その能力が低い場合、精霊力に僅かに干渉する程度でしかないが、高くなるに従って精霊力そのものを自ら発生させて周囲の物質と空間を支配する。
最高位の精霊使いは、四大の精霊の一つの力を特質として完全に自らのものとするため、精霊王の加護を得た者と言われる。
実際には精霊王なる存在(高位次元知的生命体、あるいはその限定空間)はあり得ないとされる(その性質を持つ神は居る)ため、その精霊使いを指して精霊王と呼ぶこともある。
ただし、精霊使い自体は全くのイレギュラー的存在であって、世界の安定に寄与する事は非常に稀なことであり、多くは処断された。
通常、複数の精霊の加護を得ることもありえない。
また、精霊力に過度に影響されると、風土病(後述)になって寿命を縮めたり死亡する事もあった。

一方で、精霊術師はいわゆる魔力使いの上位に位置付けられる。
精霊術師は精霊力に干渉して、魔力の変換を一段階簡素化することで魔術となす。
精霊力から精霊を作り出し、従えることで魔力(精霊力)の供給や使役に供した。
この精霊は精霊力に命令を施したもので、通常はその場における短時間的なものである。
その姿は、多くは魔獣に類似するが、中には自我を持つ人型のものもいた。
稀に精霊力を持つ幻獣(例えば氷狼)も居るが、しかし、当然それらよりも能力的には低かった。
人工精霊の製造は自身の使い魔としてのものだけでなく、施設の管理者や魔法具の守護者としても作られている。
これとは別に、複数の精霊力を有する、あるいは干渉する実験が多く行われた。
四大全てを支配下に置くことが叶えば、世界(理)を支配することも叶うとされ、複合精霊の確立や安定化の実験が行われた。
しかし、これは極めて不安定であり、実験過程で事故が多発して死亡者が出ることもざらであった。
唯一三大の複合精霊(土・水・火)が作られたが、性能実験よりも安定化をさせる方に多大な努力と犠牲を生じてとても実用に足るものではなかったが、人工的に魔術師や支援者を作り出す技術に応用されたほか、人工聖霊(限定神)創造にも転用された。
高位精霊術師は、固有結界でもある精霊結界(その属性から炎陣などと言う)を有し、精霊王に準ずる精霊力を支配する。
また、真逆でない精霊力に限るが、二種類の精霊力に干渉する精霊術師もいた。

なお、精霊力は人間に非常に影響を与えるため、魔力酔いよりも体に変調を来たしやすい。
この病気は、精霊力の強い土地に住む人間に起きる病気と同じもので、風土病と言われている。
例えば、炎の場合は高体温化による内臓の壊死や意識混濁、脱水や恐水症状などで、高位術師になるには抵抗力が高いことも条件であった。



‐-------------------
追記

狭義の精霊界は、存在はするが観測できないもの、とされている。
これは魔術師にとって安定的な世界でも供給源ともならないからだ。
触れてしまえばその未曾有の魔力に飲み込まれるか破滅させられるという、その巨大な精霊力に触れられるのは高位精霊術師の中でも精霊王と呼ばれるような存在だけであるが、そうなった存在は既に人ではなく、自我や理から解放された。
この、世界創生や原初にかかわる精霊界ではなく、精霊力が非常に強い場所(物)、あるいは精霊力を媒介(触媒)とした魔力変換によって生じた空間(結界)なども広義での精霊界と称した。
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2008年11月22日 @ 01:39PM
精霊界の門(精霊界への扉)は、いわゆるソードワールドにおけるカストゥール王国の「魔力の塔」に匹敵する、人為的魔力供給源のひとつ。

召喚術師エイリーン・フューリアが作ったとされる実世界と精霊界とを繋ぐ門。
伝承ではこの門を触媒として精霊界自体を召喚して、世界の創造に寄与したと言われている。
門の奥には精霊界を支配する精霊王がいるとか、その門自体が精霊界との契約を介するなどと言われているが、魔法王国期にはその場所も特定されており、また記述も散見されていることから、実際にはそれを模した複製物と見られている。
この門を作ったのはフェルブス・フューリアだろうと目されていて、その繋がる先は魔界であるとも言われていた。


神秘の究明が進み、魔術文化が最高潮に達した魔法王国期においてさえ、精霊界の存在は証明されなかった。
これは、おそらく混沌の渦の渕に生じた四大の精霊力(域)は不安定で、直ちに実世界上に固定・分散してしまう流動的な世界であると思われたからだ。
それを特定し、また固定した世界(妖精界のような)に出来れば、その精霊力は魔力とは比べられないほど凄まじい一次変換魔力供給源と成り得た。
しかし、ある属性に特化した強い力は、すぐ分散したり弱まってしまうため、理論上は不可能であった。

王国期末期の魔導師エステル・フォワード(精霊術師。この時期にはもはや根源とのチャンネルや強力な魔力供給源たる礎を持たない魔術師は魔導師になれなかった)も、フューリア家の作ったとされる精霊界の門を作り出そうと試みた。
これは精霊界を直接実世界へと繋ぐのではなく、精霊術師たる魔術師の魔力供給源とするための施設だった。
ナフィルらが訪れたのは、このエステルの作り出した精霊界の門で、その属性は土である。
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2008年11月21日 @ 02:33AM
「精霊界の門」

ナフィルが「全き神聖」事件の後、現在の魔術師アルジオに師事したが、その存在の違いから出奔。表立って魔術師であるナフィルを追うことの出来ないメルキス学術院からの監視の目を逃れつつ、各地の遺跡を巡って魔術師としての知識や文献、魔法具などを集め、一人で師リシュエスの想う人ルミナスを追っていた。
魔力の礎を持たないフリーの魔術師であるナフィルは、全き神聖の魔力も、ウォンバート家の魔術も使いこなせずにいた。
そのため、新たな契約に基づくナフィル個人の魔力の源が必要であると考え、魔法王国末期に魔力干渉力の劣った魔術師のために作られたという精霊界の門へと至った。







年内の「トレビスの花嫁」更新はありません。
本家の楽書きを閉じるため、残せそうなもの(特にエリンさん関係)をこちらに移します。







エリンさんのネタばれキャラ設定→
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2008年11月17日 @ 01:37AM
思えば、あのあまりのあっけなさが原因だった。
面を食らって、その驚きのまま、心の準備も出来ずに、今その夢にまで望んだ現実を目の前にしている。
「あの、私・・・」
言葉なんて出てくるはずが無い。
何故なら、頭の中に言葉なんて浮かんでないから。
ナフィルはその様子を楽しげに見ている。
それは余裕とかいう傲慢なものではなくて、単純にアスリンの反応を楽しんでいる様子だった。
「私を尋ねてくる人はたまにいるけど、女の子は初めてよ」
伝説の魔女がいる。
その容姿は過剰に喧伝されてはいるが、その美化する方向は別として、充分伝説になるなと納得した。
しかも、こんなに簡単に見つかるとは思わなかったのだ。
だから、
「本当にいたんですね」
と呟いてしまう。
ナフィルは目尻を下げて苦笑した。
「実際に探す人なんていないのよ。あなたみたいなのは例外」
そう言われて、自分がいわゆる一般的な常識に抗っている存在であることを思い出した。
今更何を驚くことがあるのか。
と思いながら、アスリンは予想外の衝撃に自分を取り戻せないでいる。
「会いたいと言うからには理由があるのでしょうし、まずは落ち着きなさい」
意外と普通、と言うよりも普通の家のよりは少し小さい居間に通された。
「お茶を淹れるから座ってて頂戴」
「えぇ!?」
その言葉に自分でも驚くくらいの声を上げて驚いた。
ナフィルも驚いて目を見開くが、可笑しそうに微笑むと台所へ入っていった。
顔が火照る。
いや、伝説の魔女がこんな質素な生活をして、しかも自分でお茶を淹れていれば驚くではないか。
部屋の中には彼女以外無く、部屋の前に恐らく騎士だろう男が立っているだけだった。
町に入るときに門衛にナフィルに会いに来たと言ってすんなり受け取られ、そのまますぐに訪ねられるとは。
ここ数年の不安や期待はどこへ行ってしまうのか。
疑問や質問は次々浮かぶのにその答えは無く、頭の中は消化不良の思いが渦巻いていつまでたっても落ち着きを見せない。
整理もつかないまま、そうこうする内にナフィルがお茶を持って現れた。
「ちょっと甘くて美味しいわよ」
目の前にカップが置かれる。
それをじっと見つめたまま、アスリンは微動だにせずにいた。
「・・・毒なんて入っていないわよ」
微笑んでナフィルは自分のカップを手に取って口をつけた。
「あの、いつもご自分でお入れになるんですか?」
「そうよ」
ナフィルは素直に即答した。
それが伝わったのか、アスリンは緊張の度合いをいくらか下げた。
「驚きました。伝説の魔女と呼ばれる人が実在して、でも全然凄そうに見えなくて、あっ、ごめんなさい」
ナフィルは優しげな微笑で右手を振った。
「気にしなくて良いわ。凄くないのは確かだし」
再びカップに口をつける。
アスリンは恐縮して縮こまった。
「あなたお名前は?」
「・・・アスリンです」
アスリンは俯いてしまったまま小さな声で答えた。
「アスリン、あなたのことを聞かせて頂戴。まずはそうね、私に会ってどうするつもりだったの?」
ナフィルはそう言いながらカップを押し出した。
アスリンが気落ちしたような、少し気の抜けた表情でカップを手に取った。
「私・・・」
アスリンはカップに口をつけて少しすすった。
「私、ナフィル様の近侍になりたいんです」
「護衛役ってこと?」
アスリンが頷く。
「女の子なのに珍しいわね」
そう言いながらも驚いた様子は無い。
ナフィルが女性であり、魔術師であると言うことの方が珍しすぎるのだから、反応は至極当然ではある。
「メイリス王妃はご存知ですか」
「知ってるわ。会ったことは無いけど」
それはそうだろうと思いながら、アスリンは妙に納得もする。
もう何十年も前に亡くなっている人のことを会った事が無いなどと言う表現は、ナフィルにしか出来ないだろう。
「トレビス王国の国王ジェイルの后で、トレビスの戦乙女と言われた人よね」
「・・・私の憧れです」
ナフィルはそれで理解したようだ。
「それで、どうして私なの」
ビクッとナフィルの言葉に反応する。
「女の身で騎士になることは出来ません。誰かを守るために、誰かの役に立つために、私は騎士になりたいのです。ナフィル様は女性でありながらも魔術師です」
言外に、自分の気持ちはナフィルになら伝わるはずだと言っていた。
だけど、理解は出来てもそれがナフィルの答えになるはずも無い。
「率直に言うわね。私に、護衛はいらないわ」
アスリンが衝撃で悲しげな表情をする。
「そう悲しげな顔をしては駄目よ。それで挫折するくらいの気持ちしかないなら、あなたの望んでいる先には届きはしないわ」
別に絶望させる気は無かった。しかし、明らかに意気消沈している。
「ふぅ、・・・私は魔術師なのよ? 自分の身を守るのなら、人に頼らなくても守れるの」
少し乱れたアスリンの前髪を撫でつけながら、諭すようにゆっくりと話す。
「もちろん人手が必要なときもあるわ。でも強さとか腕が良いとか、特に必要じゃない」
ナフィルの必要とするものを、アスリンは考えたことが無かった。
「強くしようと思えば魔法で出来るし、そもそも傷ついたり命を落としたりする心配が必要無い護衛が魔法で用意できるのよ」
もう冷め切ったお茶のカップをまとめて立ちあがる。
「お茶、淹れ直すわね」
ナフィルの言葉に、アスリンは自分の夢や希望を打ち砕かれた気がした。
私が望んだ立場や居場所は、そもそもナフィルの傍には無かったのだ。
何もかも空回りしていた。
今も、いや、この街に辿り着いた時から、ううん、もっともっと前から。
アスリンが伝説の魔女というお伽噺を聞いた時から。
アスリンが伝説の戦乙女というお伽話を聞いた時から。
スッキリとした甘い香りがする。
ナフィルがお茶を持って席に戻る。
「さて、それでは私の判断を言うわ」
ナフィルの言葉に顔が上向く。
先ほどの言葉で結論は出ていたのではないか。
アスリンの顔には否定的な、疑問に満ちた表情が浮かんでいた。
「私には護衛役なんて必要無い。必要なのは、私に無いその人の知識と経験。あなたにはそれが無いわ」
厳しいことを言われているのに、ナフィルは笑っていて、アスリンは奇妙な温もりを感じていた。
「さすがに裕福と言うわけではないから食事くらいしか出せないけど、何かあれば仕事としてあなたを雇うし、それでも良ければ居なさいな。私に必要な知識や経験をあなたが得られると言うのなら、だけどね」
アスリンの表情は変わらない。
「あの、ここに居て良いんですか?」
「そう言ったわよ。武器の使い方しか学ばないとか、それ以外やる気が無いのならいらないわ。でも、あなたは誰かを守ったり役立ったりしたいのでしょ? 1対1で戦ったりして、それで勝つ程度の人間はいらないのよ。アスリンの目指すものがどちらなのか、判っているわよね」
視点の定まらなかった弱々しい目に生気が宿った。
「も、もちろんです!」
ナフィルが満足そうに微笑んだ。
「正直、護衛しか頭に無い騎士なんて足手まといでしかないのよね」
その言葉に、アスリンは自然と聞きたいことが頭に浮かんでいた。
どこかでそれを聞いてはいけないと、警告をしているようなのだが、アスリンの危険察知能力はまだその域に達してはいない。
「もしかして、初めから置いてくれる気だったのですか?」
ナフィルの顔に、それまで見せていた無邪気そうな笑顔は既に無かった。
「ふふ、あなたに求めるものがあるように、私にも求めるものがあるのよ」
アスリンが感じた悪寒は、恐らく杞憂ではないだろう。
アスリンが感じたのは覚悟だったのか諦観だったのか、本人にも判らないことが他人に判ろうはずが無かった。

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2008年11月16日 @ 04:38AM
神々がこの実世界を創造する際、いくつかの理を定めて、安定と成長をもたらした。
神々はしかし、過度の干渉を手控えた。
世界の創造は、世界全ての礎となる妖精界を統べる妖精王が、生物環境を半神半人の魔術師が、自然環境を神樹が、それぞれを担当した。
神樹は感情的意識を持たない安定と創造を行う装置であったが、その魔力許容量と干渉力は絶大で、後に世界樹と呼ばれて魔術師との契約を行って魔力供給源となったりした。
そうした中で、神樹の一部に知的好奇心のような自我が生まれた。それは一方的なもので、情報としての収集のみで干渉する事は無かった。
自衛のために獣を従えたり、端末として人を創造したりもしたが、人型の端末は神の遣わす使徒や代行者と異なって全くの調査・確認目的の端末であったから、それと悟られる事はなかったと言う。
神樹は魔力を実世界へと消費・転換をするため、その自然環境に強固に依存した。
そのため、人跡未踏の奥地に存在するか、また環境が破壊されたり目的が達せられてその環境創造・維持システム(高位次元生命体)としての実世界とのしがらみを解かれて消失(一説には神界への帰還)した。
なお、双樹と呼ばれる神樹ロステルフェーダ(均衡世界)、神樹クラバルタルス(対極世界)や、接ぎ木や挿し木によって生まれた若木(第二世代の神樹)などの神樹も存在した。


関連する設定

ミュエル=フォンレシテーヌ
接木から生まれた第二世代の神樹フォンレシテーヌに芽生えた端末。ユーリによって、魔法具「契約の木」の守護者精霊として肉体を得た。肉体は魔法使いとして覚醒した人間の少女のものを素体とした。ユーリよりも若い神樹の端末の意識としては、自己が活躍できる新たな世界を手に入れること。神樹としては非常に珍しい野心的な存在で、ミュエルは積極的にその可能性を持つ魔術師を探して、その支援者となることを求められた。天地無用で天地がマスターキーで船穂の力を借りたように、ミュエルは基本的に神樹の力を使っている。周囲の魔力よりも純粋で濃い魔力を術者にも供給するため、契約を果たした魔術師は結界下にあっても魔術行使が可能だった。なお、神樹の端末は複製と言う特殊能力を持つ。ちなみに、端末は他にも持てる。(姉妹がいる?)

ミリス=アリュータ
世界樹と呼ばれる第一世代の神樹アリュータが作った端末。人を模したとは言え、その姿や行動は人そのものである。もっとも、普通に人として生き、子を産み、その子がまたアリュータの端末としての意識を持つのみで特に何か使命を持っているわけではないので、周囲からは全く悟られてはいない。神樹の魔力を擬似魂としているので、供給が得られないと死んでしまうが、基本的に人と同じ一生を歩んでいる。元は竜騎士などのような代行者であったが、融通の利く柔軟な対応が出来る、より人に近い存在として人に混じるうち、今のようになったらしい。ただし、魔法能力者としては魔術師よりも上位に位置し、自己を覚醒すると神樹の魔力を無制約(ただし条件付)で使うことが出来る。

神樹騎士団
トルモース辺境魔法騎士団の別称。トルモース辺境伯が総督である辺境騎士団は、神樹エンテスルーベルが擁する鎮守の森を警戒監視するために作られた。幻獣が多く棲む広大な森も、王国末期に大規模な人間の侵食(伐採や入植)によって神聖が失われた。(その際、未曾有の被害をもたらした) なお、この神樹には騎士団に協力をする端末と、それに対する端末が存在し、そのことで有名(これが騎士団設置の理由)でもあった。

双樹
通常1本からなる神樹だが、実世界には対となる2本からなる神樹の存在も確認されていた。これは神樹にあっても古樹と呼ばれる古代種(原初に近い上位種)と思われるが、しかし普通であれば能力が分散されてしまう双子は考えにくく、長らくその存在意義が不明で研究対象となっていた。
神樹ロステルフェーダは、実世界の東西に存在する姉妹樹である。存在自体は王国成立以前から知られており、巫という使者(端末とは異なる)がそれぞれに付いていた。しかしその伝えるものは予言や警告であって、自身や神樹について語ることはなかった。そのため、おそらく同じ存在ではあるが、それがどういった理由と存在であるのかが解明されなかったが、王国中期になってロステルフェーダが二つ存在するのではなく、本来はひとつのものが二つに見えているものであることが判明した。それは広大な実世界上を東西2点から均等に現実化(実世界化、あるいは固定化)するための窓口であり、実世界上の存在はひとつであると言う、その理論が真に理解しがたいもので当初は理解者も少なかった。それが公的に認められたのは、巫が最後の予言(警告)を行って、神樹が同時期に消失したことによる。予言内容は記録には残されていないが、消失の理由は実世界の存在概念の成立によることであると伝わっている。なお、世界における環境の局地的差異が見られないのはこのロステルフェーダによるものであるとされ、その中心地は均衡世界と呼ばれて王国消失まで封印指定地区だった。
王国中期、とある神樹との契約・実験において、偶然にも双樹の存在が判明した。それが神樹クラバルタルスだった。これは存在の確認された神樹ではそれほど際立った能力を持たないものとされてきたが、実は実世界上ではなく、妖精界に双子を持つ双樹だった。その能力は作り出した実世界の環境などをフェードバックして実世界のコピーを作り出すものであると言われ、小世界とも言われた。ただ、そこは人の住む環境としてはあまり適さず、同時期に消失したロステルフェーダに絡めて対極世界と呼ばれた。これは、しかしそれを利用した空中庭園が失われたことで喪失したと言われる。契約者やその実験グループの秘匿により詳細は伝わっておらず、謎の多い神樹だった。

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人には様々な感覚器官がある。
目(視覚)や鼻(嗅覚)、耳(聴覚)、舌(味覚)、手・肌(触覚)などの五感の他、環境や実体験を含む経験などを収集・分析するため、特に人型ではない存在が作り出したものが端末である。
世界から退去した神々の遣わす天使や使徒、代行者に近いものと、魔術師の作り出す使い魔に近いものがある。
特に、神竜の持つ竜騎士と竜司祭、神樹の持つ端末(若芽とか誘い花などと言われる)が知られている。
擬似魂と呼ばれる、方向付けられた魔力の塊に意識(命令や制約)を付加した存在(ミュエルはそれにさらに強固な礎となる人の魂を加えた人為精霊)で、人為精霊よりもより実世界への干渉力を有する。
「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門が自身で言っている端末と非常に似通っている。
そして設定上でより強固な設定とし、また影響を受けたのが、「天地無用!魎皇鬼」における皇家の樹。
その存在や能力などは馴染みやすい部分のある近しいものである。

ところで、ソードワールドのように固有の精霊(エントやドライアド)が存在しない。これに当たるのが神樹における端末であり、通常は1体(メッセンジャー)で現れることが多いが、複数体存在することもあり、またその目的や行動は様々だった。
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2008年11月15日 @ 02:17PM
この街に来て半年。
文献上にある遺跡は、その半数が既に無く、残るうちの半数は自分にとって必要の無いものだった。
捨てられた実験場と思われる遺跡から、三日ぶりの自宅に戻る。
金銭的余裕が無く、誰も雇っていないので、戻っても食事の用意も自分でしなくてはならない。
疲れてはいたが、さすがに何も食べずに丸1日を過ごすと、
「食べろとうるさくて何も手が着かないじゃない!」
と言う状態になる。
市場通りに出て手っ取り早く食べようと、部屋着に肩掛けという格好で外に出た。
お昼を過ぎて一段落と言ったところのような時間。
つい通りしなに冷やかしで露店を覗く。
その時、ふと顔を合わせた女性が、驚愕の表情でナフィルを見た。
顔を強張らせたその女性は、しかしナフィルへの興味を薄らげた。
何かに気が付いたような、、思い出したかのような上の空な様子。
ナフィルは以前にもあった状況を思い出して警戒したが、女性は何も言わず、逃げるように立ち去っていった。
面識も無ければ身に覚えも無い。
しかし、あの様子は魔術師であるナフィルにしてみると、気にしないで済ます事ではなかった。
その不快感で機嫌を損ねたナフィルは、結局まともな店に入ることなく、露店の一つで簡単に食事を済ませたのだった。

数日後。
扉を叩く音に御用聞きが来たものと思って出たナフィルは、そこに神妙な顔をして立つ先日の女性を見た。
油断無く女性の挙動を監視する。
対抗する指輪の魔力が、ナフィルの警戒感から自動的に発動する。
互いに身動きすらしない僅かだが充分な時間がその場を支配した。
女性は既婚者と思われる柔らかくて穏やかな雰囲気を感じさせた。
「少し、お話をさせて頂いて宜しいでしょうか?」
落ち着いているにしては暗い、だがしっかりとした口調でそう言った。
意図が読めず、険しい表情は緩めない。
だが、戸惑っているのは彼女のようで、眉根を寄せると悲しそうに目を伏せた。
「・・・取りあえず入りなさい」
ナフィルは招き入れる事にした。
女性は臆することも無く、招きに応じて客人となった。
「お茶を入れるから座っていて」
女性が素直にテーブルの席についたのを確認すると、ナフィルは煮出したお茶を注いで戻った。
複雑な表情に変わりは無かったが、雰囲気は落ち着いていて、敵意は感じられない。
客用のが無かったので、自分用のカップを差し出す。
それは以前親交があった王族のお姫さまから贈られた、色ガラスの珍しいものである。
「で、確認しておきたいんだけど、あなたは私のことを知っているのよね?」
女性は興味深そうにそれを眺めると、心持ち真剣さを見せて頷いた。
「はい。・・・と言いましても、つい先日知らされたのです」
「誰に?」
ナフィルが尋ねているのに、何やら女性の方が不思議そうな顔をしている。
「私は・・・・・・、私はミリスと言います。先日、あなたに会った時、突然思い出したのです。私がアリュータの端末である事を。アリュ−タは私にこう言いました。『魔術師に遺跡を開放するように伝えよ』と」
ナフィルはその女性、ミリスをまじまじと見た。
どう贔屓目に見ても、少し理知的に見える普通の女性である。
年齢的に言っても、またその醸し出す雰囲気から、恐らく結婚していて子供がいるのではないか?
「あなた結婚は?」
「・・・はい」
「子供も?」
「・・・・・・はい」
ナフィルはあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「そのアリュータと言う人は、あなたに何を命じているの? 私が魔術師だと知っていて、あなたを寄越すのはどうしてなの?」
ミリスは驚いて少し気圧されるように身を引いた。
「アリュータは魔術師ではありません。あなた方が「神樹」と呼ぶものです。それに、私も人ではありませんから」
そう言いながらも、その悲しげな様子から本意であるとは思えない。
「で、私に何をさせたいの?」
苛立ったように問う。
ミリスは上着かと思われた布の包みを開いた。
そこに、まだ青い葉の付いた若木の枝があった。
「これはアリュータの枝です。あなたにアリュータの力を与えます。ただし、ひと月しか伝えられません。その間に、あの遺跡を開放していただきたいのです」
それは、神樹の力を得る契約の枝である。
ナフィルのように元々の魔力が少ない魔術師にとって、極めて貴重な「支援魔法具」だった。
「ちょっと待って、私はまだ受けるとは言っていないわ。大体その遺跡って何?」
差し出された枝を手にして、ナフィルは声を荒げた。
「受けては、頂けませんか?」
逆に、ミリスの声が低くなる。
「私はここに来て半年よ? どの遺跡の話だか分からないし、開放するってどういう事なの?」
そう言ってから、ミリスの雰囲気が変わっていたことに気付いた。
それは非常に冷たい、とても乱れの無い落ち着いた単一の感情に満ちたものだった。
ナフィルは息を呑む。
これは、要請ではなく強要だった。
ナフィルには、そもそも選択肢など無かった。
「・・・・・・私が受けなかったらどうするつもりなの?」
ミリスが視線を外す。
それだけで、答える前にわかった。
ミリスが、このまま引き下がる事は無いと。
「今、この街にあなた以外の魔術師はいません。・・・ここ数十年、あの遺跡が稼動して以降・・・・・・」
「私ではないわ」
良くは判らなかったが、その遺跡の稼動とナフィルには何らかの関係があるのではないか、そう言っているように思われた。
「もしそうであるなら、その遺跡を開放して欲しいと、アリュータは言っています」
僅かに視線を外しながら、ミリスはナフィルに向き直った。
何やら、まだナフィルには隠していることがある。
核心には触れず、ナフィルにとにかくこの依頼を受けさせたいという意図が読めた。
戦って勝てるかと言えば、それは難しい事だった。
相手は自分とは格が違う。
その纏う魔力は、魔術師のそれとは異なるものだ。
それに、・・・・・・結婚していて子供のいる相手だ。
正直戦いたくない相手だった。
「・・・私に出来るかどうか分からないけど、良いわ、受けてあげる。ただし、結果がそのアリュータの望む通りになるとは限らないわよ?」
初めて、ミリスは安堵したかのような笑みを見せた。
それは本当に僅かなもので、それが一体何に安堵したものなのかは計りかねた。
「明日、ご案内します」
「すぐに行くの!?」
いくらなんでも、何も知らないし準備もままならない。
「知らなくても、一度見てもらえば良いとアリュータは言っています」
有無も言わさないつもりのようだ。
しかし、先程よりも余程穏やかな様子に、ナフィルは毒気を抜かれて頬を引きつらせるしかなかった。

話の突拍子さに比べると、その日常さは異常にすら感じられた。
翌日会ったミリスは全くの普段着で、足元には小さい男の子がいた。
「私の子です」
そう言って、
「私のお友達よ」
とミリスの子に紹介される。
その子はミリスの足に抱きつくと、興味深そうにナフィルを見上げた。
どう反応して良いのか戸惑ったが、取りあえずそれなりに振舞う事にした。
「ナフィルよ。宜しくね」
はにかんでいたようなその男の子は、満面の笑顔をした。
「でっかい姉ちゃんだね?」
聞きなれない形容詞に驚く。
童顔で小柄なナフィルは、概してそれに見合った表現をされる。
どうも隣に住む年上の少女を「姉ちゃん」と呼んでいるからだそうだ。
それにしても、もう少し可愛らしい表現は無かったのだろうか?
二重の意味で衝撃だった。
その後、どう言うわけか子供の話に付き合わされ、夜は夫にまで紹介をされて食事に付き合わされた。
夫は切り出した木材の加工と搬送をする仕事をしているとかで、今の時期は中々忙しくて戻れないので、気晴らしに付き合ってあって欲しいとお願いされた。
「どういうつもり?」
その質問は当然許されるものだろう。
「知っていて欲しかっただけです」
今、ミリスは昼とはまるで違う表情と雰囲気をしていた。
「もし何かあれば、私は全てを失います」
月明かりを背景に、ミリスは振り向きながらそう言った。
表情は分からない。
「それは脅し?」
首を横に振ったのだけは分かった。
「私が今まで自然に、いえ、普通に生きてきた事を見て欲しかったからです。アリュータはあなたに隠し事をすべきでは無いと考えています。ただ、何かあれば私はアリュータとして、その使命を全うするだけです」
ゆっくりと近付いてくる。
そして目の前に立ったとき、ミリスは子供と居た時のように穏やかに微笑んでいた。
それが母性的なものであることを、ナフィルは確かに知っていた。
「朝までには戻りましょう。場所と、今の様子だけ見られれば良いと思います」
ナフィルの手を握る。
警戒感を解けずに、僅かに力が入って強張った。
ミリスの目が細まった。そこに単なる人としての意識だけではないものを感じて、自分の感覚は正しいものなのだと認識する。
「跳びます」
そう言った時、既に二人は鬱蒼とする樹海の真っ只中に居た。
ミリスの格好も、質素な普段着などではなく、今や神職か高位の魔術師のような長いドレスとマントのようなローブ姿となっていた。
向けたその横顔が、自分と同じ世界の「存在」だと、教えていた。
「あれです」
ミリスの向く右手、ナフィルの左手にある崖下の小さな洞穴が、その遺跡の入口だった。
夜にもかかわらず鳥の羽ばたきが聞こえると、頭上の木の枝に、数羽の鳥が現れて止まった。
1羽が降りてきて、ミリスの肩に止まる。
ミリスが顔を向けると、その鳥は羽ばたいて舞いあがり、他の鳥と共にいずこかへ飛び去った。
「これまでに来た人は10を超える。戻らなかったのが1人居る。監視を妨げられた事は無い」
ミリスがそう呟く。
「この遺跡が稼動状態に入ってからの状況です。戻ってない1人が気になりますが、古い事なので余り詳しい事は覚えていませんでした」
先ほどの鳥は、ここの監視をしていたのだろう。
「でも、あの入口は偽物でしょう?」
遺跡に繋がっているとは思えない。通常は魔術師だけが通れる通路か、転移装置があるはずだった。
こんな森の中、自然の洞穴を使ってまでここに施設を作る魔術師はかなりの変わり者だ。
「そうですね」
それは肯定の意味ではなかった。ナフィルの意見が一般的に正しいことだと認めてのことだったが、それが全てではないという事だ。
「行ってまず見てみましょう」
ナフィルの意見など聞く気も無いようだった。
洞穴は小さかった。
ナフィルでさえ屈まないと入れないほどの入口。
汚れる事は厭わなかったが、そうしないと入れないほど荒廃した遺跡が稼動しているとは思えない。
それに、この入口自体に何の魔力も感じられなかった。
「入らないと分からないわね」
「それじゃあ入りましょう」
さらっと言われて、ナフィルは恨みがましくミリスを見る。
穏やかで優しげな母性的な女性の姿はそこには無かった。
杖を洞穴の奥に差し向ける。
「闇を退け、我が道を照らさん。我は理を示す全き神聖なり」
洞穴が優しい光で満たされる。
ひんやりとした空気が漏れるが、外套を脱いで背のうに押し込んだ。
何も言わず身を屈めて入る。
ミリスも、ミリスは服に気を使うことはなかったが、後に付いて入った。自然洞だった。
入口からそれほど遠くないところで、立って歩けるほどの広さになった。
穴は二つあって、一つは這って入らなくてはいけないほど小さく、否応無しにもう一つを奥に進む。
その先には、動物のものらしい白骨があった。
所々に小さな横穴があったが、いずれも人が入れるものではなく、迷う必要はなかった。
それでも、かなりの時間がかかったように思われた。
辿り着いた先は、突然に現れた魔術師の実験場だった。

街に戻って、ナフィルは行き付けの酒場へ向かった。
お酒は進んで飲む事はなかった。
こうした酒場で人を募るのだ。
そのためにいくつかの酒場を回り、そこの親父さんの人柄が信頼に値するかを前もって調べておいた。
この街には遺跡発掘ギルドのようなものはなく、人を雇うにはこうしたところが不可欠だった。
「こんにちわ」
酒場の扉を苦労して開ける。
小柄のナフィルには、酒場の大きな扉は少々荷が勝ちすぎる。
「おう」
と、元猟師の親父さんが応じた。
引退したとは言え、昼間は良く店の食材を山に採りに行っていた。
その下拵えだろう。
開店していない店に用事があるナフィルだけが、唯一許されている時間帯。
「また人をお願いしたいんだけど、今度はちょっと危険なの」
何も頼まなくてもジュースが出る。
「腕は?」
相手をすることなく、そう言って厨房に消える。
「良ければそれに越した事はないけど、余り余裕がないから2〜3人。機敏で反応が良い人が良いな」
「二・三日したら来い。声を掛けておく」
酒場に来る人間の中で、そうした仕事を請け負う何人かの集まりがあった。
親父さんがそれの仲介をしてくれるというのは、どこの酒場でもよくある事だ。
ただ、ここは犯罪紛いの連中とは違い、身元の良く知れた人間が多かった。
酒場の親父さんの人柄が知れた。
親父さんは結局、ナフィルが帰るまで姿を現すことがなかった。
しかし、それがナフィルに対する差別ではないことを知っていた。
家に戻る途中、魔術の代用品になりそうなものを買い、久しぶりの感がある自宅に戻った。
2日ぶりだが、正直遺跡よりもあの「女性」による負担の方が大きい。
魔術師ではない。人間でもない。
あれは神樹の作り出した、使い魔のような「物」だ。
しかし、人と変わりがなかった。
ナフィルと出会って、「気が付いた」のだと言うが、もしそうならとんでもないものを目覚めさせたことになる。
人間としては、ナフィルとは比べようもない程「真っ当な」人間だったはずだ。
それは、アリュ−タでないミリスを見ていれば良く分かる。
だからこそ、アリュータであるミリスの異常さが良く分かった。
それは畏怖だ。
ナフィルは未熟とは言え魔術師である。
格の違いと言うものを、ナフィルはこれまでいつも思い知らされてきた。
だから分かる。
あれが「普通」でないことが。
遺跡は、ある状態を実験設備に与えていた。
それがこの地域の魔力に干渉していた。
アリュータがこの地方の自然環境を管理下においている以上、それは看過し得ない問題だったろう。
「つまり、体良く巻き込まれたという事」
今日1日、また食事もせずに歩き回って、そのままベッドに倒れこむ。
それはとても厄介事ではあったが、持たざるものである、これはナフィルの宿命のようなものだ。
にしても、
「あぁ、これでまた私は、何かを得ると同時に、何かを失うのでしょうね」
と呟くと、そのまま朝まで起き上がる事はなかった。

あの自然洞は果たして入口だったのだろうか?
遺跡に関して、ナフィルは実験場の一つであるという事と、いわゆる貯水池と呼ばれる魔力の貯蔵を行う施設であるという事を知っていた。
記述では、そこは地上と地中からなる小さい設備が4つあり、それに囲まれる中心部に12層からなる実験場があった。
そこには管理者名と実験内容が書かれていたが、それは学院に対する表向きの内容でしかないようで、余白に走り書きで「高位(儀式)確認」と「素材300」と書かれていて、人間(魂)を触媒とした極めて粗暴な実験をやっていたように思われた。
遺跡の調査は、基本的にナフィルにとって必要なものがあるかないかであったから、自分一人でも何とかやって来れた。
しかし、本格的に調べるとなると、隙も出来るし人手もいる。
ナフィルはこの「必要な犠牲」をとにかく嫌がったから、今回も事前に危険があることを充分に言い含めていた。
見つかったものはそのほとんどを報酬として与えてしまうので、見返りは大きいと思われるが、とにかく当たりはずれもあるから、期待を持たせるような事も言わないでおく。
それでも、古代の遺跡に眠ると言われる宝物の価値は、十分に一攫千金を求める野心溢れる若者を惹き付けずにはおれなかった。
遺跡発掘のギルドは、名称こそ統一していないものの各地に多く存在して、傭兵ギルドがそれを行っていたり、学術院の委託を受けた調査隊が行っていたりしたが、ほとんどは非合法や犯罪紛いの盗賊団が関わっていた。
それだけに、遺跡に詳しい専門家(魔術師とはもちろん名乗っていない)であるナフィルが居る事は、非常に好都合であり、この上ない好機だった。
紹介された若者たちは全員が傭兵か兵籍にあった者で、若さゆえの自信に満ち溢れていて恐れを知らなかった。
ナフィルはその時点でうんざりしていた。
安心しろとか任せておけとか、大言壮語以外の何物でもない事を苦い感傷と共に熟知していた。
その多くが無事に帰れなかったのを悔やむが、こればかりは身を持って知らないと中々納得をしてくれなかった。
「自分は死なないとか思っている奴から死ぬから、死ぬ前に覚えておいて」
そう冷たく言い放つと、それまでの期待に満ちた雰囲気が一転してナフィルの対する反発心を生んだが、逆に見返してやるという自信を示し、ナフィルは人知れずにうめいた。
「期待はさせないでおくわ」
ナフィルは明日遺跡に行くことを告げるため、ミリスの元を訪れた。
「調べるだけでもですか? アリュ−タはあの遺跡を開放するように求めています」
随分勝手な言い草だと思った。
「そもそも、私の力では調べるだけでも簡単な事ではないのよ。それを承知するように最初に言ったはずよ」
と不満をぶちまけてから、
「あなた、随分変わったわね。いえ、馴染んだというべきかしら?」
と皮肉った。
初めて会った時、そしてナフィルの家を訪れた時に比べて、今では自分の境遇を落ち着いて受け止めているように見える。
「今まで忘れていた事を思い出しただけです」
そう簡単には言うが、人間から魔術師となったナフィルから見て、それは自分以上にとんでもない事だと思った。
「あなたはこれからどうするつもりなの?」
その疑問は口にすべきではなかったのかもしれない。
「もちろん、あの遺跡が開放されるのを見届けるつもりです」
見当違いの答えに、ナフィルは改めて問い質す事はなかった。
「あっ、でっかい姉ちゃん帰っちゃうの?」
家を出たところで、ミリスの子に見咎められる。
その後ろで、不機嫌そうに、睨みつけているように少女が見ていた。
「また来るわ。お母さんの言う事を良く聞くのよ?」
残念そうなその子の頭を撫で、すれ違い様に少女に耳打ちした。
「取ったりしないから安心なさい」
結末の不愉快さを予見して、ナフィルはせめてもの心づくしにそう言った。

2日後の事。
ナフィルは、ようやく洞窟と繋がるあの部屋へと戻ってきた。
全身をびっしょりと濡らし、その不快感以上に疲労で重く感じる体を引き摺るように。
後少しで外に出られる。
そう、床に倒れこんでから思った。
まるで血溜まりが広がるように、染みが広がっていく。
それを、誰かが見ていた。
襲われるとも、助けてくれるとも思わなかった。
ただ、見ているだけ。
しかし、不思議とそれを自然に思えた。
そしてそれを無視して、ナフィルは思った。
後少しで外に出られると。
そこで、意識が闇に落ちた。
目の前で意識を失ったナフィルに、ミリスは歩み寄った。
無表情ながら少し思案げに指で唇に触れると、跪いてナフィルの額に触れる。
冷たい。
体温もそうだが、魔力がかなり奪われていた。
人間にとっても、魔力は魂の存在に関わる大切なものだ。
このまま放っておけば死んでしまうかもしれない。
だが、助けて良いものなのか、ミリスはアリュータの意思を確認する。
答えはない。
それはそうだ。
自分がアリュータなのだ。
記憶も愛情も、自分にとっては既に希薄で、アリュータの意識が今の自分の全て。
もう子を為せば人としての自分の役割は終わった。
この魔術師も、役割を果たせば必要は無い。
生かしておこう。
アリュ−タは手にした若木の枝をかざすと、ナフィルにその力を分け与えた。
異質の魔力が、アリュータに干渉する。
その不自然さに顔をしかめると、アリュータはナフィルを連れ、妖精界へと跳んだ。
そこには、雄々しく枝を広げる大樹があった。



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2008年11月10日 @ 10:46PM
予想以上に量があって、いっぺんに載せられませんでした。
大して中身も無いのによく書いたもんだと思いますよ。
曲がりなりにも最後まで書き上がったのはこれが最初だったです。
と言うことで3分割した最後を載せときます。

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2008年11月10日 @ 00:25AM
エルベの森は消しました。
クリシナの話も書かないとだけど・・・いつになったらそんな日が来るのかなぁ(遠い目)。
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November, 2008
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