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「いらっしゃい」 どきりとした。 入口近くの腰掛に、老婆が座っていた。置物のように動かず、自身もまた陳列物であるかに見える。窪んだ目でこちらを捉え、 「ゆっくり見ていきなさい」 しわがれた声を出した。 私は店に足を踏み入れた。古美術のことは何も知らないけれど、隅の棚に据えられた人形には惹かれるものがある。おかっぱ頭に日本的な顔立ちは市松人形のようだが、身に着けているのは和服ではなく青いサテン地のワンピースだ。 「その人形が気に入ったのかい」 老婆の声がついてきた。 「市松人形だよ。まあ、鑑賞用というより玩具扱いのものさ。昔は洋装の市松人形なんて珍しくなかったんだろう」 確かに、人形は保存用のガラスケースも躰(からだ)を固定する台座もなく、裸足を投げ出して座った恰好で棚の上に置かれている。「手に取ってみていいですか?」 老婆が頷くのを確認してから、私は腕を伸ばして人形を抱き起こした。ずしりとした重さがある。 大きさは五十センチ位。洋服姿が、一般的な和装の市松人形よりずっと人間味を感じさせる。まるで本物の童女だ。指先で埃をはらうと、心なしか人形の表情が緩んだように見えた。 「その人形はね」 いつの間にか、席を立った老婆が傍らにいる。 「持ち主の願い事を叶える力があるんだよ」 私は改めて老婆を見た。飄々とした風貌がどこか人間離れしている。「……あなたは、この人形に何か叶えてもらったのですか」 老婆は首を横に振った。 「これは私(わし)のものではないのでね」 |
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