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時刻は午前零時。けれど、街に真夜中なんて関係ない。ネオンの輝く通りを人々は流れるまま行き交う。酒臭く淀んだ大気を泳ぐ群れ。私もその中の一人だ。 おねえさん、遊ばない? 時折酔っ払いがまとわりつくが、私は知らぬふりをしてやり過ごす。女が一人きりで歩いて何が悪いの。 涼子は、強いからな。 そこがリッちゃんらしいところよ。わたし、好きだな。 遼司と美香の言葉が浮かんだ。 二人から結婚の話を告げられたのは二時間ほど前。遼司の口許から立ち昇るセブンスターの紫煙と、彼に寄り添う美香のすまなそうな表情は今も頭に残っている。 「……おめでとう」 バーのカウンターで彼らに返した台詞だ。素っ気ない私の返事を、二人はどう受け止めただろう。 いつもより多く飲んだはずなのに酔いはまったくない。それとも、自分でそう思っているだけか。裏通りへ進み、路地を通り抜け、私は家路に向かう。と、人けの無い道に出たところで歩みを止めた。 右手の雑居ビルの奥に、見慣れない店がある。 今にも崩れそうな、と形容したくなる木造の平屋で、小さなショーウィンドー越しに淡い光が漏れている。店はまだ開いているらしい。近寄って覗いてみると、陳列されている書画や陶磁器が目に付いた。深夜営業の骨董屋……こんなところに? 好奇心に掻き立てられ、私は古めかしい扉を薄く開けた。 外から見た以上に、店内は狭い。仄暗い照明に埃をかぶった陳列品。掛け軸に能面、刀剣……。 1 / 8 | NEXT
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